勝利至上主義は悪? 本田圭佑「日本は全然行き過ぎてない。むしろ弱すぎ」 自身の原動力は負けていること「大谷さんを見て“上には上がいる”と思うと悔しい」
【映像】子どもの全国大会って必要? スポーツ教育熱論
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 去年、小学生の一部の全国大会を廃止すると発表した全日本柔道連盟。背景にあるのが、「試合に勝つことが全て」だという勝利至上主義への批判だった。もちろん勝利を目指すことは悪いことではないものの、指導者が子どもに無理な減量をさせるなど“行き過ぎた指導”が近年問題視されていた。

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 全国大会を中止する風潮は広がりつつあり、他のスポーツでも中止を検討する動きもある。一方で、指導者や保護者らの約6割からは「子どものモチベーションが高まる」「競争社会の現代。争うことが大切」「悔しい経験は将来の役に立つ」など、全国大会が必要という声もあがっている。

 子どもの全国大会は必要なのか。勝利至上主義の是非は? 初となる10歳以下のサッカー全国大会を4人制で開こうとしている、サッカー選手・監督・実業家・投資家の本田圭佑氏をMCに据え、『ABEMA Prime』で徹底議論した。

■子どもの全国大会は必要?

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 子どもの全国大会“不要派”の柔道家・日本オリンピック委員会元理事の山口香氏は「子どもが“勝ちたい”と思うのは決して悪いことではないが、往々にして指導者や保護者が勝利至上主義で、子ども自身ではコントロールできなくなる。例えば、“自分はこの階級で出たい”と言っても、“そこでは勝てないだろう”と無理な減量に誘導されてしまい、柔道やスポーツが嫌いになってしまう。良い指導者や練習相手がいるか、そして親が応援してくれている環境は子どもにはなかなか作れないので、全国大会はもう少し大きくなってからでいいのではないか」と話す。

 一方、全国大会“必要派”である、青山学院大学陸上競技部監督の原晋氏と元プロ野球選手で野球解説者の古田敦也氏は、それぞれ次のような見解を示す。

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「山口さんを批判するわけではないが、すべて大人の論理で物語を作っている。全国大会を行うことと大人の考え方をイコールにしてしまっているが、全国大会=悪ではなく、大人側の教育をするべきではないか」(原氏)

「“行き過ぎた”という言葉がどこまでのことを指すのか整理すべき。例えば、審判に向けた罵声が駄目だと言うが、中学生はいいのか。健康上良くないほどの減量をするのも、中学生以上ならいいわけでもない。“大人が強いることが問題だ”という話であれば、全国大会に問題があるわけではないと思う」(古田氏)

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 今回本田氏が考案した4人制サッカーは、前後半はなしで1試合10分、監督はなしで選手交代は本人たちの自由(何度でも可)、ボールを持ったら20秒以内にシュートを打つ、など独自ルールだらけだ。

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 本田氏は「大人も自分の子どもがかわいいから関与しすぎてしまうので、そこのコントロールが難しい。大人の意向が反映されないように、ちょっとしたルールで問題をしっかり整理していくことが大事で、白か黒かではなく間を攻めていかないといけない」と説明。その上で、「プロになった時に勝てる選手にするために、今は負けても強気な戦術を選んでいる指導者も実は多くいる。また、野球などであまりに速い球を投げる1人ばかりがクローズアップされるが、他にも良い線で争っている子はいっぱいいる。そこはメディアや教育など、いろいろ議論する余地があるのでは」と問題提起した。

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■本田圭佑「日本は全然行き過ぎてない」 勝利至上主義の是非

 「プロ」が存在する以上、勝利至上主義を否定できないのではないか。本田氏は「大人になったらこれだけ矛盾や厳しい現実を押しつけられ、自分で考えて生きていかなければならない世界に放り込まれる。勝ち負けを目指すプロセスの中で、自分で知恵を絞って学ぶことは絶対に必要だ。確かに、1番を目指したくない人はやらなくていいけど、逆に僕みたいに子どもの頃から1番を目指していたヤツから全国大会を取り上げることはどうなのか」と指摘。一方で、「柔道界にも今までにない子どものルールを作れるようなイノベーター・改革者が現れれば、子どもを“下に落とす”必要はないのではないか」とも述べる。

