中学受験の本番、2月まであと半年。休日を返上し、小学6年生の息子と二人三脚で受験に挑む父親がいる。最後の総本山とも呼ばれる“中学受験の夏休み”をどう乗り越えたのか。
「やっぱり6年生になって(勉強時間は)飛躍的に増えた。夏休みから本番という感じで、塾がある日もない日も1日10時間、休みなしで、休日もなしでやっている」(以下、息子と共に中学受験に挑む江口さん ※仮名)
1日10時間の勉強となると、一般企業の労働時間よりも長時間になる。相当な体力や精神力が削られていく中、親として息子へのケアは忘れない。
「やる気は十分あるが、疲れを見せることがある。そのときは勉強は切り上げて寝るとか、体調管理にはすごく気をつけている。あとは怒らないこと。十二分に頑張っているので、気持ちよく勉強できるようにさせている」
勉強のできる環境を作り上げているものの、夏休みに入ると追いかけてくるのが宿題の山だ。塾の課題や夏期講習で内容の濃い勉強を行う上に、積み重なる学校からの宿題が大きな負担になっているという。
「(夏休みの宿題は)いらない。1日10時間やっているから。塾で勉強している子には、算数とか国語の宿題を課す意味が無いと思う。もちろん、受験をしていない子には意味があると思うので、無くせとは言わないが選択制にしてほしい」
そんな状況を乗り越えるために、息子に送ったアドバイスがあるという。
「息子に、戦略とは“やること・やらないことを決めること”だと言った。一番厄介なのが音楽の実技。『今の君にとって勉強することと縦笛が上手くなること、どっちが重要だと思う?人生において』。なのでやらなくていい。自由工作は今YouTubeとかで夏休みのおすすめ自由研究・工作がたくさんあるので、ざっと見て一番短時間で家にある空き缶とかでできて映えるものを選んで、『これやったら?』っていう。それで(息子と一緒に)チャチャッとやった」
中学受験に向け、江口さんは朝6時に起きて息子さんの勉強を手伝っているという。また、夏休みになると塾などの費用の負担も大きくなっている。
「夏期講習は別料金がかかって断然高い。何十万かかったと思うが気にしないようにしている。教育って一番重要な投資だと思う。ケチらないようにしている」
大変そうに見えるが、その本音は違った。
「一緒に勉強するのがとてもおもしろい。男の子って中学に入ったら親離れすると思う。何かを一緒にやるのは一生で最後だと思うので、二人三脚で楽しく受験勉強している」
息子の努力を間近で見てきた江口さんは、希望校への合格を願うと共に、この努力が価値になると考えている。
「正直、勉強の中身って生きるものも生きないものもあると思う。スポーツもそうだが何かに打ち込んで、本当に100%自分の限界まで頑張った経験って必ず後で生きると思う。100%出し切った人じゃないと120%に挑戦できないので、小学校6年生で受験を頑張るって経験は、私は貴重だと思う」
首都圏の中学受験者数は9年連続で増加し、2023年の首都圏の受験者数は5万2600人(17.86%)に上る。中学受験との付き合い方について、臨床心理士・公認心理師で明星大学心理学部教授の藤井靖氏に聞いた。
「少子化だからこそ、より集中的に大人としての持てる資源を費やそうという発想もあるかもしれない。ただ、中学受験ぐらいだと周りを気にして『同じ学校や塾に通う子はここを受ける』など、周囲に触発されて親が中学受験を意識しているかもしれない。‘‘良い学校’’ ‘‘悪い学校’’というのも、容易にネットで情報が得られてしまうのもある」(以下、藤井氏)
藤井氏は、小学生がメンタルを保つ方法を次のように話す。
1:自分の身体を邪魔しない方法を身につけよ!
「問題を解く脳も含めて身体。パフォーマンスを発揮するには不安や緊張が自分の身体に悪影響を与えないようにする必要がある。緊張を適度に保つことは一朝一夕には身につかないため、習慣化する必要がある。呼吸法(1,2,3で吸って4で止めて5,6,7,8,9,10で吐く)や子どもに刺さるおまじないなどでもいい。視野狭窄になるとよくないので、たまにはユーモアを交えていろいろなものを冷めた目で見る(例:「まっ、たかが〇〇だけどね」)のも1つの方法。自分に合った方法を親と話し合って見つけられるといい」
2:受験の作戦と勉強を親子で分業せよ!
「プランを立てるのには、脳の司令塔でもある前頭前野を使う。勉強には当然、司令塔も成長させることが大事だが、受験勉強のプランニングはあまり成長につながらない。もっと勉強以外のことで熱中したり、楽しんだり、達成する方が前頭葉の機能が高まって、勉強にもいい影響が出る。前頭葉のキャパオーバーを防ぎ他のことに集中できるように、プランニングや準備は親がやって子どもは勉強をがんばるほうがいい」
3:モチベーションを保つ引き出しを探せ!
「これが1番大事だと思う。心理学的に人のモチベーションは3つの要素からなると言われている。関係性への欲求とは、新しい友達に出会いたいとか、こういう先生に教えてもらいたいという、人を対象にした欲求。『あそこに入ればこういう人と出会えたり、こういう先生に教えてもらえる』というもの。自律性への欲求とは、自分でやりたいことをやる、『自分の人生を自分で決めたい』というもの。有能さへの欲求とは、自分が優秀だと思われたい、いい成績を取りたいなど」
「大人であってもこのどれかに基づいてモチベーションが高まっていることが多く、子どもにどれが刺さるのか、親が対話の中で理解しておいて、時々モチベーションを整えたり、長丁場で疲れてきたとき、もう一度目標をちゃんと考えるときに使う。ただ『受かりたい』だけでは子どもの気持ちは付いて来づらいし、動機としては脆い」
「自分の欲求や理想を言語化することは大切。つまずく親子の話を聞くと受かることだけが目的になっていることが多い。塾に行った後に『お菓子を買ってもらえる』とか『親に褒められたい』ということでもいいので、そういう短期的なものと、長期的な目標設定を組み合わせるのがベスト」
(『ABEMAヒルズ』より)
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