23日の所信表明演説で岸田総理が解禁に前向きな意向を示したことで、さらなる注目を集めている「ライドシェア」。
運転手の人手不足や訪日観光客の増加によるタクシー不足が背景にあるが、安全面などを理由に反発する声も根強い。人々が求めるライドシェアの形とはどういうもなのか。その実現性は。『ABEMA Prime』で、タクシー会社の社長らとともに議論した。
■“日本版“はすでに存在? 神奈川版ライドシェアとは
20日に神奈川県庁で行われた神奈川版ライドシェア検討会議で、「『神奈川版ライドシェア』をタクシー業界の皆さんと一緒につくっていく。そんなことができれば新たなモデルになる」「利用者目線でぜひ議論を進めていきたい」と述べた黒岩知事。
その中身は、安全面の配慮から運転手となる一般ドライバーの面接や研修をタクシー会社が担当し、運行管理や使用する車両の認定もタクシー会社が担うもの。つまり、タクシー会社が運営するライドシェアになる。
果たして、これは本当に人々が求めるライドシェアの形なのか。福井県のライドシェアサービスの立ち上げにも参加した、元レーシングドライバーで自動車ジャーナリストの桃田健史氏は「日本版ライドシェアはすでに存在する。自家用有償旅客運送という制度が2000年代半ばからあり、事業者協力型自家用有償旅客運送という文言も今、いろんな政策の中にある」と説明。
自家用有償旅客運送とは、バス・タクシー事業が成り立たない過疎地などで、日常生活等の移動手段を確保するため、特別な許可の下、市町村やNPO等がライドシェアを提供するもの。交通空白地有償運送は2022年度末で、全国1741市区町村の572箇所で実施されている。
桃田氏は「地域の人が地域の人を助ける、ボランティア的な考え方だ。事業者協力型というかたちで、タクシー会社が運転手も車も管理するという枠組みは存在する。時間を限定するといったことで、ライドシェアにアジャストしている感じがある」と述べる。
一方、タレントのパックンは「Uberがやっているのは、民間の個人が『空いている時間を使ってちょっと稼ごう』というもの。タクシー会社が車両を管理するとか、免許制度とかにすると、方向性が変わってしまう。それを“日本版“として考えてもいいけど、本来の意味でのライドシェアの導入を考えるべきではないか」と持論を展開した。
■総理の表明で前進も根強い反発…ライドシェアは誰のため?
ライドシェア解禁に反対の立場をとる日本城タクシー社長の坂本篤紀氏は「僕らも本当は健康保険とか労災保険を払いたくないから、請負事業でも元締めでもいい。問題は、賠償能力のない人が事故を起こした、人をはねたという時。もう1つは、働き方の問題だ。ある時だけ仕事をするかたちが広がって、今在宅勤務している人が個人事業主になったら、誰も健康保険を払えない世の中になってしまう気がしている」と懸念を示す。
不安がある場合は、ライドシェアではなく「タクシー」を選べばいいのではないか。坂本氏は「“選択肢の1つ“論を言う人が多いが、調理師資格がない人が『安全だ』とふぐを調理して、たまに食あたりにあう人がいるのと同じようなことだ。専門職という問題ではない。神奈川版ライドシェアも、彼らが二種免許を取ればただのタクシーではないか」と指摘した。
作家・ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「ライドシェアで安価なサービスが出てくれば、タクシー業界が圧迫されるのは間違いない。ただ、全国で一斉に解禁するのか、しないのかという議論になっているのは間違いだと思う。河野太郎デジタル大臣は9月末の日経のインタビューで、『“ある地域で一定時間内に迎車できるタクシーの割合“という基準を設けて、下回っているところは交通手段の手立てを増やす必要がある』と答えている。絶対的にタクシー運転手が不足している、特に田舎といった所で解禁していくという議論をまずするべきだ」と主張。
これに対し桃田氏は「“田舎は大変、都会は大丈夫“という考え方は古い。いろいろな会議体に出ると、地域公共交通は本当に崖っぷちで、どうにもならないというのが共通の意見。しかし、それを真剣に考えている自治体が極めて少ない。国土交通省が持っているものや福祉用のものなど、使えるものは全部足してくださいとこの数年言ってきたが、それでもやらない。面倒だったり、既得権益があったりするからだ。ライドシェアはそうしたことを徹底的にやった上で解禁するべきで、最後の選択肢だと思っているが、そこまでのプロセスを踏んでいないのが最大の問題だ」との見方を示した。
さらに佐々木氏は「最終目的地は間違いなく自動運転だ。3年後の2026年に、ホンダとGMが東京都内でレベル4という完全無人の自動運転タクシーを走らせる計画を発表した。それが普及すれば、ライドシェアの問題はほぼ解決する。しかし、全国に普及するには10年ぐらいかかるだろうということで、その間のつなぎとして、今の公共交通機関をどうするかという議論になっている。特に日本はこれから観光立国だと言っている時に、どうやって足を確保するのか。そこでタクシー業界が潰れるか潰れないかということだけを議論しているのは、やはり問題を矮小化していると思う」と意見を述べた。
パックンは「これは消費者・利用者にとってのチャンスだと思わないか。Amazonが入ってきたことによって、全国の本屋さんはけっこう潰れている。他にもサービスが広がって、つらい思いをしている業種も多い。これと何が違うのか」と疑問を呈する。
桃田氏は「自動運転も、電動キックボードも、それから今回も同じ話だ。つまり、“社会全体を見て必要ならば入れましょう“ということ。人を中心に考え直す必要があるが、スタートの議論が甘い。Amazonの話もわかるが、交通は社会の大きな動脈。それをいじるためにはものすごく大きな力がいり、当然跳ね返りもある。そのリスクをちゃんと地域社会が受け入れる、“自治体も地域の人も理解してやってください“という全体的な流れがないといけない」と述べた。
(『ABEMA Prime』より)
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