「訂正印さえ知らなかった俳優」が農園経営者に なぜ、小林涼子は「日焼け」も「超多忙」も厭わないのか?
【映像】10クール連続でドラマ出演+経営者 どれだけ多忙?
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 役者と経営者、2つの顔を持ち、持続可能な農業の実現を目指す俳優・小林涼子さん。彼女が夢見る農業と福祉の連携、“農福連携”の推進とは。その想いに迫る。

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 心地よい水のせせらぎ、鮮やかなオレンジ色の花々。どこか穏やかな時間が流れる農園だが、実は大都会のビルの屋上にある。今年9月にオープンしたAGRIKO FARM 白金。ビルの屋上を活用した都市型農業を実践している。

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 この農園を作ったのは、俳優の小林涼子さん(33)。映画やドラマにCMと、これまで数多くの作品に出演する傍ら、持続可能な農業の実現を目指し活動を行う、株式会社AGRIKOの代表も務めている。今回、小林さんに屋上農園を案内してもらった。

「循環型農法”アクアポニックス”を活用している」(小林さん、以下同)

 養殖と水耕栽培のシステムを合わせ持つ“アクアポニックス”。魚の排泄物をバクテリアが植物の栄養素へと分解し、植物が水をきれいにして再び水槽に戻すという循環型農業だ。

「魚を養殖していて、魚の食べ残しや排泄物が含まれる水を循環させて植物を育てている」

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 そして、この農園にはある別の役割がある。

「月~金曜までは障がい者の方が働いてくれている」

 農業と福祉の連携、”農福連携”。この農園では、障がいを持った人たちも共に汗を流している。4歳の時にデビューし、俳優としてのキャリアを築いてきた小林さんが農業に触れたのは2014年のこと。高齢化により荒廃が進む、父の友人の持つ新潟県の棚田で農作業を手伝ったことがきっかけだった。そして2021年、家族の体調不良を機に起業を志す。

「(農業を)続けることが難しくなってしまい、『持続可能な農業とはなんだろう』『バリアフリーな農業ができないか』と。具体的にどういうことができるかを選定する中、”農福連携”という言葉と出会った」

 障がいのある人たちが農業を通じ、自信や生きがいを持って社会への関わりを実現していく“農福連携”。国も推進に向けた取り組みを進めている。

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「資格取得に向けた講習があるが、実際に障がいを持った方や高齢の方と一緒に行える農業のやり方、農法などを勉強した」

 小林さんは研修を受け、「農福連携技術支援者」の認定を取得。そして2021年、株式会社AGRIKOを設立した。ゼロからのスタートで、初めはわからないことだらけだったと話す。

「大変だったのは、ビジネスメールや書類を作ること。これは本当に俳優業ではやらないことで、窓口の方に何度も聞きに行ったり、間違ったときに訂正印を押すことも知らなかったり、恥ずかしい思いをたくさんした」

 これまで、ビルの屋上などを活用した農園の運営や、企業の障がい者雇用支援など、社会課題解決のサポートを行ってきたという小林さん。その生活は多忙そのものだ。

 ある日の朝、提携する施設で育てられた苗を受け取ると、世田谷区・桜新町にある農園へ。その後、白金の農園にもその苗を届ける。この作業は毎週欠かさず行うそうだ。昼過ぎには都内のオフィスで、障がいを持つ人が書いた絵の商品化に向けた打ち合せを行う。

「みんなが書いてくれた絵でコースターや紙袋を作ろうと。成功してほしい…頑張ります!」

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 現在、10クール連続でドラマに出演中の小林さん。時には撮影現場から打合せをすることもあるという。

「超大変!大変だけど2倍楽しい。俳優業で行き詰まって『もうできないかも』と思うと、農業でいろんなことを試して世界を広げて、『こういうこともできるかもしれない』と思って、また俳優業に戻していく。私の中でくるくる循環している感じ」

 自身にとって農業とは「生きることそのもの」と話す小林さん。創業から約3年、持続可能な農業の実現、農福連携の推進と、まだまだ課題は多くあると話す。それでも彼女は二足のわらじを履き、歩み続ける。未来に向け蒔いた種が芽吹くことを信じて。

「農福連携や都市農業を通して、おいしいものを食べ続けられる未来を作っていきたいなと。それにおいては皆さんの協力が必要だと思うので、企業や飲食店の方、消費者の方々、みんなをつなぐ輪になっていきたいなと感じている」

 農福連携について、世界ゆるスポーツ協会代表の澤田智洋氏に話を聞いた。

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━━二足のわらじの働き方をどう見る?

「楽しそう。僕も広告・福祉・スポーツと、三足のわらじみたいにしているが、その良さは“目が増える”こと。僕は、広告の目である仕事を見ているときにうまくいかなくても、福祉の目で見たら行き詰まっていたのがブレイクスルーされる。目は2つあるから世界が立体的に見えるので、小林さんは二足目のわらじを得て、俳優業にも活かされると思う」(澤田氏、以下同)

 小林さんは、「農福連携をまず知ってもらわないと間口が広がらない。障がいを持った方も私も、得意なこと・苦手なこともあるので、得意なことで協力していくのが農福連携ではないか」と話す。

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 農福連携について、「農林水産省における農福連携の推進について」(農林水産省)によると、農業・農村のメリットとして、農業労働力の確保、農地の維持・拡大、地域コミュニティの維持などがあるという。また、福祉(障がい者等)のメリットには、雇用の場の確保、生きがい・リハビリ、一般就労のための訓練などが挙げられている。

━━農福連携についてどう考える?

「近代化以降、世界を工業化、効率化していき人は工場で働くようになった。実はそこで障がいのある方たちが省かれていった。工場は時間厳守、マニュアルに沿った作業やチームワークが大事とされ、コミュニケーションが重視された。しかし、障がい特性によってはそういったことが苦手なことがあり、近代以降の社会では障がいのある方がどんどん仕事ができなくなってきている」

「しかし、農業には役割がたくさんあり、対人関係が苦手でも集中力がすごく高い特性の方がいれば、黙々と作業するかもしれない。働く上ですごくチャンスが広がると思うので、もっと農福連携を知ってもらえるといい。水耕栽培など、東京でもできる農業のスタイルも増えてきているので、テクノロジーや手法の多様化もますます後押しになっているのではないか」

(『ABEMAヒルズ』より)

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