7日、東京・大田区総合体育館で開催された「3150FIGHT vol.7」で、WBCミニマム級暫定王者の重岡優大が正規王者のパンヤ・プラダブスリ(タイ)に判定勝ち、IBF同級暫定王者の重岡銀次朗が正規王者のダニエル・バラダレス(メキシコ)に5回2分15秒TKO勝ち。兄弟が同じ日に同じリングで王座を統一し、正規の世界チャンピオンに輝くという記念すべき夜となった。

 重岡兄弟は4月にそろって暫定王座を獲得。「兄弟同時世界チャンピオン誕生」と報じられたが、トラブル続きで正規王者との対戦が流れた末の暫定王座設置だっただけに、ミソがついたのは否めない。何より一番すっきりしなかったのは、暫定ベルトを腰に巻いた本人たちだった。

 優大は「前回の試合は暫定だったので、世界戦という感じがしなかったけど、今回はチャンピオンが相手なので初めての世界戦という意気込み」と試合前に語っていた。今度こそ本当の世界チャンピオンになれる。2人にとって正規王者との団体内統一戦は、真の実力を証明するために、絶対に負けられない一戦だった。

 先を切ったのは銀次朗だ。バラダレスとは1月に対戦し、3回に偶然のバッティングで頭を打ったバラダレスが痛みを訴え続け、そのまま試合は再開されず、無効試合になってしまったという因縁の相手である。

 銀次朗は初回1分半過ぎ、左ストレートをコンパクトに打ち抜き、早くもダウンを奪う絶好の立ち上がり。早期決着を予感させながら、ラウンド後半に危惧していたバッティングが発生した。バラダレスが頭部を、銀次朗が右目上をカットし、試合はいきなり流血戦となった。

 これで「少し焦った」と試合後に明かした銀次朗だが、リングでは不安を一切表に出さなかった。前回の試合の汚名返上に燃えるバラダレスに対し、磨いてきた左ストレートを顔面に、ボディに打ち分けてリードを広げていく。迎えた5回、銀次朗は右アッパー、左ストレート、ボディ攻撃でメキシカンを追い込み、ロープを背負ったバラダレスに連打を浴びせたところで、主審が試合をストップ。第1戦の鬱憤を見事に晴らしてみせた。

 印象的だったのは勝利者インタビューを受ける銀次朗の態度だった。うれしそうな素振りがあまり感じられないのだ。その理由は試合後に明かされた。

「兄貴の試合が終わってなかったので100%満足できなかった。勝ってなかったら兄貴のセコンドにはつけなかったので、無事にセコンドにつけて安心した気持ちだった」

 一方、試合前の兄は弟のセコンドにはつけず、控え室のモニターでハラハラしながら銀次朗のファイトを見守った。試合が終わり、バトンを受け取った優大はそのときの気持ちを次のように語る。

「だれよりも信頼している弟がセコンドについてくれるのは心強い。安心度が違う。ただ、ありがたいけど、オレの前に試合をしないでほしい。(弟の試合が気になって)アップの仕方が分からない(苦笑)」

 優大は弟を従えて慌ただしく入場、試合開始のゴングが鳴った。パンヤはゆったりとしたリズムでジワジワと優大に迫り、得意の右ストレートを狙ってきた。スピードで上回る優大は脚をよく動かしながらジャブ、右フック、左ストレートでパンヤに迫る。いいパンチを当てても、パンヤの表情が一切変わらないのが不気味だ。

 銀次朗は町田主計チーフ・トレーナーとともにセコンドに入り、リングの優大に声をかけ続けた。中盤に入るとポイントでリードする優大に迷いが生じた。「パンチは当たっているけど倒すイメージがわかない。どこを狙えばいいのか…」。そう優大に打ち明けられ、町田トレーナーと銀次朗が戦況を分析した上で答えを導く。「右ストレートの打ち終わりを狙え」。アドバイスをもらった優大は「戦いやすくなった」とペースを上げていった。

 優大は優勢をキープしながら、パンヤはタフで、決して崩れない。両者は4月に対戦するはずだったが、パンヤがインフルエンザ感染で試合をキャンセル。パンヤはその後、別の防衛戦をはさみ、万全の体制を作って来日、この試合にかけていた。

 それでも12ラウンドを戦い終え、採点は119-109が2人に117-111の大差で優大が支持された。兄弟で記者会見に臨んだ優大は「ワンサイドで勝っても悔しさはあるけど、小さいころからあこがれていた舞台が今日だったので、自分を褒めたいと思う」とノックアウトを逃した悔しさをひとまず置いて、こちらも安堵の表情を浮かべた。

 兄弟で小学生のときから空手に励み、優大が中学生になってからボクシングに本格的に取り組んだ。優大は熊本・開新高、拓殖大で、銀次朗は開新高で輝かしい成績を残し、期待のエリートとしてプロ入りしたが、最初から恵まれた環境でボクシングができたわけではない。試合翌日、優大はしみじみとこう話している。

「1年前はアルバイトをしていたけど、3150FIGHTに拾ってもらって、ボクシングに集中できたのが大きいと思う。チケットを売ることも、スポンサーを集めることも考えなくていい。ただ練習して、反省しての繰り返し。この環境が僕たちを強くしてくれたと思う」

 熊本で世界チャンピオンを夢見た兄弟は大きな仕事を成し遂げた。喜びはもちろんある。そして同時に「まだ満足していない」と口をそろえた。今後の目標は兄弟でミニマム級4団体を制覇すること。銀次朗はその先に具志堅用高の持つ金字塔、世界タイトル連続防衛記録V13の更新を目指し、優大は将来の階級アップを見据える。

「もっとスキのないボクシングを身につけて、自分のスタイルを磨き上げたい。僕らはまだ無名で、認められていないところもある。批判する人たちも黙らせるような実力をつけたい」(銀次朗)

「重岡兄弟の物語は“チャンピオン編”に突入した。これからは強いヤツとしか試合をしないし、見たことのない世界に足を踏み入れる。どこまでいけるか分からないけど、自信はあるし、僕たちはどこまでも行けると思っている」(優大)

 3150FIGHTの亀田興毅然ファウンダーは兄弟が夢見る統一戦や、生まれ故郷である熊本での凱旋防衛戦をできる限り後押ししていく考えを示した。無限の可能性を持つ重岡兄弟の新たなストーリーが始まった。

亀田和毅、かみ合わなかった歯車と要因 「こういう結果になってお兄ちゃんに申し訳ない」試合後には神妙な面持ち | ニュース | ABEMA TIMES | アベマタイムズ
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亀田和毅、かみ合わなかった歯車と要因 「こういう結果になってお兄ちゃんに申し訳ない」試合後には神妙な面持ち