前WBOスーパーフライ級王者の井岡一翔(志成)とWBA同級王者のジョシュア・フランコ(米)によるダイレクトリマッチがいよいよ目前に迫った。昨年大みそか、両者は2本のベルトをかけて拳を交え、結果はまさかのドロー。互いのプライドをかけた再戦の行方を占った。

 世界のトップで10年以上戦い続ける井岡にとっても、今回ほど大事な一番は今までなかったかもしれない。昨年大みそかのドロー決着を受けて、井岡は悩んだ挙げ句に虎の子のWBOタイトルを返上。「ドロー決着は、自分もフランコ選手も納得していない」とライバルとのダイレクトリマッチを選択したのだ。

 この決断はかなり重い。前回の対戦は2人ともベルトを持っていたため、ドローでも互いに防衛成功となり、チャンピオンという立場に変化はなかった。打って変わって今回、井岡はリスキーな挑戦者という立場をあえて選んだ。

井岡がチャレンジャーとしてリングに上がるのは、2015年4月、WBAフライ級王者のフアン・カルロス・レベコ(アルゼンチン)に挑戦して以来、実に8年ぶり。挑戦者は負けはもちろん、引き分けでもタイトルを手にできない。タイトル返上は井岡の並々ならぬ覚悟の表われなのである。

 だからこそ井岡は今回の再戦に向け、高いモチベーションでトレーニングに入った。妻と幼い2人の子どもを東京に残し、ラスベガスで1カ月半に及ぶ合宿を行ったのは前回と同じだが、今回はさらなるレベルアップに向けて合宿の内容に修正を加えた。

 今までは渡米前に済ませていたフィジカル・トレーニングをラスベガスでも導入したのはその一つだ。佐々木修平トレーナーによると、「ジムワークに支障が出ないよう、短時間かつ効果的にトレーニングをしている」そうで、より良いコンディション作り、フィジカルの向上にプラスアルファを加えた。食事を作る専門のスタッフ、体のケアをするトレーナーを同行させたのも今回が初めてだった。

 これまで午後に行っていたジムワークを午前中に変えたのも注目すべき変更だろう。午前中であれば体はフレッシュで、高い集中力と持久力を持ってスパーリングに励むことができる。勝利に1ミリでも近づくのなら、やれることはすべてやる。34歳のベテランは徹底して高みを追求した。

 大みそかの第1戦はフランコが持ち前の手数と圧力で攻勢をアピールし、井岡がそれをしのぎながら要所でポイントを取る、という内容だった。井岡は試合を終えて勝利を確信したが、結果は115-113でフランコの勝利を支持したジャッジが1人、残り2人が114-114でドローという結果だった。

 井岡に反省すべき点があるとすれば、ロープを背負い、フランコに連打を許すシーンを何度も作ってしまったところだろう。本人にしてみれば「もらっていない」という意識だとしても、ジャッジの目には「フランコが押している」と映ったラウンドが多かったということだ。このあたりの修正を今回は求められている。

 公開練習で井岡は「明確に勝つことが一番なので、理想はKO勝ち。明確に倒しにいきます」と言い切った。井岡が最後にKOで勝利したのは2020年の大みそかで、このときは3階級制覇王者の田中恒成(畑中)を8回TKOで仕留めた。以来、5試合ぶりのKO勝利に強い意欲を見せている。

 一方のフランコは「KOは狙っていない。大切なのは試合を支配すること。そしてよりダメージを与えるパンチを打つこと」と再戦で勝利するキーポイントを指摘した。前回と同じように旺盛な手数で井岡に攻撃のいとまを与えず、より分かりやすいダメージング・ブローを決めて、ジャッジにアピールしようという目論みだ。

 ABEMAで試合を解説する元世界王者の内山高志さんは次のように見立てた。

「前回の試合、フランコ選手の手数が多くて、井岡選手は要所を押さえていたとはいえ、後手に回ったところがあった。だから今回のポイントは、井岡選手がいかに仕掛けていけるか。あの連打をつぶしにいくことが大事だと思う。フランコ選手は1、2、3、4発と続けて打ってくる。それを最初の1でリターンを返して後続を許さないとか、入ってくるときにジャブを合わせてつぶすとか。井岡選手のボクシングがはまれば大差判定勝ちもあり得る。でも、相手も考えてくるでしょうからどうなるのか。楽しみですね」

 井岡の最終目標はこのクラスの第一人者、WBCベルトを保持するメキシコのフアン・フランシスコ・エストラーダだ。井岡は「エストラーダと対戦するには統一戦でないと。そのためにはタイトルが必要になる。ここは勝ちたい」とステップアップを強調。勝てば天国、負ければ地獄。8年ぶりにチャレンジャーとなった井岡が絶対に負けられないリングに上がる。

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