連日報道される値上げの波。30年ぶりに値上げに踏み切ったある店を『ABEMA的ニュースショー』は取材した。
東京から車で約3時間の群馬県みどり市。着いたのは、日光と豊島区を結ぶ国道122号線沿いに佇むプレハブ小屋だ。
中を覗いてみると、自動販売機がずらっと並び、そのうち「食品」の自動販売機は4台。うどんのボタンを押して待つこと25秒、温かい商品が提供された。群馬名物のひもかわうどんに、季節によって具材を変えている天ぷらそば、チャーシューがのったラーメン、ハムチーズトーストなどを購入することができる。
栃木県から来たという男性2人に聞くと「4、5回は来ている。2時間半ぐらい」、別の男性は「多い時で月の半分は来ている。今日はお客さんが少ないほうで、いつもだったら車の中で食べたり、天気が良い日は車が停められない」と話す。
常連客が多い理由が、その値段。そばとうどんは250円。また、季節の天ぷらがランダムで出てくるおみくじ要素も人気だ。
運営する丸美屋自販機のオーナー・斉藤栄さんに話を聞くことができた。無人自販機のため常駐しているわけではないものの、「ここにいる時間のほうが長い時もある。作るほうは任せて(商品を)入れたり、片付けたり掃除したりでここにいる」と話す。
しかし、初めからうまくいっていたわけではないという。丸美屋自販機の始まりは、今から約50年前。
「先代が最初の自販機ブームで始めて、途中コンビニに押されてやめようかという時期はあった」(斉藤さん、以下同)
自販機ブームは過ぎ去り、赤字が続く日々。そんな危機的状況を救ったのが、SNSだった。レトロブームもあいまって情報が一気に拡散。自販機を求めて全国から訪れる客が急増した。この取材日も「高知県から」「福島の郡山市から」「地元は熊本。(旅の)最終目的がここ」。
なぜうどんを250円で提供できるのか。その秘密は「自分たちでやること」だ。麺につゆ、パン、天ぷら、買い出し・調理までをすべて行っているという。
「朝、市場に仕入れに行くが、起きるのは3時半。自分でなんでもしないと、この金額で提供できない」
安く提供するために惜しまず手間をかける。それがポリシーだ。料金を250円にしたのは30年ほど前。幾多の困難にも値上げせずにいたのには、「4人家族なら、250円を1人1杯食べても1000円で済む」というこだわりからだったが、ついに値上げの波が。
「今まで頑張っていただけど、もう材料費が上がっちゃって。こだわっていたら従業員の給料が払えなくなるから」
6月15日から、そば・うどん(250円→300円)、トースト(200円→250円)を値上げすることを発表した。
「ここで手を抜くとお客さんはすぐわかるから。今回の値上げも不安だった」
しかし、SNSには「何円でも食べに行きます」「値上げぐらいで足が遠のくファンなんていません」と、受け入れるファンのコメントが約100件届いた。
月の半分は来ているという先ほどの男性は「もっと上げたほうがいい。苦労知っていると」と話す。さらに、訪れた人が自由に書くことのできる思い出ノートにも、「これからも週1で通います」「ご主人のことを思うともっと値上げしてほしい!」といった声が。
そんな思い出ノートを始めて5年、今は95冊に達したという。
「温かい言葉をかけてくださる方がほとんどなんで、ありがたく思う。みんなのおかげでなんとかやっていられる。『おいしかったよ』『また来るよ』って言ってもらえるのが一番うれしい。そうするとまた頑張っちゃう(笑)」
これだけ愛されているのは、安さ以外にも理由がある。週2回は来るという40年来の男性が通う最大の理由は「食堂で食べているみたい。『懐かしいね』って感じで和気あいあいとね。自販機だけじゃ人は来ないよ」。
人気の秘訣はオーナーの人柄。さらに、お客の思いに応えるためこんなことまで。
「自分の携帯電話番号を書いてある。24時間いつでも対応できるように。寝る時は枕元、お風呂にも持っていく」
そんな生活は大変ではないのか?
「他の人に比べたら大したことない。まだまだ序の口」
(『ABEMA的ニュースショー』より)
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