2022年6月29日に大分県別府市で起きた、大学生ひき逃げ死亡事件。道路交通法違反の疑いで、八田與一(はった・よいち)容疑者(26)を全国に指名手配しているが、事件後1年を経てもなお、逃走を続けている。
遺族や支援者による「大分県別府市大学生死亡ひき逃げ事件早期解決を願う会」(別府願う会)は「道交法違反」から「殺人罪」への変更を求めて、2023年8月10日からオンライン署名を始める予定だ。
こうした動きに、元衆議院議員の金子恵美氏は「署名活動をしていることがわかったら、議員もバックアップするべき」と指摘する。
「事件を解決に近づけるためには、同じ親の気持ちになって署名に協力する。それが遺族が思う1日も早い解決に向けて、組織を動かす力になる」(金子恵美氏)
ジャーナリストのたかまつなな氏も「名前書くだけなんて意味ない」と思う人も多数いると思われるとしつつ、「署名があることで、たくさんの共感者が集まってプレッシャーになる」と語る。元東京都知事の舛添要一氏も「全国に広げて『おかしいじゃないか』という声があれば、大分県としても恥ずかしくて、動かざるを得ない。あらゆる手段で正義を貫くことで、遺族の方は大変だが、頑張っていただきたい」と応援する。
8月5日には、亡くなった大学生Aさんの初盆供養が行われた。Aさんの父親は、こう振り返る。
「警察の方にも『こんなことはしたくない』と何度も言った。本来なら一緒に本当にタッグを組んで、一緒に協力しながら逮捕に向けていきたいのに、私たちも言うところがないから……」(Aさんの父親)
自宅の庭には、Aさんの同級生らが一周忌に植樹した、赤いバラが咲いている。母親は「このバラのように、上を向いて諦めずに生きていきます」と語るが、殺人罪への変更は難しいのではないかとの声も出ている。
弁護士の清原博氏は、今回の事件は「殺人容疑になる可能性がある」としながら、警察が殺人容疑に変更する上で、ハードルがあると指摘する。
「殺人罪で逮捕状を取り直さなければならない。殺人の逮捕状を取るためには、裁判所に対して、殺人の容疑がある証拠を出さないといけない。『時速100キロで(被害者のバイクに)ぶつかりました』というだけではわからない。自分でわざとぶつけたのかが問題。故意ではない交通事故で、時速100キロでぶつかった事案は、決して少なくない。『時速100キロだから故意でしょ。殺意あるでしょ』とは言い切れない」(清原弁護士)
事件直前には、亡くなった大学生が近隣のショッピングセンターで、八田容疑者とみられる男から、一方的な言いがかりをつけられていたことがわかっている。
「警察も『トラブルらしいものはあった』『面識があった』とはわかるが、本当にどんなトラブルだったかはわからない。『それだけの接点で、八田容疑者が殺意を抱くの?』というだけの証拠があるか。裁判所に証拠を出さなければならない時に、『殺人』の逮捕状を取りにくい事情があると、容疑はそう簡単に変えられない」(清原弁護士)
いま警察ができるのは、あくまでひき逃げながら、「重要指名手配」として殺人と同程度の悪質犯罪に位置づけることではないかと、清原弁護士は分析する。
「まずはそこでやってみよう。もし、ひき逃げで時効が迫れば、時効のない殺人に切り替える可能性もある。でも今の証拠の状況では、すぐに容疑を殺人に変えるのは、警察には難しい面もある」(清原弁護士)
元東京地検特捜部検事の若狭勝弁護士は、遺族から殺人罪で告訴することが、もっとも有効な手段だと指摘しているが、清原弁護士も「これは一つの手」だと同調する。
「告訴は『警察がまだ捜査しないから捜査してくれ』という意味が多いが、今回は捜査が始まっている。あえて告訴する理由はあまりないが、警察はあくまで『殺意のない事案』といっている時に、遺族が『いや、これは殺意があったんだ。重く処罰してくれ』という強い処罰感情を正式に示すために、殺人で告訴することは十分ある。すぐに警察が容疑を変える効果はないかもしれないが、遺族感情は伝わる」(清原弁護士)
また清原弁護士は「法律の専門家から見ても、『これは殺人になる可能性が十分ある』という主張になる」として、告訴する際には、できれば弁護士と一緒になって行うように勧める。
この事件を追い続けている、元徳島県警警部の秋山博康氏は、道交法違反容疑のままで重要指名手配にすることは難しいとみている。在職時に重要指名手配を警察庁に頼み、懸賞金などの制度を利用した経験から振り返る。
「凶悪犯人または広域犯罪といった重要事件が該当する。道交法ではハードルが高い。もし重要指名手配になると、全国の警察官全員に顔写真入りの指名手配一覧表が配布される。いま現在でも、指名手配は全国500人以上いる。そのなかで『重要指名手配』は限られた人数。まず殺人罪・殺人未遂で逮捕状を取り、それから指名手配を打つべき」(秋山氏)
署名活動を始めるにあたり、Aさんの母親が『ABEMA的ニュースショー』へ手紙を送った。以下がその全文だ。
「8月5日、初盆の法要を行いました。昨年は辛すぎて先延ばしにしました。庭には赤いバラが二つ咲いていました。一周忌に息子の友だちたちが植えてくれたものです。みんなが励ましてくれています。ありがとう。
"世界で活躍する経営者になる""父親を超える経営者になる"そんな嬉しいことを言っていました。大学に入ってからは青春を楽しみながら勉強に励み、友だちと語り合い、私たち家族にも夢をよく語る子でした。母親である私は、どんな未来を見せてくれるのかとワクワクしていました。いつも眩しいくらいの笑顔が印象的で、頭から離れません。
そんな息子が、たった一瞬、八田容疑者に会ってしまったために、命を落としました。わずか19年しか生きられなかった息子の無念。それを考えると、逃げ続ける八田容疑者を許すわけにはいきません。
救護義務違反?冗談じゃありません。罪名を聞いただけで頭にきます。悲しくなります。
事故現場にブレーキ痕はなく、追突した時の速度は制限速度の倍以上、一緒にいた友人の証言からも故意であることは明らかです。
『道路交通法救護義務違反』では7年という時効があります。今のままでは全国的にニュースの扱いも小さく、交番を訪ねてもこの事件を知らない警察官も多くいます。これでは捕まりません。時効のない『殺人罪と殺人未遂罪』へ切り替え、重要指名手配として全国の警察を挙げて捜査を強化していただくことを求めます」(Aさんの母親からの手紙)
別府の事件について、警察は情報提供を呼びかけている(別府警察署:0977-21-2131)ほか、X(旧Twitter、ABEMAニュース/@News_ABEMA)のDMでも事件や容疑者に関する情報を求めている。
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