性別変更に手術要件は違憲か? 最高裁が判断へ「“お医者さん頼み”の運用も問題では」
【映像】ホルモン療法による「効果・副作用」
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 戸籍上の性別変更には、手術が必要とされている現行の法律が、憲法に違反するか否かを争っている裁判。最高裁は9月27日、申立人側から意見を聞く弁論を開いた。この問題で最高裁が判断を前に当事者側から話を聞くのは異例だという。

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 申立人は戸籍上、男性として生まれ、現在女性として生活しているトランス女性。4年前に手術なしでも性別を女性に変更できるよう裁判所に申し立てをしたが、家裁・高裁ともに法的な要件を満たさないと訴えは退けられ、特別抗告している。最高裁の判断は年内にも示されるとみられているが、自民党内からは懸念の声も。9月8日、保守派の議員連盟が手術の要件を維持するよう声明を出した。

 性別の変更に手術は必要なのか。『ABEMA Prime』で、申立人の代理人を務める南和行弁護士とともに議論した。

■「“戸籍を変えるために手術をする”という逆転現象が起きている」

 申立人にあるのは、「戸籍を変えるために何度も手術を考えたが、痛みや傷、リスク、費用、療養期間、その後のダイレーションの行為を考えると、容易に決断できなかった」という思い。裁判については「誰でも簡単に性別変更できればいい、と思っているわけではない」という考えだ。

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 南弁護士は「ホルモン療法などを長く受けていて、手術をしていなくても女性として生活するのに何の支障もないし、周りとトラブルになっているわけでもない。『私のような状況でも手術していないと駄目なんですか?』ということで家庭裁判所、高等裁判所に異議申し立てをしたが、それでも認められないので最高裁に行った。例えばがんの手術は、身体の中にある悪い部分を取って健康になるためにする。性別適合手術というのは、望む人にとっては安心感や充足感はあるかもしれないが、逆に身体上の問題が生じる可能性だってある。法律上の性別を変えるためだけにそれをしないといけないのかと考えると、やはりできないということだ」と話す。

 戸籍上の性別変更が認められる要件には、「生殖器がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」「その身体について他の性別に係る身体の正規に係る部分に近似する外観を備えていること」がある(性同一性障害特例法3条1項)。

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 精神科医ではりまメンタルクリニック院長の針間克己氏は「2002年に法律ができた時の背景として、その数年前から性別適合手術が行われるようになったものの戸籍が変えられない、つまり手術を前提に作られた面がある。しかし、20年の歳月の中で世の中の考え方も変わってきて、LGBT法で出たようにジェンダーアイデンティティへの意識が高まっている」と説明。

 南弁護士は「この特例法があるために、自分のジェンダーの問題を丁寧に考えることなく、“手術までやってしまわないと”“一気にやってしまえば生活やメンタルヘルスもよくなる”と、パッケージのように若い当事者の方に思わせてしまっていないか」と疑問を呈する。

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 針間氏は「特例法ができて一番驚いたのはその力。年間数十例くらいだった手術件数が、数百例にどっと増えた。手術のハードルが下がったという点では必ずしも悪いことではないが、“手術をした人が戸籍を変えよう”という流れだったのが、“戸籍を変えるために手術をしよう”という逆転現象が起きてしまっている」と指摘した。

■“性別変更”の手続き 手術に代わる要件は…?

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 申立人は戸籍上では「男性」のため、就職や医療、その他手続きで困難に直面することがあるという。南弁護士は「普段は平穏な生活を送っているにも関わらず、書類の手続きなどでわかってしまう瞬間があるわけだ。一から十まで説明をしないといけなかったり、“手術をしたら戸籍を変えられるのになぜやっていないのか?”と言われたり、聞いた情報だけで“この人はこうだ”と決めつけらたりする」と述べる。

 性別変更に関わる手続きは、どのような形が良いのだろうか。針間氏は「裁判所で性別を変えるには、精神科医が詳しい診断書を作らなければいけない。それにあたっては、やはり手術をしているというのはすごく楽だ。手術までには1、2年の期間があり、その間に十分診ることができるのだが、いきなり来て診断しろというのは実は困る。僕は1万人ぐらい診てきているが、性別違和を訴える人にもいろいろあるので、手術なしに精神科医に丸投げされたら大変厳しいというのが正直な実感だ」と明かす。

性別変更に手術要件は違憲か? 最高裁が判断へ「“お医者さん頼み”の運用も問題では」
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 その上で、「特例法を作り直すという考えもあるが、第2条に“自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者”という定義もある。これはほとんど無視されているが、簡単に変更できるようになってしまうことへの反対の声があがるのは、ここの定義をしっかりさせることなのかなと思う」との見方を示した。

性別変更に手術要件は違憲か? 最高裁が判断へ「“お医者さん頼み”の運用も問題では」
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 南弁護士は「特例法の様式に則った診断書を持ってくる人について、実は多くの裁判官が“お医者さんが言ってるんだから”と判子を押すような運用になっているのも問題だ。それで何かあったらすぐお医者さんに丸投げ。例えば性分化疾患といって、生まれた時の体の形、状況だけでは男女をすぐに決められない方について、大人になってから戸籍の性別をどうするかという裁判もある。裁判官は“お医者さんはこの人を男・女だと言っている”という態度でくるのだが、医者は医学的・解剖学的な体の状況は説明できても、社会生活の中で法律とどう適合させるのが良いかまでは言えない。ひっくり返りそうになったのは、『性別適合手術を受けたら染色体も変わるのか?』と裁判官に平気で聞かれたこと。こと性別の問題になると、社会と法律のことを考える専門家という責任を放棄してしまっている。特例法という最大公約数ではなく、裁判官がその都度判断しないといけないことでもあると思う」と指摘した。(『ABEMA Prime』より)

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