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 山口氏は「柔軟な考えでいろいろな大会が設定できれば一番いいと思う。ただ、全国大会は体重をどうするか、予選はどうするのかなど、ルールをきちんと決めないといけない。私から言わせると、小学生が1番を目指さないといけない根拠がわからないが、全国大会はみんなが向かわざるを得なくなる。中学校の大会は、公立校であっても強豪校であってもみんながそこを目指し、強いところと弱いところが1回戦で当たって、サッカーなら10対0とか。そこで“頑張った。強いところとやれて良かった”と思えるだろうか」と投げかけた。

 目の前の勝ちに執着してしまうことが、結果的に強い選手を育成する機会を失うことになるという懸念がある。本田氏は「いろいろな世界を見てきたが、これだけ中学校・高校・大学で全国大会や部活が充実している国はない。もちろん悪い側面があるにしても、母数としてはほぼ子ども全員が何かしらかの部活に所属して競走してきた。その成果として日本がスポーツ大国なのは認めざるを得ないだろう。WBCでもすごくいい結果を出し続けているし、サッカーもヨーロッパに行く選手がどんどん増えている。これを完全否定すると、他のいろいろなものを否定することにつながるので、うまく議論しないといけない」との考えを述べる。

 さらに、大会で勝敗がつくことにより“負け犬”だと思ってしまう人を生むのではないか。「負けたヤツが評価されないのは社会の問題で、全国大会があって順位を決めることが悪いわけではない」とした上で、「日本の勝利至上主義は全然行き過ぎてなくて、むしろ弱すぎ。このままだと日本はどんどん衰退していく。全国大会を廃止している場合じゃない」との持論を展開した。

 本田氏は小学2年生でサッカーを始め、中学生の時にガンバ大阪ジュニアユースに所属。星稜高校では全国ベスト4、その後名古屋グランパスエイトとプロ契約し、海外リーグ挑戦……という道を進んできたが、一直線ではなかったという。

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「中学校の時に僕よりうまい子はいっぱいいて、祖父母からも『諦めなさい』『お前も十分挫折をしている』と。でも、夢を持って前を向いていたので、何とか父親を説得して星稜高校に行かせてもらった。むしろ勝ち続けているヤツに僕は否定的で、もっと負けたほうがいい。負けて負けて負けることで、“次は負けたくない”という情熱が、今は“ワールドカップで優勝していないこと”が人生のエネルギーになっている。だから、大谷さんはよくあんなに謙虚でいられるなって。僕だったら完全に天狗になって、“今日のホームラン見たか?”と言いまくるだろうなと(笑)。“上には上がいるな”と悔しく思うから、次は勝ちたい」

 とはいえ、そう思えたのは“本田氏だから”なのではないか。「自分の成功体験をちゃんと肯定して、その経験を次世代に伝えていくことは使命として感じている。でも、僕がやっていることを全て肯定する気はさらさらない。子どもが選べる社会、親があまり関わり過ぎない社会であるべきだと思う」とした上で、自身が開催する大会について「負けることも評価していくような大会にしたい」とした。

■山口氏「スーパースターは育てるものではなく、育つような環境があることだ」

 古田氏は「子どもが減り、娯楽が増えてきて、スポーツにおける豊かさって何だ?というところから考えていくと、子どもを地域で支えなきゃとか、みんなで育てるんだという風潮があると思う。学校の先生だけに負担を負わせないということも考えると、これからテストケースとしていろんなものが出てくると思うし、本田さんの活躍にも期待したい」と話す。

 原氏は「スポーツは社会課題を解決する道具に利用されている側面がある。敗戦国である日本は国を一つにまとめるため、軍事教練の流れで体育というものがあった。金太郎飴集団を作り、上から言われたことに“はい”と従うのがよい子だった。今日、“個性を大切にしましょう”“天才をどんどん出していこう”という中で、大谷さんみたいなスーパースターが生まれ、本田さんのような人が認められる文化になってきた。個性を大切にするのであれば、全国大会やレクリエーションなどいろんなやり方があり、みんなが同じ方向に向く必要はない。そういう社会になっていることに気付くべき」とコメント。

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 山口氏は「大会を廃止したことでこんなに議論ができる。そういう場を提供しただけでも全柔連はよくやったと思う。本田さんの話を聞いていると、スーパースターは育てるものではなく、育つような環境だと本当に思う。そういうところに大人がもっと注力して、大会ももちろんそうかもしれないが、いろいろな可能性を子どもたちに与えてあげたい」と述べた。(『ABEMA Prime』より)

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