日雇い労働者が多く集まる大阪・西成、あいりん地区では、野宿をする人も多い。
西成区では約4人に1人が生活保護受給者だ。そんな街で飲食店を営む大前孝志さん(48)は、「もともとは暴力団とか、覚醒剤が飛び交う街。今そんなんないけどね」と語る。
18歳で西成にやってきた大前さんには、暴力団員だった過去がある。和歌山県橋本市出身の大前さんは、高校中退後に暴力団組員となった。覚醒剤の使用や傷害など、逮捕歴は5回以上、最長6年間服役した。30代で結婚し、娘の誕生を機に、暴力団から足を洗った。
そして2017年に、うどん店「淡路屋」を開いた。大前さんは、マンガ「ビー・バップ・ハイスクール」の登場人物「大前均太郎」になぞらえて、「キンちゃん」の愛称で親しまれている。
「ご飯が食えなくて」と淡路屋を訪れた常連客(46)に、うどんが差し出された。実は淡路屋では、うどんの無料提供を行っている。生活保護を受けている川崎さん(47)も、淡路屋にお世話になっているひとりだ。
元ホストで建設現場でも働いていたが、体調を崩して失職。横浜から西成へやってきて3年目を迎える。仕事を再開しようとする気持ちがないという川崎さんに、大前さんは「希望を捨てるってことは、人生捨てたのと一緒に近いくらいのこと。だから頑張って」とエールを送る。
大前さん自身も、暴力団脱退後に生活保護を受けた。いちかばちかで、ラーメン店を始めると、すぐさま人気店となった。しかし、店員が薬物を売っていたと発覚してしまう。警察からは「お前、もともと暴力団やんけ。お前がやらしてるしかあらへん」と疑われて逮捕状が出たため、大前さんは家族を残して、フィリピンへ逃亡した。所持金も底をついて路上生活、生きる希望を失いかけたとき、ある出来事が起きた。
「警備員のおばちゃんが、おかずとご飯、水2本を買って来てくれた。涙流しながら食べて、そっから人間の温かさがわかった」(大前さん)
この時の経験から、「おなかを満たしていれば犯罪も減る」として、淡路屋でのうどん無料提供につながった。
大前さんの7年来の親友「あくっちゃん」こと阿久津さん(56)も、13歳で暴力団組員となり、覚醒剤の売買と使用で、過去7回の逮捕歴がある。出所後に暴力団を出て、生活保護を受けながら、家賃5万円のアパートで生活している。
阿久津さんには、7年前に結婚した妻(29)がいる。妻は阿久津さんの服役中に、覚醒剤使用で複数回逮捕され、現在は服役中だ。息子が刑務所で生まれたが、いまは施設に入っていて、会えるのは年に数回だという。
妻の出所を1年後に控える阿久津さんに、和歌山にオープンする淡路屋の新店の店長にならないかと打診した。大前さんは「この生活に慣れてるから、絶対に苦しい。でも、それを乗り越えていかんと、いつまでたっても、この状態やから」と理由を語る。
阿久津さんのもとに、妻から手紙が届いた。「愛してるよパパ」と書かれた手紙を読みながら、阿久津さんは次の面会を楽しみにしている。
「頑張ったらできるはずやから。店1軒任せて、責任感を持ってしまえば、『俺(阿久津さん)が休んだら店を閉めないとあかん』。それが分かったら、頑張れるかなと思って」(大前さん)
タレントのでか美ちゃんは、「生活保護の制度自体は皆に与えられたものだから使っていいけど、なんとなく『怠けている』みたいな印象があるじゃないですか。それがよくないなとずっと思ってたんですけど」と切り出し、ネガティブな印象を与えられた人々が、社会から孤立してしまう可能性を危惧した。
「こういう場があることで、わけありの店主が気持ちを分かってあげて、ひとりぼっちだとは感じないんじゃないかな、感情の面で」。
政治ジャーナリストの青山和弘氏は、「政治は仕組みを作れても、脱却の手助けはやりきれない」と指摘する。
「街とか社会に溶け込んでいるキンちゃんみたいな人が、ひとり一人に向き合ってあげられないと、いつまでもこのような問題はなくならないし、こういう人を我々も応援して大切にしてあげなきゃいけないと、ほんとに痛感しましたね」(青山氏)
千原ジュニアは、「ほんまにお腹が空いててお金がなくてってときに人からいただいたものって明確におぼえてるもんね。難波の高島屋の横にあった屋台で大将に出してもらったラーメンの味とか」と自身の体験を振り返った。
(『ABEMA的ニュースショー』より)
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