高校通算140本塁打を誇る佐々木麟太郎内野手(花巻東)が10日、プロ志望届を出さず、米国の大学に進学する意向を示した。
実は今、政府は若い世代の留学を推奨・支援しており、政府の『教育未来創造会議』によると2033年までに学生50万人の留学を目指している。岸田総理大臣は「わが国の未来を担う若者が留学を通じて成長し活躍することは、社会を変革するための鍵となる」と述べた。
特に高校生の留学人数は従来4万7000人だった目標を約2.5倍の12万人へ増やすなど力を入れている。「短期でも海外を経験させないと日本はオワコンになる」「行きたいけど2年や3年になると受験に響くから迷ってしまう」「かかるお金と英語力で心が折れてしまう」(Xへの投稿から)など賛否両輪の声があがるなか、若いうちに留学する是非は? 18日の『ABEMA Prime』では専門家と留学経験者にメリットとデメリットを聞いた。
なぜ高校生の留学が「絶妙」なのか
若い世代の留学を推奨・支援する動きをどうみるか。
著書に『グローバル就活・転職術』などがあり、20年以上にわたって留学支援に携わる大川彰一氏は「今までの留学数はピークで約20万人と言われているので目標自体はチャレンジング。50万人は倍以上の数字だ。高校生に着目しているのは非常にいいこと。留学が早いと順応性が高まり、英語力も伸びやすい。タイミング的には絶妙だ」と述べた。
続いて「高校生は将来の進路や大学進学、就職など自分がどのような人間でこれからどうしたいかを考えるタイミング。佐々木選手のように、海外に出てアウェイな環境で自分自身を知り、アジア人・日本人を否が応でも意識する。異文化理解と言うのは簡単だが、時間もかかるし大変だ。高校生で経験できれば将来の選択肢が増える。親の収入など環境が整わなければ若いうちに行けない。多くの人が行けるタイミングとして可能性が高いのは高校生だ」と述べた。
高校生で海外留学 当事者が実感した現実
高校時代にオーストラリアへ1年留学した後藤真吾氏は「2年生の時に留学した。自分が決めたゴールを達成できなかった部分は失敗と捉えている。1つはネイティブの人とテンポを落とさずにスピーキングできる語学力の習得。2つ目は現地の友人を作ってコミュニティに入り込み、新たな価値観に触れていくこと。現実は甘くなく、1年間で納得いく結果が出せずに終わった」と明かした。
また、「現地の高校はアジア人が大勢いる。メルボルンは中国人がとても多く、日本人が学校に1人いても珍しくない。現地の人から珍しさで声をかけてもらえる体験は一度もなかった。自分から積極的に声をかけないと現地とのつながりも日常的に生まれなかった。現地も日本と同じく仲良しグループや派閥がある。1年間行ったからこそわかったリアルだ。小学生から和歌山県の学校で寮生活をしていて日本語でなら友達作りはできていた。ただ、例えば5人グループに英語がままならない自分が一人で声をかけに行くのは難易度が高かった」と述べた。
さらに、「日本に戻ってから数学や国語など他の教科でも圧倒的に学力の差がついた。受験が迫るなかで進路の選択肢が狭まった。ただ、同期で海外に行った友人は、独学で教材を持ち込んで数学の勉強をするなど、やる人はやっているので、一概に言えないところもある」とした。
近畿大学情報学研究所所長の夏野剛氏は「後藤さんは留学先を間違えただけだと思う。現地のコミュニティに入りたければ、AFSやロータリークラブがやっている交換留学で、例えばアーカンソー州の公立高校に行けばいい。ニューヨークに行くと日本語だけで全て終わるという話がある。日本人が少ない場所はたくさんある」と指摘。
また、リディラバ代表の安部敏樹氏は「TOEICで990点、950点取れていても、現地の飲み会でスラングが入ったら難しい世界だ。コミュニティに入るのは相当ハードルが高い。大谷翔平のようなモデルを日本人はもっと意識していい。その人の話を聞く価値があると思えば拙い英語でも聞いてくれる。国内や言葉が通じる世界で実績を出していくルートがあれば、グローバルで競争して何者かになっていくルートもある。それぞれ難しさがあり、どちらでもいいのではないか」と述べた。
専門家と経験者からみた留学のデメリットは?
大川氏は「留学のリスクをきちんと提示することが大切。現地に行くと空港で迎えの人が来ない、電話をしても通じないなど想定外のことが起きる。日本の当たり前は全く通用しないので、理解して準備をする。最近はワーキングホリデーで現地に行ったものの、情報不足で仕事がない、滞在先が見つからない事例も報告されている。自分で現地の掲示板を調べていくなど情報収集が大事だ」と指摘。
また、「日本で活躍できない人が海外で活躍できることもある。協調性を求められる教育制度で芽が出ない人が現地で輝く。数学でスーパースターになることもある。ただ、メンタル面も留学では重要だ。異文化適合で“Uカーブ”“Wカーブ”と言う。最初はハネムーン期でノリノリで行くが、現地に行ってからショック期でホームシックになり、友達ができないことはある。自分も経験したが、長期で行くと最終的には適合して理解に至るケースが多いので、自分はショック期だと理解していくのがいい。途中で帰国する人は少ない」と述べた。
後藤氏は「留学で飛び立って以降、例えば漢字などの勉強が止まってしまった。機会ロスはあったと思う」と述べた。
海外留学のメリットは就活にも
デメリットも踏まえて大川氏は「日本の平均年収値は下がっているし、時価総額ランキングでも日系企業は元気がない。多くの選択肢を持つことは大事だ。日本では新卒一括採用で終身雇用だ。留学経験がある学生ですらジョブ型雇用に至らない。アカデミックな留学にプラスして、海外インターンシップなど海外経験が必要になる。今の大学生はビジネスで英語を使って世界に発信できる素質があり、留学の経験も積んでいる。留学者が50万人になればグローバル就活のジョブ型でも新卒一括採用でも就活できる。世界中どこでも働ける」と述べた。
留学経験者の9割が国外で働きたいとのデータには「トビタテ!留学JAPAN(文科省と日本学生支援機構の取り組み)の学生で非常に多いが、海外留学を経て自分はやはり日本人だ、日本の文化について知りたい、地元に帰って自分の地域に貢献したいとマインドが変わる学生が最近多い。後藤さんのような良い経験をして海外を知れば知るほど、地元にも還元したいという学生は多い」と言及した。
最後に後藤氏は「留学自体は失敗ではなかった。就活で“このサービスをどうしたいか”と面接官に聞かれた時、異文化を経験して様々な価値観に触れておくことで広い視点で回答ができる。そうした練習になった期間だったと今では捉えている」と述べた。
(『ABEMA Prime』より)
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