中学受験を筆頭に、私立学校の人気が高まっている首都圏の各自治体では、公立学校の魅力度向上が課題になっている。そんな中、あらゆる手段で子どもたちの学習をサポートし、成果を出し始めている東京・足立区の取り組みを取材した。
バスに乗り自然豊かな場所へ行き、おいしい食事を囲む。夏休み中の中学生の1コマを写した写真で、なんとも楽しそうな雰囲気が伝わってくるが、これはただの旅行というわけではない。
「教員がマンツーマンで付く勉強漬けの合宿を、今年は2泊3日で行った」(足立区学力定着推進課・田巻正義課長、以下同)
足立区が2013年から実施しているのが、中学1年生を対象にした夏休みの勉強合宿だ。千葉県の鋸南町で、数学に絞った50分の授業で1日9コマを徹底的に学ぶ。
「4月に区の学力調査を行っており、そこで一定の基準をひいている。正答率が何パーセント以下などの基準があり、その基準に適合する生徒で、本人の希望、やる気がある生徒が参加している」
中学校に入り、小学校の算数から数学へと変わるタイミングに、小学校時代の学習のつまずきの解消を目的とした勉強合宿で、参加費はかからず区の負担で実施している。(今年は100万円程度)
「3日間やりきっているので、生徒から『当初は苦手意識を持っていたけど数学が好きになった』『勉強ができるようになった』という声もあり、夏休み明けに向けてこれから自分なりに家でももっと勉強していこうという声が多く上がっている」
今年は区内の各学校から生徒2人と教員が参加した。全体の授業に一緒に参加し、課題が見つかればマンツーマンで教員がサポートするため数学に対する苦手意識が克服されていくという。
また足立区では、成績上位で学習意欲があるものの、家庭の事情で塾などでの学習機会がない中学3年生を対象にした「はばたき塾」も実施している。
「毎週土曜日、週1回、民間の塾の先生に来てもらい勉強を教えている。難関校を目指したいという生徒を後押しする制度だ。東京都では都立高校進学指導重点校といった仕組みがあり、そういった難関校に毎年一定の生徒が進学している」
足立区は今年、給付型としては異例の最大約3600万円の奨学金制度を新設するなど、教育政策に力を入れている。この背景には意外な理由があった。
「イメージアップ戦略でもあるが、足立区というと『治安が悪い』、子どもが高校で他地区に行くと『足立区は学力が低いんじゃないか』とか、『健康寿命が短い』と言われる。そういうことが区のボトルネック的課題と位置付けられていて、その課題を解消することが区民の生活の満足度に繋がったり、対外的な区の評価につながるだろうということで全庁体制で取り組んでいる」
様々な教育支援を続けた結果、小学校では全国学力調査の全国平均値を超えるなど成果が出始めているという。また、勉強合宿などの取り組みは学力向上以外にも思わぬ影響を生徒に与えているようだ。
「ある年の勉強合宿の参加者は、連携先の小学校に“中学校ティーチャー”として教える側として参加しており、将来の夢も先生になった。おそらく、合宿で先生に支えてもらったことが印象に残っているのでは」
足立区の取り組みについて、東京工業大学の西田亮介准教授に話を聞いた。
━━足立区の教育への支援をどう見る?
「とても素晴らしい。いくつも理由があるが、まず1つは足立区が学力向上のために学力定着推進課という恒常的組織を作って取り組んでいるということだ。思いつきによる単発ではなく、中長期的な支援を念頭に区として取り組んでいるといえる」
「また、複数の政策を組み合わせて、総合的な支援パッケージにしている点も評価できる。中学1年生向けの施策では、勉強につまずいているがモチベーションが高い子たちに対して、算数を中心にしながら小学校のつまずきを解消する。算数から数学に移っていくときにいきなり抽象度が上がるが、小学校の算数がきちんとできないと難しくなる。それらを見直したいが、機会の乏しい子どもたちへの手厚いサポートだ」
「成績や勉強しようというモチベーョンや、やる気はいつ出てくるかわからない。早い段階で選抜してしまう支援しかないと、ある程度学年が上がってやる気が出てきたときには、その選抜に引っかからなくなる。今回の足立区の支援のようにいろいろなチャンスを作る総合的な取り組みが素晴らしい」
「勉強が苦手な人たちに対して底上げをしていくことから始まり、さらにトップ層を引き上げていく。さらに奨学金と組み合わせている点も評価できる。自治体で試行錯誤、連携しながら、支援政策をさらに磨くことが期待される」
(『ABEMAヒルズ』より)
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