「“伐採するな”一辺倒の議論になってることに違和感」神宮外苑の再開発の狙いは?ルール通りに進めるだけではダメ? 住民との合意形成の形は
【映像】神宮外苑まちづくりの各種完成イメージ
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 過密都市・東京の中で木々の緑が生える明治神宮外苑。国立競技場や神宮球場、秩父宮ラグビー場などスポーツ施設が並ぶ中、今、進められているのが神宮外苑の再開発だ。老朽化した神宮球場とラグビー場を建て替え、公園施設を整備し、高層ビル2棟を新たに建設する大事業となっている。

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 この計画をめぐっては反対の声が上がっている。その中には3月に亡くなった音楽家の坂本龍一さんなど多くの著名人がいることも注目の的に。反対する人々の多くが懸念しているのが樹木の伐採だ。計画では神宮外苑にある樹木が伐採や移植される予定で、環境破壊が危惧されているという。

 一方、事業側は再開発の意義について、建て替えによってスポーツの一大拠点を作り、緑やオープンスペースを増やすことで来訪者が安全に楽しめ、広域避難場所としても使えるまちづくりを目指すとしている。また、「神宮外苑の緑は時代の変化の中、人の手によって更新されながら今の姿になったものだ。今回の計画も安全性と環境維持を考えて必要な緑を更新していく」と説明した。植樹などで結果的に樹木の本数や緑化面積が増えるとして理解を求めている。

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 来月にも始まる伐採を前に、再開発の意義や環境への影響について『ABEMA Prime』で議論した。

 明治神宮外苑を子どもの未来につなぐ有志の会代表の加藤なぎさ氏は「私たちは反対一辺倒の団体ではなく、地域で子育てをする世帯として、子どもが育つ場所がこれからどう変わっていくのか説明をしてほしいという立場だ。事業者の発信を見ると、確かに緑の面積が増える。だけど、100年経った大きな樹木の1本と新しく植える若木の1本とでは役割が全然違う。増える緑の面積も、芝生、植栽、屋上緑化が含まれているが、100年の木々に対してはやはり貧弱ま。また、元の緑の面積に絵画館前広場を含んでいないので、そもそも比較の対象が違うということを日本イコモスが指摘していて、ここも知りたいと思う」と説明。

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 一方、NYを拠点に活動する都市建築家の重松健氏はロジカルな議論をすべきだとし、「問題は施設の老朽化と、超一等地でスポーツビジネスを成り立たせていくには非常にお金もかかるし、それが難しいということ。複合的に組み合わせてビジネスとして成り立つことを考えないといけない、というのが出発点だと思う。“私有地だから好き勝手にやってもいいでしょ?”とは一言も言っていなくて、どうしても必要なところは伐採するけど、それ以上の木を植えたり、オープンスペースも倍ぐらいにして、子どもたちが遊べるような環境も作りながら、しっかりとスポーツイベントが組めるような施設を作っていくということだと思う。“この街をどうしていきたいか?”という総論の中で、どこかで線は引かないといけないし、バランスポイントを置くことはどんな議論でもあると思う。そこで“伐採するな”一辺倒になってしまうことには違和感がある」と指摘する。

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 これに加藤氏は「おっしゃるとおり、都市は育っていくもので、アップデートを続ける必要があることは反対している方もわかっている。ただ、その中に市民や専門家の意見を含んでほしいというのが、皆さんが訴えていることだと思っている」と理解を示した。

 事業主体は三井不動産、明治神宮、日本スポーツ振興センター、伊藤忠商事の4団体で、東京都は法令等に基づき許認可を行う立場。つまり、自治体の事業ではなく、大部分は明治神宮が所有する私有地でもある。そこで開発を行うことに文句は言えないのではないか。

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 リディラバ代表の安部敏樹氏は「高層ビルで収入を得て、それを元に森やスポーツ施設を管理していくというのは、個別の事業者のモチベーションとして極めて健全だ。一方で、街づくりはそこに住んでいる人々が決めていく話でもあるので、最終的には政治マターになっていくし、行政が舵取りをしていく義務があると思う。建蔽率をどれぐらいにするかなど、いろいろなことを政治は変えられるという点から見た時、地域住民が嫌がっていることには一定、耳を傾けなきゃいけない。これまで行われてきた他のエリアでの再開発を見た時に、必ずしも地域住民たちの納得がいく形になっていないというのは予測しているわけだ。何が揃うと前に進むのか、私有財産とはいえ行政の介入をどこまで許容するのかというのは、ルールの変更も含めて議論したほうがいいと思う」との考えを示した。

 事業者側は法令・条例に基づき、関係行政とも確認の上、これまでに6回の説明会を行ってきた。また、反対派の声を受けて、17日からは追加の説明会を実施する予定だ。

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 しかし、加藤氏は「住民の声を聞く気がない」と指摘。「住民らとの対話が不足。開かれた説明会の実施を」「説明会の参加者や範囲が限定的」「21万人分の反対署名に対し定員が少ない」「文書やFAXを受け取ってくれず口頭のみ」などを問題点としてあげている。

 「6回の説明会も、範囲190m内でビラを配られた人が参加できるもので、知らない間に終わっていたという人もいる。また少し離れた場所に暮らす人は開発自体を知らないまま進んできたし、開発が明らかになった時には条例も全て変えられた後だ。今さら手の施しようもないが、説明会に関しては広く区切りのない、誰もが望めば参加できる形で、かつ対話ができて市民の意見をしっかり組み込めるものを求めている。追加の3回に関しては対象範囲を2倍の380mにしているが、1万3000人分のビラを配っているのに、会場は400席ぐらいしかない。つまり1200人にしか説明する気はない」

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 安部氏は「街というのは、部分的に最適化した結果、全体最適を損なうことが非常に多くある。シャッター商店街はまさにわかりやすいパターンだ。私もいくつか街づくりのコンセンサスメイキングに関わったことがあるが、非常に複雑になる確率が高い。その中で“今あるルールはクリアしているから”というコミュニケーションになるとうまくいかない。そもそもルール自体に対する違和感があったりする」と説明した。

 加藤氏は阪神甲子園球場で行われたリニューアル工事を引き合いに、「神宮球場より1歳年上の100歳で、老朽化も同じように進んでいたが、試合を一切止めずに改修を3年かけてやった(※)。そういう前例があるし、民間からも知恵を募集すればいいと思う。まずは修理ができないか、そのあとで最後に建て替えという話が出てくるべきではないか」と投げかける。
※編集注:工事が行われたのはプロ野球がシーズンオフの概ね10月~3月の期間

 これに重松氏は「そういうのは全てスタディしている。自分でもプランやバックグラウンドを調べたが、よく考えられていると思うし、金儲けのためだけにやっているということは全然ない。ひとつずつ検討を重ねて出した最適解が今で、やるべき手順を踏み、さらに住民説明も拡大して開こうという体制をとっている」と現状への見方を示した。

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 一方で、重松氏は高層建築物というビジネスモデルに警鐘を鳴らす。「僕は“床の呪縛”とよく言っているが、とにかく床をいっぱい作る形しか今のところビジネスモデルがない。地域貢献しても、結局は容積率アップでどんどん床が増えていくという構図は、どこかでアップデートしないとリスクがあると思う」。

 安部氏は「ルールを決めるのは都あるいは国だ。まさに高層ビルを作りまくっていく街づくりに対して、いずれどこかで都民がノーと言い出す時がくると思う。おそらく神宮外苑の再開発がその分水嶺だ。どこに上限を作ると都民や国民は納得するのかという話になってくると思う」と述べた。(『ABEMA Prime』より)

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