アメリカの巨大IT企業が日本で大きな影響力を持つ中、公正な市場競争を目指すためのルール作りを担当する公正取引委員会の人材募集が話題だ。果たしてGAFA等のITエリートは公務員の門を叩くのか? そしてその一員として活躍することができるのか?
公正取引委員会は、検索大手のグーグルが自社の検索アプリを不当に優遇させたとして、独占禁止法違反の疑いで審査を開始。公正取引委員会によると、グーグルはメーカーに対し、アンドロイド端末に専用アプリストアの搭載を認める代わりに、自社の検索アプリなどもあわせて搭載し、目立つ場所に配置することなどを求めていた疑いがもたれている。
巨大IT企業の審査に乗り出す中、注目されているのが、公正取引委員会が10月から開始したデジタル分野について専門知識を持つ任期付き職員の募集だ。
応募資格はデジタルプラットフォーム事業者やその取り引き先での4年以上の実務経験、海外当局の担当者と英語で調整・交渉ができることで、給与は一般職公務員と同じだ。
この狙いについて、内閣官房のデジタル市場競争会議にも参加する京都大学の依田高典教授は「政府はGAFA・プラットフォーマー規制のための法律をつくったが、非常に専門性が高く、伝統的な規制だけではうまくGAFAをコントロールできないことから、専門的な人材を外から招へいしようとしている」と説明した。
日本国内でもなくてはならないサービスを提供する、GAFAを筆頭とするアメリカの巨大IT企業。市場の支配によって健全な競争が妨げられるとの懸念が強まり、法による規制が世界各国で進められている。
取引先への不当な圧力や、消費者が不利益を被ることがないよう、巨大IT企業と対峙する際に必要となるのが、内部の事情を知る人材だ。果たして、そんな人材を獲得することは可能なのか。
依田教授は「守秘義務がかかっているので、本当にGAFAの内情を分かっている人がいたとしてもそれを引き抜き、政策目的で内情を活用しようとすれば逆にGAFAから訴追を受けることになるだろう。また、24時間闘わなくてはいけないような霞が関に半分の給料で移るような人はなかなかいないだろう」と実情を語った。
巨大ITから移るメリットについて、公正取引委員会は『ABEMAヒルズ』の取材に対し、「様々な分野を経験しキャリアアップしたい若手にとっては給与に代えがたい経験ができる」と述べた。
ソフトバンクのAI部門で働く加藤公一さんに、業界の第一線で活躍する人々の本音について聞くと「僕が応募するかといったら絶対しないが、興味持つ人はいるかもしれない。様々な情報をオープンにすること、今までの枠組みに囚われずに人を採れる仕組みがあると応募者が増えるかもしれない」と答えてくれた。
なかなか難航しそうな人材の確保。一方で、巨大IT企業側は、官僚出身者を複数採用している。公正な市場の競争を確保するため、政府は巨大IT企業とどう向き合っていくべきなのか。
依田教授は、内部情報を得ようと無理をして人材を引き抜く必要はなく、巨大IT側が説明責任を果たさなければいけなくなるような「ゲームのルール作り」が必要だと指摘する。
「日本政府よりもグーグルやアップルのような巨大IT企業のほうが、予算も潤沢で博士号や弁護士資格を持っている人材も多いため、対等に戦っては勝てない。やはり法的な根拠をもって、疑わしいと思われるような行為に対しては、向こうの方にきちんと国民に向けて説明をさせるべき。国会を通して法律を作ることが重要で、ヨーロッパはすでに実行している。日本もかじを切らなくてはいけない」
公取委は「企業側の意見も含め、よりよい政策づくりに反映したい」としているが、慶応義塾大学の特任准教授でプロデューサーの若新雄純氏は、実際に採用された場合に懸念されることを指摘した。
「仕事の能力は周囲との連携に左右され、環境によってパフォーマンスは大きく異なる。例えば『一回政府で働いて見たかったんですよ。これも人生経験になると思って』と巨大IT側から変わり者が入ってきた時に、現場が「人生経験だと!?」と反発したら力を発揮できない。公取委が異質なスーパーマンを面白がれる土壌か、仲間として受け入れられるかどうかも必要だ」
(『ABEMAヒルズ』より)
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