互いに高い技術と殺傷能力、経験を持った者同士が、拳、ヒジ、ヒザを駆使して戦った立ち技最高峰の戦い。縦ヒジで頭部を縦に大きくカットすれば、1ダウンを奪う緊迫感しかない存在しなかった9分間の攻防にムエタイの殿堂が大きく沸いた。
【映像】鋭い縦ヒジでスーパーレックを大流血に追い込むロッタン
9月22日にタイ・バンコクで開催されたONE Championship「ONE Friday Fights 34」。スーパーレック・キアトモー9とロッタン・ジットムアンノンのムエタイ頂上決戦は、スーパーレックがユナニマス判定で勝利。しかし計量でスーパーレックが2キロを超える体重オーバーで臨んだハンデ戦は、フラッシュ気味のダウンなどファンにとってはやや疑問が残る結果に。1ラウンドにヒジの有効打でスーパーレックを流血に追い込んだロッタンは試合後、人目をはばからず肩を落とし、よもやの敗戦にうなだれた。
現在のムエタイにおける最高のカードが実現した。4度の防衛に成功しているONEフライ級ムエタイ世界王者のロッタンと、ONEフライ級キックボクシング世界王者のスーパーレックのファン至極の一戦は、ロッタンとの対戦が期待される元K-1王者の武尊がリングサイドで見守る中で激闘が繰り広げられた。
世紀の一戦を前に、やや水を差す要素があったことも否定できない。本来はロッタンが保持するONEフライ級ムエタイ世界王座をかけた注目のタイトルマッチとなるはずが、スーパーレックが計量で約2.27kgの体重オーバー。現在のムエタイにおける最高のカードは、直前でタイトルマッチではなくスーパーファイトに変更された。
ゴングとともに両者鋭いロー合戦で幕を開ける。至近距離でヒジやパンチが飛び交い、すんでのところで互いの攻撃をかわすミリ単位の攻防が続く。体重超過したスーパーレックがフレームでは明らかにひと回り大きいが、ロッタンはいつも通りの強い圧をかけ、強打を振るっていく。
1ラウンド開始1分半、小柄なロッタンが強烈な先手を放つ。カウンターで左縦ヒジを放つと、一瞬頭を抑えたスーパーレック。黄色に染めたヘアが瞬く間に真っ赤に染まり、ポタポタと額から流れるような大出血。ABEMA実況の小出アキラ・アナウンサーも「血の滝だ!」と叫ぶ。
リプレー映像ではロッタンの下からえぐるように合わせたヒジが刃物のようにスパッと頭部を切り裂く。解説陣全員が「うわぁ」と絶叫、小出アナは「下からの突き上げ縦ヒジ、凶器ですよ完全にヒジが…」と驚きの声を漏らした。
スーパーレックの傷は深いが試合は続行される。そして2ラウンド、スーパーレックが一気呵成の反攻をしかけ、前蹴りやミドルで攻撃。対するロッタンもミドルに縦ヒジを合わせるなど、両者コンパクトかつフルスイングの緊迫感あるやり取りが続く。
試合の流れが変わったのは2ラウンド2分を経過したときだ。スーパーレックはクリンチの離れ際からのボディへのヒザ。さらに立て続けに右ヒザ、さらに縦ヒジを畳みかけると、圧に後退したロッタンが体勢を崩す。ここに追い打ちをかけたスーパーレックがロッタンからフラッシュ気味のダウンを奪う。
ロッタンはすかさず立ち上がって「ダウンじゃない!」とアピールするが、ダウンは有効とみなされる。その後もスーパーレックの猛攻が続き、このラウンドは終了した。
最終第3ラウンドはさらに激しさを増し、ルール枠内で行う極上のケンカマッチとなる。ヒジを叩き込むロッタンを投げで返すスーパーレック。狭いスペースで渾身のヒザとヒジが飛び交うヒリヒリの打撃戦だ。
流血の影響か、やや息切れが見えるスーパーレックだが、大きなフレームを活かし体を預けながらヒザを打ち込んでいく。対するロッタンは近い距離でボディやヒジを返すが、首相撲で巧みに試合のコントロールに入ったスーパーレックが、ロッタンの攻撃をいなして試合終了。殺伐とした試合を終えた二人は、リング中央でひざをつき、抱擁しながら互いの健闘を称え合った。
判定結果は1ダウンを奪ったスーパーレックが3-0で勝利。しかし体重超過のハンデが余りにも大きかったこともあり、ABEMAゲストの志朗は「もう一回再戦ですね。同じ条件でやったら判らない」とのコメントを残した。ファンからも「2キロオーバーは一階級違う」「ロッタンの勝ち」「これはさすがに可哀想」「こんなの実質スーパーレックの負け」など“ロッタン擁護”の声も多く聞かれた。
結果的にハンデマッチとなってしまったが、試合内容はほぼ互角。それでも敗戦のショックかロッタンは、リングサイドでガックリ肩を落とした。
(C)ONE Championship