ボクシングの元WBC世界フライ級王者で大の将棋ファンでもある内藤大助氏が、第71期王座戦五番勝負を戦う永瀬拓矢王座(31)と藤井聡太竜王・名人(王位、叡王、棋王、王将、棋聖、21)にエールを送った。自身の経験からタイトル戦は「特別なもの」と最高峰の戦いを繰り広げる両者に敬意を表し、「どちらも頑張ってほしいですね」と熱い気持ちを込めた。
永瀬王座の「名誉王座」獲得か、藤井竜王・名人が前人未踏の「八冠制覇」か――。どちらが勝っても棋史に残る偉業がかかるシリーズが8月31日に開幕した。第1局は、永瀬王座が後手番で藤井竜王・名人の得意の角換わりの将棋に勝利。5連覇と永世称号獲得に向けて好スタートを切った。あす9月12日には注目の第2局が行われるとあり、将棋界を飛び越えた大注目が集まっている。
ボクシング界屈指の将棋ファンの内藤氏も、本シリーズの星のゆくえに心を躍らせる一人だ。舞台は違えど、自身も経験したタイトル戦は「特別なもの」と両者の戦いに静かに心を寄せる。この最高峰の舞台に立つ対局者は、元世界チャンプの目にはどのように映っているのだろうか。
内藤大助氏(以下、内藤) 「永瀬王座はバーナード・ホプキンスですね。史上初の主要4団体タイトル統一を果たした伝説のボクサーなんですけど、オーソドックスでオールマイティーなイメージがあります。
藤井竜王・名人は少しトリッキーな部分があるのかなと思っているので、ナジーム・ハメドですね。ボクシングの常識を覆した人なんですけど、基本中の基本でもあるガードを全く上げないボクサーがいたんです。ちょっと大げさな例えになってしまいますが、新人類ということでハメドになるのではないでしょうか」
挑戦者として、王者として、どちらの立場も経験した内藤氏は、「名誉王座」と「八冠制覇」という棋史に残るタイトルをかけて戦う両者の内面にも寄りそう。
内藤 「(永瀬王座は)すごいプレッシャーがあると思います。昔(藤井竜王・名人のデビュー当時)は永瀬王座の方が先輩だったのに、藤井竜王・名人がどんどん追いついてタイトルをかけて戦うようになったということで、精神的には藤井竜王・名人の方が有利ですよね。永瀬王座はプレッシャーで大変だと思いますよ。タイトルは奪取よりも防衛の方が難しいですから」
内藤氏は、2007年にタイトル17回防衛記録を持つ王者ポンサクレック・ウォンジョンカムに3度目の挑戦で勝利し、悲願の王座を奪取。番狂わせの奇跡として日本中を熱狂させた。
内藤 「それまでに2戦戦って2回とも負けているということもあって、いろいろな作戦を考えましたね。相手はきっと『内藤はこういう戦い方だろう』と考えていると思ったので、3戦目は今までと違うことを試合の中でいっぱいいっぱいやったんですよ。ぜひ、永瀬王座のトリッキーな作戦が見てみたいです。互いを良く知る仲だからこそ、藤井竜王・名人の頭の中にないような作戦で“コンピューター”を狂わせるようなことをしてほしいですね」
さらに、前人未踏の“八冠統一”を狙う藤井竜王・名人の大挑戦にも大きな期待を寄せているようだ。
内藤 「ボクシング界で言ったら、メジャー4団体のベルトを総ナメにするということですよね。ひとつでも獲るってものすごく大変なことなんですけど、バーナード・ホプキンスやフロイド・メイウェザー、井上尚弥が達成しましたよね。マイク・タイソンは3団体統一王者ですけど、タイソンってボクシング界では“神様以上”って言われてましたからね」
21歳と若き絶対王者の藤井竜王・名人ながら、「貫禄を感じる」という。自身は「20歳でボクシングを始めて、21歳の頃はプロを目指してジムに通っていましたが、ナンパしてましたね(笑)。そんな頃ですよ!」と自虐で笑わせる場面も。22歳のプロデビューから、32歳と遅咲きながら世界の頂点に立った男だからこそ、様々な経験から多角的な視点で胸を高鳴らせているようだ。
シリーズは永瀬王座の1勝で第2局へ。五番勝負の短期決戦とあり、その一勝一勝が大きな重みを持つ。開幕局を落とした藤井竜王・名人が「早くも厳しい状況になってしまった」とコメントしたことも大きな話題を呼んだ。内藤氏は「名誉王座も八冠も…もうすいません、どちらも頑張ってほしいですね!」と見どころは語りつくせない様子だ。
注目の第2局を制し、永瀬王座が「名誉王座」へ“王手”をかけるか、「八冠制覇」を狙う藤井竜王・名人が追いつくか。見どころ満載の激闘が繰り広げられることは間違いない。
(ABEMA/将棋チャンネルより)