「正直びっくりした。なんでその場で言ってくれなかったのか」。そう語るのは元看護助手の西山美香さん。2007年に湖東記念病院(滋賀県東近江市)での患者の死亡をめぐり、懲役12年の有罪判決が確定し、服役して出所した後、再審請求が認められ、無罪を勝ち取った冤罪(えんざい)の被害者だ。
西山さんは無罪が確定してから、国と滋賀県に起こした損害賠償の訴訟で、裁判所から「そのTシャツ、メッセージ性があるので、法廷では着ないでください」と言われた。
西山さんが着ていたのは「INNOCENCE PROJECT JAPAN」と書かれたTシャツだった。イノセンス・プロジェクト・ジャパンとは、DNA鑑定など科学的手法によって、冤罪の救済・検証に取り組む団体だ。西山さんの冤罪証明にも大きく関わっている。
弁護団は、2023年6月22日の弁論後、大津地裁から「法廷警察権」に基づいて、今後裁判所構内ではメッセージが見えないような措置をとってもらいたい、と伝えられたと言う。
なぜ、このTシャツの着用が禁止されたのか。
最高裁が定める「庁舎等の管理に関する規定」では、はちまきやゼッケン、腕章、その他これらに類する物を着用する者の立入りを禁止、または退去を命じなければならないとされている。
西山さんの弁護団団長で元裁判官の井戸謙一弁護士は、ゼッケン等が規制されてきた理由を「審理に悪影響を与えるから」として、「法廷が『政治的な主張をアピールする場』になってはならない」といった考えのもとだと説明する。
「『イノセンス・プロジェクト・ジャパン』というTシャツに、何らかのメッセージ性があるのであれば、『無実の人は無罪にすべき』。西山美香さんが、まさにその被害者であって、ようやく無実であったのが、無罪という形で結実した。ある意味、彼女のメッセージを出しているようなものであって、裁判所は規制すべきではない」(井戸弁護士)
2021年10月には、大阪地裁での同性婚に関する訴訟で、傍聴人がレインボーカラーのマスクを着用していたところ、白いマスクに付け替えられるよう要請された。また2022年7月には、福島地裁での原発事故避難者の訴訟で、傍聴人が大飯原発の運転差し止めを命じた福井地裁の判決文の一節をプリントしたTシャツを着用し、退去命令が出た。
井戸弁護士は、これらは傍聴人に対するもので、意見を訴える側の原告に要請するのは「違憲」だと主張する。弁護団は7月27日、大津地裁に意見書を提出している。
井戸弁護士は、裁判所が「今後そういうものを着てくると、そもそも法廷に入れないかのような言い方をした」と言う。
「こんなことで原告としての訴訟口上の権利を制限するなんてあってはならないこと。表現の自由を規制するかどうかという問題になる。そもそもどんな服を着るかは、全く私的な領域のことであって、公権力からとやかく言われるべき筋合いのものではない」(井戸弁護士)
映画『それでもボクはやってない』(周防正行監督)に登場する人権派裁判官のモデルとなった、元東京高裁判事の木谷明弁護士(ひいらぎ法律事務所)は「多少微妙な問題はあるが、少し神経質になりすぎではないか」と指摘する。
「これが有罪・無罪を争う裁判であれば、『イノセンス(無罪)』というのは意味があり、そういう要素が出てくるかもしれない。今回は有罪・無罪を争う想定ではないですよね。国家賠償を請求している裁判ですから。イノセント(無罪)であったことは、もう確定している。強調する必要はない」(木谷弁護士)
(『ABEMA的ニュースショー』より)
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