月3000円~で誰でも本屋さんに 書店ゼロの市町村急増の中で新たな挑戦
【映像】“書店ゼロ”の市町村は全国で26.2%
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 活字離れや雑誌、漫画の電子化、オンライン販売などが進む中で、閉店が相次ぎ、書店が一軒もない市町村が増えている。「まちの本屋さん」に新たな価値を見出す「シェア型書店」を取材した。

【映像】“書店ゼロ”の市町村は全国で26.2%

 東京・谷中にある、こぢんまりとした7坪の書店。壁一面に本が宝箱のように並ぶ「Books&Coffee 谷中TAKIBI」が7月にオープンした。

「全国の本屋がない町に本屋を作るためにNPOを立ち上げ、実験的にこのTAKIBIという本屋を始めました」(谷中TAKIBI店主・安藤哲也さん、以下同)

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 店主の安藤さんは、谷中の人気書店「往来堂」の初代店長を務め、楽天ブックスではオンライン販売に携わるなど、書店業界を知り尽くした人物だ。そんな彼が辿り着いた形が、棚を貸し出す「シェア型書店」だった。

「本好きの人は、『死ぬまでに一度は本屋をやりたい』とみんな言う。しかし、なかなか店舗を一軒借りてというのは難しい」

 シェア型書店とは、棚を区切って有料で貸し、棚主となった人に自分の好きな本を売ってもらうシステム。棚のサイズによって月額3000~10000円で借りられる。

「本を買っても読み終えたら自宅の棚に眠ってしまう。その人にとってはとてもいい本かもしれないのに。推し活ではないが、(自分の好きな本を)誰かに勧める、そういう時代かなと思っている」

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 安藤さんは、書店で購入した新刊本を読み終えたらTAKIBIの棚に並べて売り、売れたお金で次の新刊本を買うという、新しいサイクルが生まれることに期待を寄せている。

 現在、棚主は北海道から関西方面まで60人、棚が空くのを10人ほどが待っている人気ぶり。遠方に住む棚主は、売りたい本を店に送れば安藤さんが値札を貼って、棚に並べてくれる。

「この棚は小学校5年生の男の子とママが2人で借りている。イベントで書店員の体験をした男の子が『本屋さんおもしろい』『じゃあTAKIBI、(お母さんと)一緒に借りようか』と言って借りてくれた。僕一人で問屋から仕入れると、僕の世界しかない。だがここは僕以外に59人いるので、非常に多様性のある棚になった」

 会社員やコンサルタント、元出版社の社員など、棚主の経歴はさまざまだ。棚にはネームカードが貼ってあり、QRコードをスマホで読み込むと棚主のSNSにつながるなど、おもしろい仕掛けも施されている。そこには「TAKIBI」という店名に込めた安藤さんの思いがある。

「キャンプ場で誰かがたき火をやっていると、知らない同士でも集まってきて話してしまうことがある。火の代わりに本があって、それにみんなが集まってくる、たき火のような本屋を作りたいというのがあった。『あそこに行くとおもしろい人に会える』とか、そういうことがこれからの本屋の役割じゃないか」

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 書店が無くなっていく中、クリック1つで本を届けてくれる仕組みの必要性を感じ、安藤さんも一時はオンライン書店に勤めた。再び「まちの本屋さん」を手掛けたのは、「子どもたちが本に触れる機会を作りたい」という思いがあったからだと話す。

「以前は学校・部活が終わった後に、自分の足で本屋さんに行って小説に出会ったりする喜びがあったが今はそれが珍しいものとなった。そうなると、本を読むことによる力、例えば真っ当な批判精神やリテラシー、そういうものが身につかないのではないかとずっと思っていた。本屋がない町で生まれた子どもたちがもっと気軽に本に接せられるような社会を作っていきたいなと思っている」

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 「ABEMAヒルズ」では、ノンフィクションライターの石戸諭氏とともに、これからの書店の在り方について考えた。

石戸諭氏:僕も自分で本を出しているが、この何十年間(本にまつわる業界は)どんどん縮小していくという話しか出てこない。そうは言っても、本を待っている人たちはまだいる。大人は必要な本がある程度わかるのでオンラインで購入するのも良いけど、それでも実際の棚を見て「これいいね!」と新たな発見もある。いろいろなことに関心を持っている子どものころから、本を発見する経験ができればいいなと思う」

徳永有美アナウンサー:私もネットで買うことが多いが、本屋にわざわざ足を運ぶ理由を考えると、タイトルを見たり、“この言葉に引っかかっている自分”を新たに知るという、本を選ぶことで今の自分を知ることができるというおもしろさもある。

石戸氏:「特に子どもの場合は、紙に触れて読む行為は電子媒体で読むよりも記憶の定着がいいという研究もある。その効果を先に実感してから、電子書籍にも手を出していくとよいのではないか」

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 書店の減少について、出版文化産業振興財団の調査(2022年9月)によると、書店が1軒もない市町村は全国で26.2%にのぼる。全自治体に占める書店ゼロの割合は、沖縄県が56.1%と最も高く、長野県の51.9%、奈良県の51.3%が続く。

石戸氏:「そもそも、書店自体がすごく儲かるような形態ではない。利益率は2割程度だと思う。そうなると、続けられる人が減るのはしょうがない。しかし、逆に言うと都市部なら本屋+何かを組み合わせるビジネスが成立する要素はあるのではないか。
ある程度人口がいるなら地方都市でも、少し変わった書店には光がある。喫茶店やバーを併設したり、レコードを置いてみたり、色々な形で“副業”をしながら本を売るというところに可能性が宿っている」

(『ABEMAヒルズ』より)

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