将棋界の早指し団体戦「ABEMAトーナメント2023」予選Eリーグ第1試合、チーム渡辺とチーム千田の対戦が7月8日に放送された。初参戦の千田翔太七段(29)率いるチーム千田は、現役最年少棋士・藤本渚四段(17)が躍動。順位戦A級所属の渡辺明九段(39)、佐々木勇気八段(28)から金星を奪い、チーム勝利に大きく貢献した。カド番のピンチでは千田七段、西田拓也五段(31)が奮起し5勝4敗で勝利。第3回大会準優勝経験チームの常勝軍団を破り、予選突破へ前進した。
予選最終リーグが開幕。大会初出場のチーム千田は、渡辺九段のチーム渡辺、大会4度の優勝経験を持つ藤井聡太竜王・名人(王位、叡王、棋王、王将、棋聖、20)率いるチーム藤井が名を連ねる過酷なEリーグへの参戦となった。第1局には、チーム唯一の大会経験者でもある西田五段が出陣。チーム渡辺の岡部怜央四段(24)を得意の四間飛車で打ち破り、まずは1勝を持ち帰った。
続く第2局は、タイトル通算31期の渡辺九段と17歳の新人・藤本四段が激突。最年少棋士は「自信はないが(渡辺九段と)指せることが嬉しい」と顔をほころばせながら対局場へと向かった。トップ棋士を相手に、後手番の藤本四段は得意の雁木を志向。渡辺九段は矢倉の出だしから攻めに出たものの、盤を前にした藤本四段は終始冷静だった。渡辺九段の鋭い攻めを全て受け切り、圧倒。敵将撃破の大金星を挙げた藤本四段は、どこか所在なさげに瞬きを繰り返しながらも「一生忘れないと思います」と喜びをかみしめていた。
2連勝で勢いに乗るチーム千田は、藤本四段の続投を決断。流れを引き戻したいチーム渡辺からは、A級昇級を決め波に乗る佐々木八段が登場した。フィッシャールールでも経験豊富な佐々木八段との一戦は、相掛かり戦が千日手に。渡辺九段との一戦では高い受けの技術を見せた藤本四段が、指し直し局では受けから攻めにギアチェンジして幅の広さを見せつけた。互角の局面が続いていたが、攻撃のターンを手にした途端に止まらぬ勢いを見せ佐々木玉を詰みに討ち取った。完勝ぶりは控室の渡辺九段も「いや、強い…」とつぶやき、驚きを隠せない様子だった。
A級棋士が連続で討ち取られたチームの危機に、チーム渡辺の岡部四段が奮起。第4局で新人対決が実現すると、勢いに乗る藤本四段の粘りを振り切って鋭く寄せ切り、チーム待望の初勝利を持ち帰った。気鋭の若手が持ち帰った白星に先輩棋士も背中を押されたか、それぞれ今期初勝利を飾り一気に4勝連勝。チーム千田はカド番に立たされることとなった。
後がなくなった第8局では、千田七段が「責任を取るという形で私が」と出陣。第5局で敗れた渡辺九段との2度目のリーダー対決に向かった。棋王戦五番勝負の舞台でも対戦経験のある両者の戦いは矢倉の出だしに。絶対に負けられないと闘志をみなぎらせた千田七段が138手で勝利。フルセットにつなげる大きな任務を遂げ、「ホッとしました。チーム“シーソーゲーム”という名前の通り、追いつ追いつかれつの大接戦になっている。もう後は西田さんを全力で応援するのみ」と柔らかく微笑んだ。最終局は佐々木八段VS西田五段のカードに。大勝負を任された西田五段だったが、巧みな勝負術で相手に穴熊を組ませず、振り飛車会心の指し回しで快勝。安定感抜群の力を見せつけチームの勝利を決めた。
3連勝から4連敗、最後は2連勝でチーム初勝利を飾ったチーム千田。千田七段は「チーム全員でつかみ取った勝利」とドラマチックな試合展開を総括した。勝負所の第8局を振り返り、「指す側としては、そういうピリピリしたプレッシャーや懸かっているものが大きければ大きいほど力が入るもの。そういうところで勝って西田さんにつなげられて、本当に良かった」と笑顔を見せた。第1試合で一気にその名を揚げた藤本四段は、「1局目に西田先生が勝ってくれたので、リラックスして対局に臨めた。千日手局や負けた将棋には反省するところも多いので、直していきたい」と次戦に向けて気を引き締めていた。
◆ABEMAトーナメント2023 第1、2回が個人戦、第3回から団体戦になり、今回が6回目の開催。ドラフト会議にリーダー棋士14人が参加し、2人ずつを指名、3人1組のチームを作る。残り1チームは指名漏れした棋士が3つに分かれたトーナメントを実施し、勝ち抜いた3人が「エントリーチーム」として参加、全15チームで行われる。予選リーグは3チームずつ5リーグに分かれ、上位2チームが本戦トーナメントに進出する。試合は全て5本先取の9本勝負で行われ、対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。優勝賞金は1000万円。
(ABEMA/将棋チャンネルより)