「移植が当たり前だと思っていた。同室の患者さんが『ドナーがいなくて移植ができない』と話していて、自分は恵まれていると思った」
【映像】脳死と心停止、何が違う?「臓器移植」の種類(画像あり)
白血病の治療のため骨髄移植を行った、みやっちさん(29歳)。骨髄移植には健康な骨髄を提供するドナーが不可欠だ。みやっちさんは姉が適合者となり、発症からすぐに移植することができた。
移植する骨髄は、患者と同じ白血球型が求められる。たとえ、兄弟姉妹であっても一致する確率は4分の1。血のつながりがない場合、確率は数百万分の1とも言われる。
移植を必要とする患者は毎年約2000人。現在、骨髄バンクのドナー登録数は54万人いるが、約半数しか移植ができていないという。ドナーが不足している理由として、日本骨髄バンクの小川みどり事務局長は「せっかく患者さんが適合して通知を出しても『仕事を休めない』といった理由で前に進めないドナーさんがたくさんいる」と話す。
ドナーは骨髄提供をするまでに検査や診察、採取を含め8日ほどの通院が必要だ。いざ提供となっても「時間的に難しい」といった理由で思いとどまる人も少なくない。
骨髄ドナー登録には18歳から54歳までという年齢制限がある。現在、登録者のおよそ6割を占めるのが40歳以上だ。小川さんは「今40〜50代のドナーさんがとても多い。今後どんどん登録取り消しになる人たちが増えていく」と話す。
ドナー不足は骨髄バンクだけの問題ではない。日本で臓器移植を希望する人は約1万6000人いるが、それに対し、実際に移植を受けられる人はわずか3%程度だ。
自民党の議員連盟は5月31日、脳死が強く疑われる患者の情報を医療機関から早い段階で報告する制度の創設などを求めた提言を加藤厚労大臣に提出。7月からは、新制度として試験運用が始まり、臓器提供の促進をめざすとしている。
新制度について、日本移植学会理事長で消化器外科の医師の江川裕人氏はこう話す。
「通常の場合、脳死状態になった場合、家族から申し出があったり、あるいは医師から『こういうことができますよ』と移植の話が出る。家族が『一度話を聞いてみたい』となったら、日本臓器移植ネットワークに報告が入って、移植コーディネーターたちが家族に説明する。承諾が得られれば臓器提供につながる。お話を聞くことには8割の人が承諾する。『話を聞いてみよう』という一番の母数が増えると、ドナー提供の数が増えるのではないかと、議連の先生方は考えている」
その上で、江川氏は「重要なのは現場として、これをどのようになればみんなが納得できるのかだ。報告といっても、誰がどのタイミングでやるのか。漠としたグラスゴー・コーマ・スケール(※意識障害の評価指標)はあるが、みんながきちんと受け入れられるものを細かいところから作って、検証しながらやったほうがいい。臓器提供施設連携体制構築事業というものがあり、14の拠点病院と115のそれに連携する施設で、少しずつ体制を整えているところだ」と述べる。
『「自己決定権」という罠』(現代書館)の著者で、東京大学大学院客員教授の小松美彦氏は「制度化は一方的だ」と話す。
「少なくとも報告される患者さんはまだ脳死状態にすら至っていない。その人に対して、かけがえのない思いで見守っている家族、近親、知己がいる。制度化は生身の患者さんが、移植用の臓器を持った身体、ただの物として医療資源のように扱われているように思う」とした上で、小松氏は「臓器ドナーの不足は脳死者不足に他ならず、私たちが善意で考えていることが『交通事故や脳血管障害、自殺などで少しでも脳死者を増やそう』というブラックユーモアのように感じられる」と指摘した。
近畿大学情報学研究所所長の夏野剛氏は「骨髄移植、あるいは血液の献血も含めて、これに金銭的報酬を払うことに『よくない』という考え方が日本の医学界は強い」と指摘する。
「圧倒的に足りていないものに対して供給を促すためには、どこかで経済的インセンティブを考えるのが一番効果的だ。『貧しい人が骨髄や臓器を売ってしまう』という議論も理解した上で、経済的なインセンティブを少し入れていく時期に来ているのではないか」
これに対し、江川氏は「臓器提供あるいは検査の時の収入、それから会社のサポートを国や自治体がきちんとやるべきだ。お金をあげるインセンティブではなく、サポートのインセンティブが必要だ。不利益をゼロにしてあげることは正しい行いだと思う」と述べた。(「ABEMA Prime」より)
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