2022年6月29日に大分県別府市で起きた、大学生ひき逃げ死亡事件。
信号で止まっていたバイク2台に軽乗用車が追突し、19歳の大学生1人が死亡、1人がけがをした。警察は道路交通法違反の疑いで、八田與一(はった・よいち)容疑者(26)を全国に指名手配しているが、事件後1年を経てもなお、逃走を続けている。
遺族や支援者は2023年8月10日から、オンラインでの署名活動を開始する予定だ。亡くなった大学生の父親に、このタイミングで署名を始めた経緯を聞いた。
「事件からもう1年を過ぎてしまって、まだまだ知らない方もたくさんいる。皆さんの力を借りて、電子署名という形をとって、もっとたくさんの人にこの事件を知ってもらって、いち早く容疑者の逮捕に向けていきたいという考えです」(亡くなった大学生の父親)
遺族は、現在の道交法違反容疑から、殺人罪への変更を求めている。遺族はこれまでも、警察の捜査だけには限界を感じ、自費で500万円の懸賞金をかけてきた。また、遺族と「ママ友」たち有志による「大分県別府市大学生死亡ひき逃げ事件早期解決を願う会」(別府願う会)も、SNSを通じて、懸命な情報収集を続けている。指名手配ポスターに加えて、名刺サイズのビラも作成するなど、地道な活動を続けているが、有力な手がかりはつかめていない。
「やはり捜査をして捕まえるのは、日本の警察だと信じています。警察の皆さんに頑張っていただき、協力いただいて、国民の皆さまにも一つでも多くの情報を寄せていただきたい」(「別府願う会」事務局長)
八田容疑者は事件発生時、法定速度を大幅に超えるスピードで追突したとみられ、車はそのまま電柱にぶつかり大破した。しかし八田容疑者は、被害者を救護せず、その場からスマートフォンも財布も持たず、はだしで逃走している。事件直前には、亡くなった大学生が近隣のショッピングセンターで、八田容疑者とみられる男から、一方的な言いがかりをつけられていたことがわかっており、警察は故意に車をぶつけた可能性もあるとみている。
遺族が訴える「道交法違反容疑」から、時効が存在しない殺人罪への変更。一般的に殺人罪の適用には、被疑者の殺意の有無が重視されると言われる。ただ容疑者が逃走中で、供述が取れない場合はどうなるのか。元東京地検特捜部検事の若狭勝弁護士に聞く。
「『本人の供述を聞くことが今できないから、殺意があったかどうかわからない。殺人にはしがたい』。これは時代遅れの人が言うこと。ただ、殺意があるかどうか、容疑者が殺すつもりだった、あるいは死んでもいいと思ったという『未必の故意』があるかどうかは、本人の供述(による認定)ではなく、客観的に殺意が認められるのが最近の傾向なんです」(若狭弁護士)
若狭弁護士は、心臓を出刃包丁でひと突きする例を出しつつ、殺意の有無について説明する。
「殺意があったかは容疑者に聞かなくてもいい。客観的に人を殺すに足りる行為をしていれば、容疑者がなんと言おうと、『殺すつもりはありませんでした』と弁解しても、裁判ではいくらでも殺人罪で有罪になるんです。100km/hで止まっているところにぶつかれば、死んでもおかしくない状況。客観的にいうと、殺意を認めるには足りるということになる」(若狭弁護士)
被害者の父親は、警察に容疑を殺人に切り替えてもらうよう、繰り返し要請してきた。しかし現時点まで、「前向きに対処する」の返事以外、満足な回答を得られていないという。そんななか、大分県警が八田容疑者を警察庁指定の重要指名手配にすべく、協議をしていることが明らかになった。
重要指名手配に指定されると、全国での手配写真の掲示や、公的懸賞金制度の提供が可能となる。現在指定されているのは13人だが、いずれも殺人容疑などの凶悪犯で、道交法違反容疑で適用されれば異例になるという。
元徳島県警警部の秋山博康氏は、長年の指名手配犯捜査の経験から、「殺人容疑以外では、かなりハードルが高いのではないか。容疑を殺人罪に変更し、捜査一課主導の捜査に切り替えることが、まずは先決」だと指摘する。一方で、警察の内情に詳しい判事経験者からは、遺族が求める「殺人罪」に逮捕容疑が変更される可能性は、極めて低いと指摘する声もある。
そこで若狭弁護士は、遺族が殺人罪で告訴することが、もっとも有効な手段だと提案する。
「独自に殺人の告訴をする。遺族としては殺人と考えているから、殺人の告訴をする。大分県警あるいは別府警察署においても、これだけの客観的に危険なものがあれば、殺人罪で当然受理されるべきということ。殺人罪で告訴するのは、僕はいいと思います。『殺人罪』は十分に刑事告訴できる事案。ひき逃げという『道路交通法違反』の事件とともに、殺人で刑事告訴をして、受理すれば二本立てになるが、それはあり得る話」(若狭弁護士)
告訴の提出先は、基本的に警察となるが、警察と異なる容疑の告訴が受理されないケースもあるのだろうか。
「裁判員裁判が始まったことによって、30~40年前から様変わりした。告訴権は非常に強くなった。裁判員裁判で一般市民の感覚を入れるととともに、検察審査会の11人の一般市民の感覚は重視されるようになった」(若狭弁護士)
検察審査会は、一般市民からくじで選出され、不起訴処分の善し悪しを審査する。若狭弁護士によると、この制度によって、市民の常識や価値観が反映されやすい傾向が強まり、正義を求める告訴権を重要視する時代になっているという。
「今回のように客観的に殺意が認められるような事案でありながら、『すでに道路交通法違反でやっているから、殺人の告訴は受理できない』とか言うこと自体が、告訴権の侵害になる。先々、検察庁も殺人では不起訴にした場合、告訴した遺族が検察審査会に申し立てれば、検察審査会においては『殺意は客観的に認められる。殺人の罪で起訴しろ』となる可能性もなくはない。その時に『殺すつもりがあったとまでは、逃げているからわからない』なんて、くだらないこと言っているんじゃない。そんなことでやっていたら、刑事司法が根底から崩れてしまう」(若狭弁護士)
元東京都知事の舛添要一氏は、こう指摘する。
「最高の責任者は県警本部長。私が現役の国会議員だったら、『大分県警本部長は何をしているのかね』と問う。『君は何をやっているんだ。別府市民、大分県民にとっても危険である』と。県議会で質問をする。『県議会議員、どういう風になっているんだ』と。県議会で質問があるときは、県警本部長は必ず出席して答弁する義務がある。『こういう問題を放置して逮捕できない大分県警は何をしているんだ』という喝を入れる」(舛添氏)
舛添氏が指摘するのは、大分県警が大分県知事の傘下にあり、「給料を出している」状態だ。
「『隣の福岡県とか熊本県だったら、すぐ捕まっているのに、なんでお前らは捕まえることができないんだ。もっとしっかりしろ』と知事が言ってもいい。それが民主主義。問題が起こっているのはわかっていて、何も動かない地元の県会議員にも問題がある。日本の警察の威信、国民からの信頼が問われている、極めて重要な問題だ」(舛添氏)
別府の事件について、警察は情報提供を呼びかけている(別府警察署:0977-21-2131)ほか、X(旧Twitter)(ABEMAニュース/@News_ABEMA)のDMでも事件や容疑者に関する情報を求めている。
(『ABEMA的ニュースショー』より)
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