実は魚も自らの容姿を気にしているかもしれない。2月、大阪公立大学大学院の幸田正典特任教授らの研究グループは、魚が自らの写真を見て「顔」の違いから自分自身と認識できることを実証したと発表した。これは世界で初めての発見だという。
「魚がどうやって自分だとわかるのか調べてみると、人間と同じで”自分の顔”をちゃんとわかっていて、『自分だ』と認識している」(以下、幸田特任教授)
研究に使用されたのは、寄生虫などを食べる“お掃除魚”として知られるホンソメワケベラ。研究グループは2019年に、鏡に映った自分を認知できるかを調べる「ミラーテスト」をホンソメワケベラで実施した。最初は鏡の中の自分を他者とみなして攻撃したが、確認行動を繰り返すうちに攻撃をやめ、自分の姿を頻繁に見るなど、自分を認知できるようになったという。
そして今回、研究グループは、鏡で自分を認識できるようになった魚に対し「写真で『自分の顔』を認識できるか」という実験を行った。
実験ではホンソメワケベラの自分の写真と他者の写真を合成して、“自分の顔と他者の体”など、4パターンの組み合わせを作成しホンソメワケベラに見せた。すると、自分の顔の場合は写真に向かって攻撃せず、他者の顔の場合は攻撃したという。
「顔は自分で体は他者でも『自分だ』と思う。体が自分でも顔が他者なら他者とみなす。つまり、写真を見た場合は体を見ていない」
このホンソメワケベラが自分の顔の写真を攻撃しなかった理由は、本当に自分自身だと認識していたからなのか。今度はホンソメワケベラの写真の喉付近に、寄生虫のようなマークを付けて見せる実験を行った。
その様子を撮影した記録映像では、マークがついた自らの写真を見た魚は、マークを寄生虫とみなし、砂に自身の喉をこすりつけて取り去ろうとする行動をとった。実験の結果、8匹中6匹が自分の喉を擦ったことが確認され、他者の顔写真の場合は同様のアクションは起こさなかったという。
これらの結果から、ホンソメワケベラは人と同様に写真の中の自分の顔を見て、自分自身だと認識していることが明らかになった。
「自分がわかっている。これは相当に賢いと言ってもいい。魚であろうがなんであろうが、仲間を区別できる動物は自分がわかる。次はこれを証明していきたい」
魚にも自己意識があることが初めて実証された今回の研究について、幸田特任教授は「今後、動物の認知研究を大きく進歩させる可能性がある」としている。
生物の自己認識について、YouTubeの科学番組をプロデュースする、サイエンスコミュニケーターの佐伯恵太氏に話を聞いた。
「ホンソメワケベラは喉をこすりつけて寄生虫を取ろうとする行動の特性を持っているので、この実験で“魚の自己認識”を確認する決め手になった。生物の研究はその生物の行動や習性を活かして、どう研究でアプローチして明らかにしていくかがとても大事」(以下、佐伯氏)
━━魚にも認知能力があると考えていい?
「少なくとも、今回のホンソメワケベラの場合は自分と他者を顔で認識している。感情や心というものも自分を認識しているからこそ生まれてくるものだと思うので、まず自分を認識できるかどうかは1つの大きな要素になると思う」
━━魚や動物にはまだ知られていない能力がある?
「人間以外の動物は人のような言葉で会話できない。それほど能力が高くないと思われがちだが、植物にも、人でいう『痛み』を体に伝えるのと似たような仕組みがある。例えば、葉っぱが虫にかじられたときに、ぼーっとしてると全部かじられてしまうので、かじられたことを体内で共有するメカニズムがある」
━━植物は痛みを感じるのか?
「その表現をすると、また違う話になる。ただ、共通する仕組みはある。これは植物の1個体内だけではなく、虫にかじられた植物が香りの物質を出して、まだ無傷の他の植物にも『かじられたから気を付けなよ』と注意を促すこともある。人間の感覚的にピンと来ないだけで、香りや音など様々なかたちでコミュニケーションを取っている」
(『ABEMAヒルズ』より)
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