税収過去最高で岸田総理が「国民に還元したい」と発言。具体策として総理自らが含みを持たせる減税で日本は成長できるのか。
10日の経済財政諮問会議で、岸田総理大臣は「成長の成果を国民に適切に還元したい。予算、税制、規制、制度改革などあらゆる政策手段を総動員する」と言及。今月まとめられる経済対策について議論された同会議で、減税も含めたあらゆる政策を総動員すると強調した。
これまで防衛増税や社会保険料の見直しなど国民の負担増をめぐりSNS上で“増税メガネ”と揶揄された岸田総理だが、減税に含みを持たせ、政府・与党周辺でも減税論が飛び交い始めている。自民党の世耕参院幹事長は「成長へ向けた民間企業の投資を促進するためには法人税の減税が有効。所得税を減税して、勤労者の手取りを増やしていくのも非常に有効な措置だ」と述べた。
また、自民党の若手議連が新藤経済再生担当大臣に、所得税や消費税の減税、財政出動などを求める提言を手渡した。同議連の共同代表を務める中村裕之衆議院議員は「消費税減税や社会保険料の減免などもぜひ検討いただきたいと思う」と述べた。
3年連続で過去最高の税収が続くなか、減税で経済や生活は豊かになるのか。11日の『ABEMA Prime』では、減税と財政出動を提言した自民党・若手議連の共同代表、前明石市長の泉房穂氏らとともに考えた。
なぜ今? 自民議連「消費税5%」提言の真意
減税と財政出動を提言した、『責任ある積極財政を推進する議員連盟』共同代表の中村議員は、「岸田総理が税収増を還元したいということは成長と分配の好循環に合っている。減税はありだと思っている。我々は特に自民党的にタブーとされている消費税に切り込むべきだと思っており、今回あえてチャレンジした」と説明。
消費税5%を掲げた理由について「物価高のしわ寄せで今一番苦しいのは家計だ。可処分所得が増えていない状況で、消費税はどんなに生活が苦しくても払わなくてはならない税金だからターゲットにすべき。財政当局は一番嫌がるところだが、国民の皆さんにとっては大きな負担だと思う。そこに切り込むべきだということであえて掲げた」と述べた。
そのうえで「総理大臣が減税について触れているのだから、これを良いかたちで実現するのが我々の役目。それで提言や働きかけをしている。メディアも通じて訴えながら総理の決断を促していきたい。岸田政権全体としては選挙目当ての政策かもしれないが、我々は国民の皆さんに良い政策をするという考え。単に選挙目当てとあしらわれるのは心外だ」とコメントした。
国民への還元=減税が最適解? 無償化という選択肢も
前明石市長の泉房穂氏は「今、国民の生活が大変だから、時限措置でいいので食料品は速やかに軽減税率を適用して0%にすべき。日本の場合、消費税は10%か8%だが、イギリスやアイルランドでは食料品の消費税率は0%だ」としつつ、「減税も大事だが、費用負担の軽減を図ったほうがいい。私は、子育てや教育の無償化に思い切って財源を使ったほうが効果は高いという考えだ。国民がお金を使えるようにするのは大賛成。その手法として減税だけでなく無償化もある。子育て費用、医療費、保育料、給食費などの無償化はすぐできることだ」と指摘。
続けて「明石市は医療費、保育料、給食費、おむつ代や遊び場代は無償。高齢者のコミュニティバス代も無償にしている。つまりみんなが使うであろうものは、みんなのお金でやればいいと。若干贅沢なものは自腹を切ってくださいという交通整理だと思う」と述べた。
一方、東京大学大学院准教授の斎藤幸平氏は「最近、総理は“増税メガネ”と言われ、自民党も支持率が危ないなかで選挙対策の人気取りにも見える。そうした短期的な視点で、簡単に消費税を5%にされて、後から財源が足らなかったとなって税率を上げたら、将来世代に負担を大きく残す。その点は少し心配だ」と述べた。
さらに「減税という言葉の響きはいいが、困っている人たちに対して医療や教育などで現物給付を与える再分配のかたちがもっとあるはず。日本は【図】のように借金が増え続けている。アベノミクスで大量に金融緩和などを行なったけれど成長しなかった。この難しさを考えると財政出動さえすれば経済が成長するというのは、あまりに楽観的ではないか」と指摘した。
具体例にも触れ、「例えば先日訪れたオーストリアでは、共産党が今インフレ対策として、一定程度のガス使用量を国が負担する現物給付をしている。誰もが無償で最低限のガスを使えて、超えた人はある程度払うようになっていく。同様のことは日本でもできる。最低限のガス、水、電気などを“コモン”という誰もがアクセスできる共有財にして保障していく。そのためには財源が必要だが、余っているというのであれば、これらのインフラに予算を振り分けていくべきだ」とした。
そして、「現金で還元すると結局どう使われるか分からない。国が責任を持って、誰もが必要とするものに分配すれば、貧しい人だけではなく、みんなの生活が豊かになる。日本人は税に対して悪いイメージがあるけれど、きちんとした使い方をして、北欧などのように“税金は払っているけれどみんな満足している”といった公平感がある政治をしてほしい」と述べた。
減税の必要性については「消費税なども目先で考えれば確かに明日払うお金が少し安くなる。ただ、高所得者は消費税を払っている金額が多い。そして彼らは高いものをより多く買う。だから、例えばスポーツカーなどの高級品を減税してしまうと、結果的にはむしろ格差が拡大することになる。消費税がこのままでいいと言いたいわけではないが、安易に税率を下げるより、現状のまま誰もが困っているものなど、みんなが満足感あるような税金の使い方に変えていくほうが大事ではないか」と指摘した。
減税の見通しは? 自民党の議連は実現に意欲
中村議員は「選挙はいつあるか分からない。おそらくこの経済対策の補正予算を臨時国会で提出をするので、次の選挙よりこちら(=減税)の議論が先になるだろう」と見通しを語った。
そのうえで「岸田さんに増税イメージがあるのは、防衛増税やインボイスなど、どちらかといえば財務省が主導してきた政策によるもの。加えて経済財政諮問会議や政府税調など、財務省が事務局を持っているところが増税イメージを与えている。岸田さんはそれにイライラしているはずだ。だから一番財務省が嫌がるところをきちんとやれよと。“総理のリーダーシップ・政治決断で消費税までやろうよ”ということを期待しているし、我々はそれを自民党内の議論などで訴えていく」と意欲を示した。
(『ABEMA Prime』より)
■Pick Up
・「ABEMA NEWSチャンネル」がアジアで評価された理由
・ネットニュース界で話題「ABEMA NEWSチャンネル」番組制作の裏側