今、神奈川県川崎市に多くの批判が殺到している。問題になっているのは、同市の小学校で起こった教員による“あるミス”だ。
今年5月、1人の教員がプール開きの準備を開始した。しかし、その際、確認不足により5日間にわたり水が出しっぱなしになり、25メートルプール約6杯分が流れてしまったという。損害額は約190万円にのぼった。
この事態を受け、川崎市は水を出した教員と校長に対し、約95万円の損害賠償を請求。ネットでは「失敗できない雰囲気を作るのは良くない」「組織として個人に負担させるのはおかしい」などの声があがっている。
この状況に川崎市の福田紀彦市長は「気の毒だという風潮になっていると思うが、一方で負担を全部公費で税金で負担すると言った時、皆さんどう思われるか。私たち公務員は、過失に対する責任というのは常に負っている」とコメント。
仕事中に起きた金銭的過失は、どこまで個人が責任を取るべきなのか。ニュース番組「ABEMA Prime」に出演した、賠償請求や企業法務に詳しい弁護士の片山雅也氏(ALG&Associates代表執行役員)は、こう話す。
「一般企業では、故意または重過失がある場合については、個人に損害賠償責任追及できる考え方が主流だ。公務員にも当てはまる部分がある」(以下、片山氏)
国家賠償法1条2項によると、公務員に故意または重大な過失があった際、国または公共団体はその公務員に対して求償権を有すると定められている。求償とは、他人のために損害を受けた物が、その賠償を請求することを示す。
川崎市の小学校のケースは故意ではないが、重過失には当たるのか。
「今回の話は、重過失に当たり得ると思う。過去の裁判例から被害額の3分の1の請求はあり得る。公務員の場合、過失があったとしても、損害賠償責任を認めた裁判例がある。この観点からいくと、今回の場合も、法的に損害賠償責任を負う可能性はやはり高いと思う」
その上で、片山氏は「公務員賠償責任保険制度」という保険に言及。同保険は、公務員などが職務上のミスや誤りによって、第三者に損害を与えた場合、その損害を保証するための保険だ。
「そもそも一般企業の場合、同様の問題が起きたら、従業員に対して請求するよりも『そもそも保険をかけておこう』という考え方になる。例えば、社用車に乗っていて事故や盗難に遭った場合、会社の代表取締役が『お前が悪いから払えよ』とするのではなく、リスクヘッジとして損害保険を会社がかけておけば、揉めなくて済む。公務員の場合、住民が監査請求したり住民訴訟したり、後から何を言われるかわからない。『じゃあ損害賠償請求を今しちゃった方がいい』という判断になっているのではないか。僕が川崎市の顧問弁護士だったら、過去の判例などを照らして、同じように『法的には損失額の半額ぐらいが落としどころではないか』と助言をすると思う」
川崎市はプールの水を出しっぱなしにした教諭のほかに、校長にも賠償請求するとしている。校長は責任を取る必要があるのか。
「この種のケースは、校長先生も一緒に損害賠償請求される場合が多い。監督責任にあたるからだ。教育委員会など、もっと上まで責任が追及されるのではないか。結局、プールの給排水をちゃんと管理する人がなぜいなかったか。これが重要だ。いろいろな業務をやっている先生に、どこまで責任を負わせるのか。プール以外にも、学校では、理科の実験で爆発するなどの事故は起こり得る。監督責任を誰が負っているか、ある意味、追及の“最終地点”はやはり校長になるだろう」
仕事中のミスに対して、個人がお金を支払う必要性はどれくらいあるのか。
「不法行為という民法上の責任がある。故意または過失で他人の財産なり身体に損害を与えた場合、相当因果関係の範囲で損害賠償責任がある。過去に働いていた従業員でも、この責任は負う。一方で、従業員に働いてもらって利益を得ている以上、企業にも報償責任の原則がある。だから、損害が生じたとしても、一定程度の損害を負うことが多い」
片山氏によると、水道が公共事業であっても「誰がリスクを負担していくのか」という問題になり、それなりの弁償責任は避けられないという。また、2022年に山口県阿武町が誤って1人の住民に4630万円を誤送金した問題があったが、同様に「損害額を担当者が負担する可能性もあった」と指摘する。
「請求された教員や校長は、基本的にはまとめて払う話になってくるだろう。分割払いなどの話は当事者間で行う。一方で、一般企業では、給与は全額払いが原則なので、損害賠償額を給与から天引きできるのかという問題も出てくる」
学校ではなく民間に外部委託し、プールの授業を行う事例が増えれば、今回のようなトラブルは減るのだろうか。
「法的な話をすると、委託した会社が同じミスをすれば、今度はそこに損害賠償が請求される。その委託会社が、従業員に請求するかどうかだ。結局、請求する場所が変わるだけで、同じことが起きると思う」
(「ABEMA Prime」より)
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