家族や友人とトラブルに陥ることもあるなど、社会問題となっている「マルチ商法」。過去10年間にわたってマルチ会員として活動し、“最上位ランク”にもなった女性に当時の話や現在の心境を聞いた。
「友達や家族から信頼を失ってしまった」「今はまだもう罪悪感しか残ってない」
かつて約10年間にわたってマルチ商法の会員として活動していた夢子さん(仮名)。匿名を条件にニュース番組『ABEMAヒルズ』の取材に答えてくれた。
専業主婦だった夢子さんがマルチ商法と出会ったのは、友人の家に「上位ランク会員」が突然やって来たことがきっかけだった。
そこで「化学物質は毒。体にたまると病気になる」などと不安を煽るような話を聞かされた夢子さん。その後、体にいいという健康食品や化粧品などを扱うマルチ商法に誘われたのだ。
別の日に足を運んだ、マルチ会員が集まるランチ会では、月収百万円を稼いでる人に会わせてもらうなど、キラキラした“非現実的な日常”を見せられ、夢子さんは憧れを抱いたという。
マルチ商法では、知人などを勧誘して商品を購入させたり、販売組織に加入させたりすることで自らに報酬が入る。新たな会員は、また別の会員を勧誘するため、販売組織はピラミッド式に拡大していく仕組みだ。
夢子さんのケースでは、会員は売り上げに応じて、ランクが上がり、報酬の割合もアップしていったという。
高収入を得るにはとにかくランクを上げなければならないため、夢子さんは50~60人くらいに声をかけたという。そして時には、借金をして、自ら商品を購入したことも…。
夫とのすれ違いも増え、会員になってから3年後に離婚。気付けば、ランクは最上位となり、年収はなんと1400万円に。
しかし、本当に稼げるのは会員の中のほんのひと握り――。周りの会員もランクを上げるため借金をしていたという。組織内ではトラブルが多発し、自分は売り上げを上げているという見栄の張り合いも。
こうした日々に、精神をすり減らしていったという夢子さん。そんな中、夢子さんの職業を聞かれた娘が答えに窮した場面を目の当たりにしてショックを受けたという。
その後、SNSで目にしたのはマルチ商法の注意喚起をする人の存在。それまで、自分の活動を信じて疑わなかったという夢子さんだが、こうした書き込みを見るうちに「自分は間違っていたかもしれない」と感じ、退会を決意する。
マルチ商法に関する消費生活相談件数は、年々減少しているものの、無くなっていないのが現状だ。また、家族や友人とトラブルになるケースも少なくなく、国が注意を呼びかけている。
マルチ商法に詳しい弁護士によると、マルチ商法は法律では「連鎖販売取引」といい、その中の特定商取引法に則って行うことは違法ではないという。
こうした上で、契約時における書面交付の有無や、クーリングオフに関する説明がなされないなど、悪質なマルチ商法には注意が必要だと呼びかける。
また、SNSで目にする上位者の豪華な生活は、合法なマルチであればほんの一部で、会社で役員になるよりも難しいと話している。
現在は別の男性と結婚して生活を送る傍ら、マルチ商法に関する啓発活動を行っているという夢子さん。マルチ商法から抜け出せなくなっている人に向け、こう訴える。
「自分の信じたものがデタラメだったと認めることはとても勇気がいる。今すぐ認められなくてもいいから、少しずつ真実を知って一日でも早く抜け出してもらえたら」
なぜマルチ商法にハマっていくのか、臨床心理士・公認心理師で明星大学心理学部教授の藤井靖氏に聞いた。
「ハマった経緯には共通するものがある。最初は商材について『物がいいんですよ』『すごく価値があるんですよ』と、わかりやすいエビデンスを伴って説明される。そういうやりとりを繰り返していくうちに、徐々に人に対する信頼が芽生える。その信頼が生まれた瞬間、物に対する信頼性は二の次になって、『この人が言うことだから』『この人のために』『この人がそうだったら自分もそうなりたい』と考えてしまう。そうなると心理的にハマってしまい、組織の拡大や地位向上が自分の価値になっていってしまう」
辞めさせるにはどうしたらいいのか。
「例えば家族なら、『もういい加減に…』と言いたくなると思う。でも辞める辞めないの話は、ハマっているときほどうまくいかないもの。本人は信じきっているので、否定することは逆効果。『自分のしたいことをなんで邪魔するんだ』と反発につながったり、自尊心を傷つけられるような感覚になることもある。そのため、周りの人は肯定はしないまでも、別の役割や他に打ち込めるものを提案したり誘い出すなど、活動をプラスしていく視点を持っていかないとその人の人生は変わっていかない」
(『ABEMAヒルズ』より)
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