通報件数が年々増えている中、119番通報を受ける通信指令室を悩ませているのが、通報者のモラル。緊急通報が100万件を超え過去最多となった東京消防庁がXで、「不要不急の電話については最後までお話を聞かずに切断する場合があります」などと投稿したことが話題となった。
中には「明日入院するので救急車を予約したい」「犬の体調が悪い。動物病院に運んで」「電気が消えなくなった 何とかしてほしい」といった通報もあるそうだが、一方で40度近い熱が出たために救急車を呼んだという投稿に「その程度で救急車を呼ぶな」と批判が集まり、議論にも。
どのような場合が適切な119番通報なのか。また、指令室側の実態は。『ABEMA Prime』で専門家に聞いた。
■「体の症状ではない場合は不要不急」
東京消防庁でオペレーション業務を経験した甲斐誠氏は「こちらが不要だと判断して電話を切ることは、4年前までの対応ではまずなかった。大変驚いたし、切羽詰まっていることを感じた」とコメント。
深谷市消防本部で救急通報のオペレーションに携わり、救急救命士で東北福祉大学助教の福田理絵氏は「相談できる人が近くにいない時に、番号がすぐわかるのが119番。110番よりは何となくハードルが低いということで、わりと簡単に電話をされるのではないか」と推察する。
東京消防庁によると、通報のうち緊急性の低いものが全体の約2割で、救急搬送された人も53.4%が軽症だったという。甲斐氏は「本当につらくて、病院に行ったほうがいいような場合は呼んで間違いないと思う。ためらうようなことは絶対にしないほうがいい。ただ、今回の議論は最低限のモラルのところ、オペレーターのマニュアル以前の話だと思う」と指摘した。
福田氏は自身が受けた電話について、「『処方されている睡眠薬を飲んだけど眠れないので何とかしてもらえないか』とか、消防車が放水するイメージからか『家の中で水漏れしているので来てもらえないか』というのはある。何か症状があるわけではない、こういうケースは不要不急だと思う」と話す。
甲斐氏は「夜間帯の救急病院は救急車じゃないと受診できないんじゃないかとか、救急車だったら良い病院に行けるんじゃないか、良い処置を受けられるんじゃないか、入院ができるんじゃないか、と考えていらっしゃる方がいると司令室の同期から聞いた。それは勘違いだと知ってほしい」と訴えた。
ただ、無言電話は対応に困るそうだ。甲斐氏は「電話を一方的に切られた時は、“意識がなくなったのかもしれない”という可能性を含めて必ず折り返す」、福田氏は「大体はポケットに入れたスマホから発信してしまっているケースだと思う。ガサガサという音や雑踏音があれば間違いだと判断するが、一応は相手から『何でもない』という確認を取る必要がある。最後まで対応しないわけにはいかないので、これはけっこう困る」と明かした。
■「急に出てきた症状、普段と明らかに違う状態は迷わず119番通報を」
甲斐氏によると、通報を受けた時に必ず聞き出すのが「場所」。「固定電話の場合はピンポイントで住所がモニターに上がってくる。今はほとんどの方がスマホからかけられると思うが、GPSで半径何百メートルという情報だ。そこから具体的に向かわせるには、“何丁目何番何号”まで聞き出さないといけない。その“何号”を間違えただけで到着が遅れてしまい、助かるはずだった命が助からない可能性がある。そこはものすごく緊張感を持ってやっている」と明かす。
指令室の電話は「全員でひたすら取って、ずっと聴取しているその間もモニターが光っていて、滞留しているのを目の当たりにしていた。こんなに鳴り続けるものだと思った」という。
出動させるかをどのように判断していたのか。「基本的に長く聴取できないので、“歯が痛い”でもすぐ向かうようにしていた。また、ポンプ車(P)と救急車=アンビュランス(A)で“PA連携”というが、重要案件と判断した場合は2台同時に出す。簡単な判断材料としては、胸が痛いという通報の場合、心臓に直結していて命の危険が迫っている可能性があるので、必ずPA連携。次に頭痛。一方、お腹や足、歯が痛いなどは命にすぐ関わることではないということで、救急車を1台出すのが基本だった」と述べた。
では、通報する側はどういう基準を持っていればいいのか。福田氏は「その症状が急に出てきたものなのか。例えば、夕方にお腹が痛くなって朝まで様子を見ていたという場合は、一晩我慢できたということでその後病院に行くという判断でいい。しかし、急に激痛が走ったということであれば悪化する可能性があるので、すぐに救急車を呼んでもいいと思う。あとは、普段と比べて顔色が明らかに悪いとか、呼吸が苦しそう、呂律が回らない、反応がおかしいという時は迷わずに119番通報をしてほしい」と呼びかけた。
フリーアナウンサーの柴田阿弥は「いろいろな人がいて、人によって不要不急の線引きは違うので、性善説や常識での運用は信じていない。なので、迷った時は#7119(電話相談窓口)にかけることを周知するのと、110番などと同じくらい義務教育で教えたほうがいいのでは。そして、切る時は『それは救急ではありません』と伝えるのはやってもいいと思う」との考えを述べた。(『ABEMA Prime』より)
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