「市販薬のオーバードーズで死ぬ」若年女性に広がる過剰摂取…医師が警鐘
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 今、若者の間で市販薬のオーバードーズ(OD)が問題になっている。オーバードーズは、違法な薬物などの過剰摂取を表す言葉だ。

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 8月16日に厚労省が発表した調査では、去年12月までのおよそ1年半で、ODにより救急搬送された122人の平均年齢は25.8歳、そのうち8割が女性だった。去年6月、ODにより女性が昏睡状態に陥り、翌日死亡した事例もあり、たとえ市販薬の咳止めや風邪薬などであっても、過剰に摂取すれば命にかかわることもある。

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 なぜ、市販薬の過剰摂取が若い女性に広がっているのか。ニュース番組「ABEMA Prime」に出演した依存症専門の精神科医・松本俊彦氏(国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部長)は、こう話す。

「心理的な抵抗感が少ないことも原因としてある。大きな街の駅前をみると、コンビニよりもドラッグストアが今すごい勢いで増えている。安価なコスメ用品などが売っていて、特に若年の女性が買い求めやすい、行きやすい身近な場所になっている。新型コロナが流行して緊急事態宣言が出た初期、商店街はどこも閑散としていた。その中で一番元気に営業をしていたのがドラッグストアだ。また、女性は生理痛への対処などで、鎮痛薬をはじめとしたさまざまな市販薬にかなり慣れている。インターネットの販売の規制が緩和されるなど、国の施策全体も国民が市販薬にアクセスすることを応援しているように見える」(以下、松本氏)

 2014年、インターネットにおける市販薬販売規制が緩和された。さらに、2017年になると治療に必要な場合、市販薬の購入費も医療費控除の対象になった。

 市販薬は違法薬物や危険薬物ではないため、リスクを深刻に考えない人も多い。松本氏によると「市販薬である以上、販売規制もできず、消費者の購入は構造上止められない」という。

「現状、リスクが高い市販薬に関しては、一部販売の個数制限をやっている。ただ、何店舗もドラッグストアを回れば手に入ってしまう。瓶に入っている市販薬は『オーバードーズしてくれ』と言っているようなものなので、製薬メーカーが箱に入れる、一箱あたりの錠剤数を減らすなどの工夫が必要だと思う」

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 厚生労働省が発表している「濫用等のおそれのある市販薬の適正使用について」の資料によると、依存性症候群の薬別割合は市販薬が80.6%と、大麻(59.3%)や覚せい剤(52.2%)より依存性が高くなっている。

「極端な言い方をすると市販薬は古い。ほとんどの病院で医薬品として使われなくなっているような成分が入っている。しかも、今は使われない少量の覚せい剤原料や麻薬成分などだ。カフェインも単独ではそれほど強い依存性はないが、覚せい剤原料や麻薬成分などが絡まると、けっこうやめづらい。よく子どもたちが乱用する鎮痛薬の中には、かなりの量のカフェインが入っている。一錠あたり、それこそエナジードリンク一本分くらいだ。覚せい剤に比べれば市販薬で幻覚が出ることはまれだが、やはり『市販薬がやめられない、止められない』と精神科で治療を受ける人も多い。依存性に関しては、決して軽く見ることはできない」

 市販薬はどれくらいの量から依存になるのだろうか。

「量の線引きは難しい。我々のところに来ている患者さんたちは、規定量の約10倍を飲んでいる。頭痛で鎮痛剤を飲むのではなく、何か大事な仕事がある時に気合いを入れるために飲むといった形で使い始めると、明らかに目的外の使用になる。本来の目的と違うことを期待するのは、危険な徴候だ」

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 ODにより酩酊状態になることを指す「パキる」という言葉も登場し、SNSなどで使われている。松本氏は「SNSで情報が非常に早く拡散されることも、一つの要因ではないか」と指摘する。

「オーバードーズが話題になり始めた頃から、エンターテイメントとして『仲間とやる』が少しずつ増えた。ブームの初期、ほとんどの人は、つらい気持ちを一人で解決しようとしてやっていた。それがだんだんとSNSのコミュニケーションツールとして広がった。病院の処方薬にアクセスをするには、やはり保険証が必要だ。子どもの場合、親に相談しなくてはいけない。だから市販薬を過剰に使う若者たちは、親や先生など周りの大人に相談できずに、もやもやしたつらい気持ちを自分一人で抱え込んでいる。実は学校、あるいは家庭では一見まじめな子、少なくとも非行や犯罪傾向のないような子が多い」

 松本氏が特に気になっているのは、市販薬を過剰摂取した上でストロング系のアルコール飲料などで酩酊感を強めた女性が亡くなるケースだという。

「高校生年代くらいの女の子が市販薬をオーバードーズし、いわゆるストロング系のアルコール飲料を飲んでさらに酩酊感を強め、事故死のように亡くなっているケースがある。オーバードーズではずみがついて、酩酊感の中で亡くなる。僕は大麻のオーバードーズで死んだ人は見たことがない。一方で、市販薬のオーバードーズで死んでいくのは見てきた。今や薬の安全性に関して、違法や合法は関係ない。本当に市販薬が国民の健康を守ることに役立っているのか。僕らからすると市販薬自体が疑問で、注意喚起が足りないと思う。社会として、やれることはやるべきだ」

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 市販薬の過剰摂取が、自殺の抑止になっている面もあるのか。

「皮肉にも、自殺の抑止に貢献している可能性は僕も否定できない。少なくとも、死にたい気持ちを一時的に紛らわしたり、短期的な自殺の延期に役に立っている面もあると思う。一方で、市販薬のオーバードーズをやめられない人の多くが、虐待や性暴力の被害者だったり、我々精神科医から見ても深刻な問題を抱えていたりする。市販薬が手に入らなくなると、今度は自傷行為が止まらなくなったり、あるいはアルコールに依存したり、いずれにしても患者は“ちょうどいい使い方”ができない。背景にある問題に対し、きちんと治療していく必要がある。若い患者を治療して思ったのは、やはり市販薬の乱用は『支援につながるための入場券』だということ。治療においては、いきなりやめるのではなく、とにかく話し合える関係をつなげていくことだ」

(「ABEMA Prime」より)

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