将棋界のエリア対抗・団体戦となれば、真っ先に優勝候補に挙げられるチームだ。来年1月からスタートする「ABEMA地域対抗戦 inspired by 羽生善治」は、全国を8つのブロックに分けてチームを結成し、トーナメント戦で争う新たな団体戦だ。愛知県出身・杉本昌隆八段(55)は監督として、中部(静岡・愛知・岐阜・三重・山梨・長野・石川・富山・福井・新潟)を率いることになったが、なんといっても藤井聡太竜王・名人(王位、叡王、王座、棋王、王将、棋聖、21)がエントリーすれば、文句なしの優勝候補。さらに竜王、名人などタイトル経験がある豊島将之九段(33)も加われば、もうそれだけで超強力なチームができ上がる。
藤井竜王・名人の大活躍により、愛知県さらには東海エリアで一気に将棋ブームに火がついた。その熱量は全国にも波及し、今や東海エリアは将棋どころの一つにカウントされるようにもなった。象徴的だったのは東京、大阪の将棋会館で行われていた対局が、昨年6月に新設された名古屋対局場でも行われるようになったこと。「第3の拠点」とも言うべき場所ができたことで、東海エリアの将棋界における地位も飛躍的に高まったと言えるだろう。杉本八段は大会について「地域にスポットが当たる素晴らしい企画。私の住む中部は藤井聡太八冠をはじめ非常に有望な棋士が多い地域でもありますので、楽しみにしておりました」と目を細めた。
藤井竜王・名人の活躍に引っ張られるように、先輩棋士である豊島九段、澤田真吾七段(31)にも光が当たり、さらにはこの数年で若手棋士も続々と誕生。「私の師匠の板谷進が元気だったころ、東京や大阪に強い対抗意識を持っておられまして、なかなか中部から強い棋士が出ないと嘆いておられた。もし師匠がお元気だったら、今の状況をすごく喜ばれていたと思います」と、藤井竜王・名人だけでなく、多くの棋士が活躍していることがまた誇らしい。
かつての将棋界の序列といえば、やはりまず関東があり、次に関西があり、そして他のエリアというイメージだった。トップ棋士も都心部に集中し「修行中、自分の目から見ても東京や大阪にはなかなか勝てないんだなという思いはありました」と振り返った。ただ、この数年でガラリと評価は変わり、強い棋士の名産地のような状況に。「今回の地域対抗戦は、中部棋士の強さを見せるチャンス」と、強い意気込みだ。
今や中部地域で将棋大会でも開こうものなら、常に定員オーバーで抽選、さらにはキャンセル待ち状態。「参加されるお子さんは倍以上に増えた」という感触もある。「将棋を指す方だけでなく、今まで将棋に関心がなかったであろう方にも声をかけていただく機会が増えました」と、盛り上がりは日々感じている。
出身棋士が順当にチームにエントリーすれば、試合出場の棋士を決めるにも目移りしそうな状況になる。監督自身も出場することはできるが「私のチームは強くなると思うので、普通に考えたら私の出番はないです」と笑った。また他の監督からは「強すぎてずるいですね、とも言われました」と裏話も明かした。団体戦「ABEMAトーナメント」の前回大会では、藤井竜王・名人が東海エリアの棋士3人で戦い、ベスト4入りを果たしたが優勝は逃した。そう考えれば今回の地域対抗戦は、初開催ながらリベンジの意味合いもある。杉本八段はどんな最強チームを作り上げるか。
◆ABEMA地域対抗戦 inspired by 羽生善治 全国を8ブロックに分けた「地域チーム」によって競う団体戦。試合には監督とチームから選ばれた出場登録棋士の4人の計5人が参加可能。試合は5本先取の九番勝負で行われ、対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールール。試合は1試合以上出場する「先発棋士」と、チームが3敗してから途中交代できる「控え棋士」に分かれ、勝った棋士は次局にも出場する。先発棋士は1人目から順に3人目まで出場し、また1人目に戻る。途中交代し試合を離れた棋士の再出場は不可。大会は2つの予選リーグに4チームずつ分かれ、変則トーナメントで2勝すると本戦進出。ベスト4となる本戦は通常のトーナメント戦。
(ABEMA/将棋チャンネルより)