「女性はITと理数系に弱い」。なぜこんな根拠のない偏見が広まってしまっているのか? その理由とジェンダーギャップの乗り越え方を、教育経済学を専門とする慶應義塾大学の中室牧子教授と考える。
情報教育の発展を目指すNPO法人「みんなのコード」の調査によると、国公立大学前期日程を志望した女子比率は、情報系の学部・学科は2011年に17.24%、2021年には16.08%と減少傾向にある。一方、情報以外の工学部は2011年に13.65%、2021年には18.51%と増加傾向にある。
また、「将来プログラミング関連の仕事に就くかどうか」と小学生~高校生まで聞いたところ、女子はいずれも、「あまりそう思わない」「全くそう思わない」の割合が男子よりも高い結果が出た。
そんな中、IT分野のジェンダーギャップを解消しようと、「みんなのコード」と日本女子大学付属中学校が9月、連携協定を締結した。生徒らの情報活用能力が高められるよう、各学年の年間指導計画や指導資料を作るなどカリキュラムを開発していくという。
━━連携協定についてどう見る?
「とてもいいことだと思う。IT分野を含めて、男女のジェンダーギャップがあるというのは経済学でも色々と研究されていて、最近ノーベル経済学賞をとったクラウディア・ゴルディン教授が研究している。IT分野におけるジェンダーギャップが起こる理由には諸説あるが、1つは“ステレオタイプの脅威”と言われている」(中室教授、以下同)
「ステレオタイプの脅威とは例えば、高齢者に新聞を渡して、『高齢になると(早く)文字を読める量が少なくなりますよ』と言われた高齢者は、言われなかった高齢者よりも文字を読むスピードが実際に遅くなるという研究がある。それと同じように、『女性はIT分野、理数系の分野が苦手だ』という周囲の思い込みの影響を受けているのではないかということだ」
「ステレオタイプの脅威をなくすために、IT分野の特別な取り組みや集中的な教育を“女子だけで”グルーピングすると解消されるのではないかという研究がある。特に理系やICT分野に限った話だが、男女別、男女共学で実験すると、女性だけのグループのほうが女性の成績が良くなるという研究がある。今回の日本女子大学付属中学校は女子校で、ステレオタイプの脅威が取り払われて、こういった取り組みの高い効果が期待できるのではないか」
━━“教育現場から続くジェンダーギャップ”はよく言われる話?
「その通りだ。ゴルディン教授の研究テーマに“ジェンダー規範”という考え方がある。『女性は家事をして子どもを育てるものである』といったものがある。これもまた人々の価値観や行動に大きな制約を与えているのではないかと言われている。子どもたちも同じよう影響を受けていると思う」
━━ギャップが生まれる理由は他にもある?
「経済学では2つ言われている。教員側が、『男子の方が女子よりも理数系科目が得意ではないか』というバイアス(先入観)を持っているというケースがある。大学でも、理系の研究室で採用をするときに、教員側は男女に限らずだが、同じ能力なら男性を優先的に採用しているという研究もある」
「もう1つは、教師と生徒の間のジェンダーの組み合わせによるというもの。教育の効果は、教師と生徒の性別が同性のほうが高くなるという研究がある。しかし、理系やICT分野は圧倒的に男性教師が多い。そうなると、男性教師と男子生徒は効果が高くなるかもしれないが、男性教師と女子生徒の場合はそうならない。そのため、女性の指導者を増やしていくのも、女性のIT系教育で効果を高める重要な方法ではないか」
━━ジェンダーギャップ解消には環境を変えていくのが望ましい?
「制度的にどうしても変更が必要。そのままだとIT分野は男性の先生が増えていく一方なので、女性の先生を増やそうという特別な試みがなければいけない。ジェンダー・クオータのように、生徒と先生の割合を半分ずつにする取り組みなど、上手くいくかはやってみないとわからない。しかし、ジェンダーギャップ解消の取り組みをやっていくことは重要だ」
(『ABEMAヒルズ』より)
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