8月、愛知県・名古屋刑務所で新たな取り組みがスタートした。それが、受刑者への“さん付け”だ。
【映像】元受刑者2人に聞く 刑務所の実態と“さん付け”の是非
きっかけとなったのは、去年12月の名古屋刑務所内での暴行。22人の刑務官が男性受刑者3人に対し、アルコールスプレーを顔に噴射したり、サンダルで叩いたりするなどの暴行を繰り返していたことが判明。13人の刑務官が書類送検される事態となった。さらに、調査を行った第三者委員会は、職員同士の会話で受刑者を「懲役」や「やつら」などと呼んでいたとして、人権意識の欠如を指摘した。
再発防止策として、受刑者に対する呼び捨ての廃止を求めたほか、法務省からも呼称についての見直しが呼びかけられたことで始まった今回の取り組み。果たして“さん付け”により何が変わるのか。『ABEMA Prime』で元受刑者2人を招き議論した。
■「“さん付け”だろうが呼び捨てだろうが、尊敬される職員はいる」
16年半服役していた元暴力団組員の高野氏は、刑務所内の環境について「ひどい目にあっていた。例えば、下駄箱の真ん中が何カ所か空いていて、呼ばれた時の返事が小さいと、午前中そこに頭を突っ込んで『はい』と言う返事の練習をさせられた。2~4カ月前に出所した人たちに話を聞くと、自分がいた刑務所でも“さん付け”になると。お風呂も週2回だったのが3回になったり、熱中症対策で作業も午前中だけになったり、ずいぶん変わった。それは名古屋の事件の後からのようだ」と説明。
“さん付け”は環境が変わる「大きな進歩」だというが、「1年目の刑務官はかわいくて、職員ではなくて受刑者側に『これはどうしたらいい?』と聞いてきて、『こうしないと怒られるよ』なんてアドバイスする。2、3年目になって後輩が入ってくると、体育会系なので上の刑務官から厳しくしろと言われる。その加減がわからずに、街のチンピラやVシネマに出てくるようなセリフを言ってくるので、血の気の多い受刑者とケンカになる。ただ、“さん付け”だろうが呼び捨てだろうが、尊敬される職員は尊敬される。“この人に付いていけば”となる」。
4年2カ月服役していたフナイム氏は「私は称呼番号の『2716番』と呼ばれたり、2716番〇〇と苗字を呼ばれることが多かった」と説明。
“さん付け”では呼ばれたくないといい、「刑罰を受ける所なので、ある程度厳しくしないと。刑務官の威厳もあると思う。私が言える立場ではないが、やはり受刑者は倫理観やモラルが欠如している方が多く見受けられた。そういった方々に“さん付け”をしたとしても、何か心持ちが変わるとか、対応が変わることはないと思う」と述べた。
なお、名古屋刑務所の担当者は「まだ効果の検証はできていないが、受刑者・職員ともに悪い反応はないと認識」「一連の不祥事を受け、第三者委員会から提示された再発防止策のうち、特に急いで行うべきとされた呼称問題をまず改善。他の指摘についても引き続き検討」「呼称に伴い、言葉遣いも徐々に変化」としている。
■「人権がない扱いをされた意識が高いからこそ更生を目指している」
ネット上では「そもそも罪を犯した人たちの人権を尊重する必要はあるのか?」との声がある。
パックンは「このポイントが最初に出てこなかったことに驚いている。“さん”という尊敬を表す呼び方に値するかどうかという部分に議論が集中すると思った」と話すとともに、「社会復帰・更生が優先順位的に高いことだと思う。聞きたいのは、更生につながるのは人権を認められないような待遇なのか、それとも人間としての付き合いを感じて信頼を感じることができたところなのか?」と質問。
フナイム氏は「私はまだ更生の途中だと思っているが、人権がない扱いをされたという意識が高いからこそ、今それを目指している」と答えた。
また、「刑務所は居心地のいい場所であってはならず、居心地の悪い場所であるべきではないか」との声もある。
高野氏は「決して居心地のいい場所ではない。ましてや再犯刑務所に来るのは相当犯罪にも長けている人たち、血の気が多い人も多い。そんな中で“親父”と慕われる職員の指導の下、僕は溶接をやっていたが、その作業は社会に出てまだ役に立っていない。Gマーク、要するに元でも〝暴力団〟である以上は職業訓練に行かせないと。(刑務所を)出る時に報奨金があるが、見習い工だと900円ほど。それも1日じゃなく1カ月だ。1等工にまでなっても数千円で、2、3年の刑の人が数万円を持って出てきても、どう更生しろというのか。受刑者が高齢化しているのは、結局、出所しても受け皿がないから。“お酒を飲んで、おいしいものを食べて、無銭飲食でもう1回入ってもいいや”という人たちがいくらでもいる」と話した。
フナイム氏は「刑務官による暴力事件が問題にもなっているので、刑務官への倫理観やモラルの教育が大事だと思う。高野さんが言ったように、人情味のある刑務官は受刑者が慕う。僕は初犯の刑務所で、『お前はこうだからダメだ』としっかり怒られたけど、ちゃんと優しいところも見せてくださって、“この親父はいい親父だな”と。そういう対応になるようにすることも大事なのでは」との考えを示す。
高野氏も「今まで刑務官が培ってきた歴史があり、“さん付け”にしたから今日明日で変わるものだとは思っていない。しかし、もう一度また長い時間をかけて、“こうしていこう”という考えを持ってもいいのではないか」と述べた。(『ABEMA Prime』より)
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