9.10K-1横浜アリーナ大会、そのベストバウトは文句なしで金子晃大vs玖村将史だった。
K-1スーパー・バンタム級タイトルマッチ。両者はこれが3度目の対戦だ。初戦は玖村が勝ち、金子に初黒星をつける。2戦目は昨年2月。金子がリベンジしてベルトを巻いた。過去2戦はいずれも判定2-0の僅差だった。
決着戦となる今回も競り合いになった。お互いペースを譲らない。そんな中で、中継の解説を担当した魔裟斗は「前回とは違う内容になっている」と指摘した。前回はパンチ一辺倒だったが、今回は2人とも蹴りを使いながらオールラウンドに闘っていると。
カーフキック、ミドルキックを効果的に使いつつ、ここぞという場面ではパンチの打ち合い。スピードが抜群でなおかつパワフル、そしてノンストップでもあった。だから緊張感が途切れない。
本戦3ラウンドを終えての判定は1-0でドロー。金子に1票が入り、延長戦では玖村が攻撃のテンポを上げていく。しかしラウンド後半、金子がそれを上回る。延長戦でここまで動けるのかという展開だった。さらに金子は左フックで玖村をグラつかせる。この一発が決め手だった。判定3-0。金子の勝ち越し、王座防衛だ。
中・軽量級主体で盛り上げてきた新生K-1、その結晶、集大成といえばいいのか。金子が守ったスーパー・バンタム級のベルトは過去に武尊、武居由樹も巻いたもの。この日、金子が見せたのは歴史を受け継ぐ闘いでもあった。
「これで“金子のK-1”になったと思う」
試合直後の金子に話を聞く。チャンピオンは“K-1代表”としての矜持と決意を語った。
「最後は気持ちですよ。技術じゃない」と金子。攻防の軸になっていた左ボディ、前手のフェイントなど、すべては「必死に努力してきた」成果だ。蹴りはウィラサクレック・ムエタイジムのウィラサクレック・ウォンパサー会長に指導を受けた。
「だから最後まで威力が落ちなかったし蹴り続けることができました」
金子がしてきた「努力」とは何か。「自分に足りないところを詰めてきました。足りてるところも詰めた」
弱いところに向き合うことで強さを得た。金子はこれまで、あまり言葉でアピールするタイプではなかった。これからも「(言葉よりも)強さで引っ張っていく」という。ただこの日に関して言えば、金子は雄弁だった。
「金子イコール努力。そんな僕が負けたら、見ている人が“努力しても意味ないんだな”となってしまう。それだけは避けたかった。見ている人が元気になるというか、前向きになれる試合がしたい」
玖村に対しては感謝の思いもある。試合が終わると「ありがとう」と言葉をかけていた。
「ありがとうという気持ちはありますね。ライバルと書いて“とも”と呼ぶ感じですよ。彼もここまで努力してきてくれたし、僕が負けた後のK-1を救ってくれた。K-1全体を上げてくれましたよね。俺はあの時、それができなかった」
あの時とは昨年6月。那須川天心vs武尊が行われた『THE MATCH 2022』東京ドーム大会。金子はK-1王者として参戦し、RISE王者の鈴木真彦に敗れた。その鈴木に勝ったのが玖村だ。金子はそこに恩義や感謝の念を抱く。そして玖村に勝った横浜アリーナのリング上で、金子は鈴木との再戦をアピールしている。
「去年とは気持ちが全然違いますね。ドームの時は気持ちが作れていなかった。どこかで“俺の舞台じゃない”という感覚で。本当はそうじゃないんですけどね。負けて気付くことができました。負けないで気付けるのが一番いいんでしょうけどね(苦笑)」
今は自分がK-1の代表だという気持ちが強い。K-1の代表として、鈴木に勝たなくてはいけない。そう考えている。
「それがK-1に対してのケジメです。玖村くんに対してのケジメでもある」
玖村に対しては「まだ倒して勝ってないから」という思いもある。
「彼もまたチャンスを狙って努力してくるでしょう。俺ももっと努力します」
リング上だけでなくリングを降りても力強いチャンピオンがそこにいた。「僕にしかできないことがある。それが何か、これから見ててください」という彼は、間違いなくK-1王者らしいファイターだ。
文/橋本宗洋