これぞ武尊、さすが武尊という闘いだった。
6月24日、フランス・パリでの『Impact in Paris』。武尊は昨年6月の那須川天心戦以来、1年ぶりの試合をアウェーで迎えた。対戦相手はベイリー・サグデン。ISKA世界K-1ルールのタイトルマッチだ。
ABEMAとの専属PPVファイター契約を結んでの初戦。最低保証額1億円という破格の存在になった。階級は61kg。武尊にとっては最も重い。一方、サグデンは65kgでも試合をしており、過去KO負けがないファイター。簡単な相手ではなかった。
調整も日本と同じとはいかない。時差もあり、また計量や会見などのスケジュールもアバウトなことが海外では多い。
共に乗り込んだ大雅は、急きょ変わった相手に判定勝ち。白鳥大珠はKO負けを喫した。やはり敵地での試合は難しいし、相手も“ホーム”だから気合いが入っている。
サグデンは、その打たれ強さで我々を驚かせた。武尊は1ラウンドからローキックをヒット、鋭い右クロスも決まる。3ラウンドになると左ミドル、テンカオ、ボディブローをまとめていった。
このラウンド、2度のダウンを奪うと4ラウンドにも1回、そして5ラウンドにも。しかしサグデンはダウンのたびに立ち上がる。それどころか時折りカウンターを狙ってくるから気が抜けない。グローブが日本のものより大きく、パンチが効きにくかったという事情もあったそうだ。
“普通”の感覚でいけば、これは大差の判定勝ちというパターンだ。圧倒しながらも相手の粘りでKOは逃す。仕方がないと言えば仕方がない。特に外国人との試合では、相手が予想以上に打たれ強いことがよくある。
しかし、武尊はそのパターンで終わらなかった。ボディの防御に徹し、顔面へのパンチにはカウンターを狙ってくる相手に左のハイキック。試合終了間際の一撃で、KO負けの経験がないサグデンを失神させた。鮮やかとしか言いようがない。
日本と同じようにコーナーからの宙返りを決め、勝利者インタビューでは「ボンジュール! ビバ・ラ・フランス!」とアピールして地元の観客から大喝采を浴びた。
「海外のチャンピオンを倒していきたい。世界中にファンを増やして、世界中を熱狂させる試合をしていきたいです」
バックステージでのインタビューでは、そう語った武尊。まさに世界中のファンを熱狂させるようなKO劇だった。あの相手、あの展開でハイキックKOは“別格”の証明、スターだからこその勝ちっぷりだ。
自分よりも体格で上回る相手に対して、下がることなくグイグイと圧力をかける。ロー、ミドル、ヒザ、さらにパンチも上下に打ち分けた。武尊らしい闘い方だ。初の5ラウンドマッチだったが、ラウンドを重ねることで試合勘を取り戻すことができたという。あらゆる状況をプラスにもっていったわけだ。
やはり武尊は特別なファイターだ。そう実感した再起戦。試合中、試合後の笑顔も含めて“武尊を見る喜び”がそこにあった。
「勝ったら言おうと思ってました。僕はロッタンしか見てない。次はロッタンを倒しにいきます」
ついに“意中の相手”の名前も出た。世界最高峰の殴り合いへ。武尊のストーリーは終わらない。
文/橋本宗洋