沖縄の海で行われる伝統のお祭り「糸満ハーレー」。海の恵みに感謝し、航海の安全を祈願するものだが、その中で今、物議を醸しているのが、海に放たれたアヒルを捕まえるイベントだ。これが動物虐待にあたるとして非難や中止を求める声が集まっている。
【映像】“垂直の壁”を登りきれず転げ落ちる馬 「上げ馬神事」
問題はこれだけではない。武者姿の若者を乗せた馬が急斜面を駆け上り、最後に高さ約2mの壁を乗り越える三重の伝統祭事「上げ馬神事」。今年の祭事中に馬が転倒し負傷、安楽死させられたことが批判の的になっている。祭事が行われた多度大社は「馬にとって一番楽な方法をとった。参加する馬に対しては適切な処置や治療を行い、動物愛護に関する法規を順守する」としている。上げ馬神事は約700年続く三重県の無形文化財でもあるが、5月、環境保護団体が動物愛護法に違反するとして、三重県警に告発状を提出している。
世界でも多くの祭事や神事で動物を傷つけたり命を奪うことが続けられ、動物虐待と批判を受けることがしばしばある。伝統重視で続けるべきなのか、現代の基準に合わせて変化していくべきなのか。『ABEMA Prime』で議論した。
上げ馬神事の問題点を長年調査する、「動物との共生を考える連絡会」代表で獣医師の青木貢一氏は、「感覚も痛みも感じる動物に、乱暴なやり方でそれを与えているのは非常に問題があると思う。虐待的な位置付けになるのではないか」とコメント。
一方の糸満ハーレーについて、北海道大学教授で宗教学者の岡本亮輔氏は「参加者にとっては恒例の行事だと思うが、違和感を覚える人が出てくるのは仕方がないと思う。祭りや儀礼という伝統文化と、現代の社会の価値観や感覚というズレの部分は常にあるのではないか。やはり伝統が長く継承されていくには、どうしても変化しなくてはならない。そういう問題提起を含んだ出来事なのではないかと捉えている」と話す。
アヒル取り競争について糸満市は、中止を求める声が市にも届いているとした上で、中止を呼びかけることはできないものの、実行委員会に「意見をもとに議論して」と伝えているという。2011年には、沖縄県から「アヒルも命あるものと認識させること」「首や羽などを強く握らないよう指導すること」などの取り扱いの改善勧告が出ており、イベント中も実行委員が呼びかけているが、一部守っていない人がいるということだ。
概念が失われ、ただアヒルを追いかけて捕まえるだけの祭りに見えてしまっていないか。岡本氏は「お祭りは“ハレの日”といい、日常的なルールや縛りが一時的にキャンセルされる空間なわけだ。糸満ハーレーに限らず、日常では避けられるような乱暴さが許容されるお祭りを年に1回やることによって、そうでない日に活力を与える機能もある。俯瞰して見れば、糸満ハーレーの日だけアヒルを掴み取りすることにもそういう意味があるかもしれない」と述べる。
では、かたちを変えれば続けていけるのか。青木氏は「やはり伝統的なものになると、生きているものが逃げているのを追いかけて捕まえるというのがポイントになっている。問題はその捕獲方法。苦痛を与えない捕まえ方があるのかどうかが一つのポイントになると思う」との考えを示した。
上げ馬神事では、保護団体が関係者130人以上を刑事告発したことで周囲の見る目も変わるのではないか。青木氏は「過去に検察が不起訴にした最大の理由が、“私たちしか虐待だと言っていない”から。他の団体や個人からは暴力・虐待だという声は届いてこない、だから嫌疑が不十分だ、ということだ。上げ馬神事そのものが県の無形文化財になっている、いわゆる“お墨付き”が出ているものだから、多度大社は我々の要求を全然聞いてくれない。それでここまで来ていて、コロナでこそ4年間は中止になったが、再開した途端に骨折馬が出て安楽死になってしまうという今回の事態が起こった」と述べた。
岡本氏は「文化財の視点は、古くからあるものを保護する、そのままできるだけ伝承していこうという観点からなされる場合が多い。2つの祭りを見て思ったのは、どちらも間違いなく“神様のために”と思ってやっている方々が今もいること。一方で、日本全国いろいろなお祭りの人気が出てきて、観光客のことも意識する、つまり神様と人間の両方に配慮するようなかたちになってきていると思う。この避けられない流れの中で、より派手な動きや乱暴さみたいなものが求められてしまい、こういう出来事が生じていると感じている」と投げかけた。
その上で、「ただ、神事のあり方を少しずつアップデートすることは可能だと思う。一切中止にするということではなく、部分的に改善して、より現代にフィットしたかたちを模索する。その方向に進んでいけばいいと思っている」と述べた。(『ABEMA Prime』より)
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