2022-23シーズンを持って、Mリーグのユニフォームを自ら脱ぐ決断をした者がいる。セガサミーフェニックスの大黒柱・近藤誠一(最高位戦)だ。個人成績は▲195.9で28位と確かに不振だったものの、ファンはもちろんチーム関係者たちも、来シーズンは力強い麻雀を取り戻し、最下位に沈んだチームを再浮上させるべく戦うものだと思っていた。それがシーズンオフの契約更新のタイミングで、体調不良を理由に辞退した。シーズン中、近藤はカメラの前で「(体力は)しんどいです。年々きつくなります。(引退は)身体がついてこないと思ったところが辞めどころ」と明かしていた。多くのファンの心を踊らせ“夢芝居”とも呼ばれた近藤は、どんな思いを持って戦っていたのか。
スケールの大きな麻雀で高打点を連発するかと思えば、冷静な読みで相手のアガリ牌をピンポイントでストップ。勝負どころで牌に念を込めるように引き入れたツモアガリで「カッ!」と声を出すシーンは、今もなおMリーグファンの心にしっかりと刻み込まれている。チームが準優勝だった2019-20シーズンは+332.0で個人3位、4着回避率でも0.954でタイトルを取るなど大活躍した。所属する最高位戦日本プロ麻雀協会のNo.1タイトル「最高位」も4期獲得するなど、今でも後輩選手たちに負けない力を持っていると周囲は疑わない。ではなぜ近藤は、Mリーガーとして自ら区切りをつけたのか。
若々しい麻雀の内容とは裏腹に、近藤自身は常に年齢、体調と戦ってきた5年間でもあった。自分より年上の前原雄大(元KONAMI麻雀格闘倶楽部)、沢崎誠(元KADOKAWAサクラナイツ)がMリーグを去り、2022-23シーズンでは59歳でリーグ最年長となった。「最年長はそんなに意識はしませんよ」と語っていたが、やはりコンディションの維持は難しい。「しんどいですね。年々きつくなります。特にMリーグは試合に出ると緊張もMAXだし」。雀士にとって商売道具とも言える目にも不安を抱えていた。「老眼に近眼、乱視、遠視、色弱で大変です」と、日常生活にも苦労する。ただしメガネの度数は常に麻雀の試合に合わせたものをつけている。「メガネは普段からこの度にしておく。急につけかえると(試合中)気持ち悪くなる。普段から慣れている方がいいですから」。日々の生活の一部を犠牲にしても、麻雀のことを第一に考えるプロフェッショナルだ。
勝負に向けた努力なら、なんでもするタイプだ。密着のインタビュー時、巣鴨にある赤いパンツを大量に売っている店を訪れた。今年の8月で還暦を迎えることもあるが、やはり赤は勝負の色、闘争心をかき立てるということから、不振のシーズンで自身に喝を入れようとした。「勝負事は何が起こるかわからないので、細かいことでもできることは全部やっておきたい。気分転換はすごく大事ですよ。必然的に勝ったり負けたりする競技なので、負けた時は絶対に気分転換が必要です。それが次の勝負に大きく影響します」。予備校講師から33歳でプロ入りし、もう四半世紀、麻雀に身を捧げる大ベテランは、こうして日々の勝負に向き合ってきた。
チームメイトも涙で勇退を惜しむ中、来期から今度は監督という立場でチームを率いることになった。またMリーグ以外の試合は体調を考慮しながらも出場を検討していく。Mリーグでの戦いに自ら幕を引いた。ここからはまた違った形で雀士であり監督である近藤が、別の演目でファンの胸を踊らせる。
※連盟=日本プロ麻雀連盟、最高位戦=最高位戦日本プロ麻雀協会、協会=日本プロ麻雀協会
◆Mリーグ 2018年に全7チームで発足し、2019-20シーズンから全8チーム、2023-24シーズンからは全9チームに。各チーム、男女混成の4人で構成されレギュラーシーズンを戦い、上位6チームがセミファイナルシリーズに進出。さらに上位4チームがファイナルシリーズに進み優勝を争う。優勝賞金は5000万円。
(ABEMA/麻雀チャンネルより)