電力各社“最高益”なのに値下げできない? エネルギー貧困の実態も 「価格の波があるのはわかるがその幅は正当なのか」学生たちの訴え
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 8月、大手電力会社10社の4-6月期の決算が出揃い、8社が過去最高益となった。そんな中、貧困問題に取り組み支援する学生団体らが東北電力を訪れ、質問状を手渡した。その内容は、「なぜ値下げの検討をしないのか」「ステークホルダーへの配当を優先するのはなぜか」「再生可能エネルギーに力を入れないのはなぜか」など、7問。

【映像】電力会社“過去最高益”のカラクリ

 今の状況で、電気料金の値下げはできるのか。そのために電力会社ができることは。20日の『ABEMA Prime』で議論した。

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 「ライフライン無償化プロジェクト」代表でフードバンク仙台メンバーの笠原沙織氏(東北大院修士1年)は、「現場の貧困、特にフードバンク仙台に食料支援を依頼する方からの実態を受けてのもの。今年に入って、利用世帯(601世帯)の37%の人が電気を滞納せざるを得ないという、すさまじい状況になっている」と、プロジェクトを立ち上げた背景について説明。

 「Fridays For Future Sendai」メンバーの鴫原宏一朗氏(東北大院修士2年)は「電気が止められる直前の人も相談に来るが、1日1食しか食べられない方も多い。誰にも相談できず、クーラーも付けられずに、熱中症で亡くなってしまう方が増えている実感があり、問題提起をしたいと思った」と話す。

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 エネルギー経済社会研究所代表の松尾豪氏は「問題意識としては非常に共感するところはある」とする一方で、「急激な化石燃料の価格高騰によって、世界各国のエネルギー料金が上がっている。欧州でも“エネルギー貧困”という言葉が踊っていて、社会が想定していないような事態だ。ただ、意見書の出し先が電力会社なのかという疑問はある」と指摘する。

 東北電力は2年赤字続きで、直近の2023年3月期は過去2番目の赤字だった。また、燃料価格が料金に反映されるのは約3カ月後で、その差から最高益に“見えているだけ”でもある。

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 松尾氏は「燃料価格が上がっている局面は、電力会社はひたすら赤字だ。しかし、燃料価格が下がる局面になると、それまでの赤字分を埋め戻すような形で黒字になるという構図になっている。乱暴な言い方をしてしまうと、おおまかにはプラマイゼロになる」とした。

 これに鴫原氏は「燃料費の価格の波による最高益だというのは明らかだが、その価格の上がり幅が正当なものなのかはまだ検証されていないと思う。そこは1つ今後の論点になってくるのではないか」と問題を投げかける。

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 松尾氏は「東北電力が勝手に値上げできるわけではなく、査定・公聴会、経産省の許可というプロセスがある。経産省の電力・ガス取引監視等委員会の有識者会合で、広報費を積みすぎではないかということで実際に東北電力は削られた経験がある。そういったプロセスを通った上で許可されたものだ」と応じた。

 つまり、質問状は国に対して提出するべきだったのではないか。鴫原氏は「私たちは電気会社にだけ質問状を送る活動をしているわけではない。Fridays For Futureとフードバンク仙台で、生活保護を受けたほうがいい方は一緒に受給しに行ったり、物価の高騰で食べ物の寄付も減っている中で、自分たちで作って、なんとか“私たちの近くにいる人は絶対に死なないようにしよう”という問題意識でやっている。電気やガス、水道の料金を滞納しても、すぐに止めないくださいという申し入れを仙台市にはして、すぐには止めない状態に変えることができた。この物価高騰に対して国は無策。これから冬も来る中で、値上げの理由を明らかにしようということで今回の質問状を出している」との考えを述べた。

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 笠原氏は「企業ではなく国へというのはわかる。電気会社はインフラで、公共性がある事業というのは法律の中にも書かれている。ただ東北電力に関して、2023年3月期は無配当だったが、今期は上期5円、下期10円を予想している。私たちの周りには瀕死状態の方もいらっしゃる中で、これは本当に正当性があるのか。資本主義社会で利益を上げるという観点よりも、人権や生存権という観点で提起していきたい」と訴えた。

 これは公開質問状で、「過去最高益でも配分優先なのか?」と指摘している部分だ。松尾氏は「電力業界は、小売部門については自由化している。上場企業として株主というステークホルダーがいる以上、赤字のメニューを特定の方だけに提供する、赤字供給を放置するというのは、株主代表訴訟の対象になってしまうので非常に大きな問題だ。一方、送配電会社については、電気事業法で『公益性』がきちんと書かれている。ここについて、“貧困世帯は電気を止めないでくれ”“価格をもっと抑えてくれ”“赤字の水準でもいいからやってくれ”と言うのは、公共の福祉の議論の範ちゅうになると思う。電力会社のネットワークはみんなで支えているわけで、誰がどういうかたちで負担をしていくのかという在り方。その前提を抑えた上で議論を深めていく必要がある」と指摘した。

 こうした行動が社会を変えることにつながっていくのか。リディラバ代表の安部敏樹氏は「フードバンクやこういった現場での貧困対策の活動は非常に有意義だが、それだけを繰り返しても根本的な解決にはなっていかない。対処だけしていると、必ずジリ貧になっていってしまう。循環的に貧困を解決するためには、構造的な改革をしていくことが大事だ」と述べる。

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 鴫原氏は「女川原発2号機再稼働の質問に少し触れると、東北電力の有価証券報告書を見ていくと、原発を再稼働させることで電気料金が下がることはないとある。維持するだけで年間約1000億円使っているなら、廃炉すると決めたほうがお金は余るのではないか。こういうふうに、私たちのわからないところで電気料金の値上げが進められてしまっている。私たちもプロではなく、現場の支援をやる中で疑問に思ったからみんなで調べて、実態を明らかにしているところだ。でも、電気料金上がるのはしょうがないし、自分は頑張れないからもっと節約しなきゃ、というふうに多くの人がなっていると思う。それは諦めなくていいし、わからない部分は明らかにするところから、一人ひとりできることはあると思う。そこを今回の質問状で考えてほしい」と呼びかけた。(『ABEMA Prime』より)

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