自治体が開催するスポーツ大会の参加資格で、既婚者は年齢制限なし、独身者は一定の年齢に達しないとダメ―こうした“既婚者規定”は独身者差別なのか?結婚への圧力なのか?専門家に話を聞いた。
都が開催する生涯スポーツ大会で、バスケットボール参加者の資格を見てみると、「選手は43歳以上の女性であること」と記載がある。続いて「既婚者の場合は年齢を問わない」と記載されている。
つまり、結婚していれば若くても出場可能である一方、独身者は43歳になるまで参加資格がないということになる。
一見すると独身者に不利な出場条件。しかし、スポーツとジェンダーの問題に詳しい中京大学スポーツ教育学科の來田享子教授に聞くと、謎ルールの裏側が見えてきた。
「歴史的理解なんだと思う。なぜこのルールがあったのか、それは女性たちが家庭に入るとスポーツができない時代があったから」(來田教授、以下同)
1964年の東京オリンピック以降、全国的にスポーツ熱が高まった日本。家事や子育てに奔走する女性がスポーツを楽しむ場として拡大したのが、ママさんバレーを筆頭とする家庭婦人スポーツだ。
東京都によると生涯スポーツ大会のバスケットボールも、家庭婦人向け、つまり既婚者の競技という前提で始まり、ライフスタイルの変化に合わせて中高年層の未婚女性も参加対象に加えたという経緯があるという。
家庭婦人スポーツは、既婚女性がスポーツに参加する場として親しまれてきたが、近年は既婚者規定や名称を改めるケースが相次いでいる。
「90年代~2000年に入ったあたりから、まず組織の名称に問題があるのではないか、あるいはどういう人たちを受け入れることによって、自分たちの組織をよりよいものにしていくのかについて悩んでいた。『ママさん』『家庭婦人』の名前がついていたりする組織は変更するべきか検討されていた」
大切なのは、広く多くの人を受け入れられることだと話す來田教授。既婚者規定は、その目的に寄与する面もあると見解を示している。
「一見、このルール自体(既婚者規定)は不公平に見える。ただ、これはいわゆるアファーマティブアクションの意味も持つ。状況がうまく整っていない人のために、一定の不公平に見える条件を整えることによって参加しやすくする。ほかの種目でもそうだが、やはり子育て中の女性たちが、スポーツあるいはその他の社会活動に参加しづらいという状況はある」
來田教授は、地域によって女性の就業率や婚姻率なども違うため、それぞれの環境に適したルール作りが必要だと考えている。
大会の既婚者規定について、東京都は番組の取材に対し「現在の社会状況と合わなくなってきているのは理解している」として、競技団体と来年度以降に向けて見直す方向で検討していると回答した。
「SNS上で『これ不平等なんじゃないか』という声が盛り上がる可能性もある。確かに一見するとそう見えるが、単にそういう声が盛り上がったから削除するということではない。『このルールはなぜ設けられたのか』という過去と、『このルールは今必要なのか』ということの両方を見なければいけない」
そうして決まったルールでも、独身者からも既婚者からも不満の声があがることもあるだろう。
來田教授は、ルールだけではなくそれが決まった歴史や意図もプログラムなどに記載し、「どんな社会を目指そうとしているか」について参加者の理解を得ていくことが必要だと指摘する。
(『ABEMAヒルズ』より)
■Pick Up
・「ABEMA NEWSチャンネル」がアジアで評価された理由
・ネットニュース界で話題「ABEMA NEWSチャンネル」番組制作の裏側