「通知表」は教育に必要? 廃止した小学校校長に聞く 藤原和博氏「丸つけや板書は全てタブレット、文章にまつわる事務負担はなくすべき」
【映像】“身体を使って理解する授業”の様子
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 学校の「通知表」が今後、なくなっていくかもしれない。

 東京・新宿区立西新宿小学校。5年生の算数の授業を覗いてみると、子どもたちは席を立ち、足を広げて、1メートルの幅を予想している。定規で床の木の板が何枚分か答え合わせ。着席で黙々とノートに書いて学ぶのではなく、身体を使って理解する授業になっている。

【映像】“身体を使って理解する授業”の様子

 この学校は今年度、通知表の廃止に踏み切った。長井満敏校長は「できる・できないということではなく、それぞれの個性に目を向けていきたい」と話す。

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 文部科学省の学習指導要領には「主体的な学び」の実現が示されている。この主体性を伸ばすため、宿題も廃止する代わりに、生徒が自由に決めたことに取り組む「自学ノート」を開始。さらに、通知表に結びつくテストも廃止した。

 子どもたちからは、「成績表があったほうがいい。自分の評価がわかるし、悪くてもお母さんに怒られるだけ」「勉強したり、やる気につながる」「なくなってよかった。【もう少し】が多いとダルいから」と、賛否の声があがる。

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 学校では個人をどうやって評価していくべきなのか。『ABEMA Prime』で議論した。

■“主体性を伸ばす”には理解も「試行錯誤の段階」

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 長井校長は改革の感触として、「まだそれほど時間が経っていないので、劇的な変化があるわけではない。自学ノートも、“出しなさい”だと強制と同じなので、現段階では子どもたちに任せている。全体として試行錯誤の段階だ」とコメント。

 杉並区立和田中学校の校長を5年間務めた教育改革実践家の藤原和博氏は、「通知表や評定をなくせるのは小学校だけだ。中学校は高校から、高校は大学から内申書を求められる。推薦入試も増えていて、“学校でどれくらい勉強していたか”“どういう環境で学んでいたか”がないと不安だからだ」と解説する。

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 藤原氏は通知表の廃止に賛成した上で次のように指摘する。

「課題はテストと宿題だ。まず、学習習慣がついていない子は、宿題がなければ勉強しない。例えば、夏休みに読書感想文や自由研究が全くなかったら、ゲームをやる時間が3時間から6時間に増えてしまう。2つ目に、教員ごとの力量の差がものすごく出る。一律で教えられないので、教員の負担は増える。茅ヶ崎市立香川小学校は、通知表廃止を先行してやっているが、質的な転換はあっても、負担が軽くなったとは言えない。3つ目に、保護者の不安いう点も大きい」

 保護者の反応について、長井校長は「テストや通知表を求める声もあるが、子どもの主体性を伸ばすということには、賛同を得られたと思う」と説明。一方で教員については、「理念としては賛成だけども、具体的にどう動いていいかがわからないようだ。反対とまではいかないが、すんなりいかない印象は受ける」とした。

■これからの教員の役割は?

 保育士のてぃ先生は、教員の役割について、「保育業界で昔から言われているが、“結果ではなく、過程を褒めましょう”。ただ、実際には、テストで評価をつけたほうがわかりやすい。結果を褒める方がはるかに楽。また、過程の褒め方を先生自身が学んできていないので、スキルの差が出やすい」と指摘。

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 リディラバ代表の安部敏樹氏は「教員側の能力面でも相当な転換が必要。最適な方向はおおよそ決まっていて、授業はすべて動画教材になる。先生の仕事は”どうやる気にさせる”か”何を学ぶのが生徒に合った形なのか”などのコーディネーションに変わる。しかし、これに一番抵抗しているのは現場の先生。なぜなら、授業を手放したくないからだ」と説明する。

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 これに藤原氏は「計算能力や漢字を書く力などの数値面は、AIで即時フィードバックをするような方向に持っていくべき。昔は、算数の丸付けをしながら、“この子は繰り下がりの計算が苦手だから、戻って教えなきゃ”ということをベテランの先生がやっていたが、そうした人はいなくなった。だから、そこを機械化する分、先生は定性的な方に張り付いて、“この子はこれができるようになった”“こういう発言をした”というのを積み上げていく。それを保護者が見れるように可視化した方がいい」との見方を示した。

 東京都の教員採用試験を見てみると、2014年度は約1万6284人だった受験者数が、24年度は7948人と大幅に減っている。教員を目指す人が半減する中で、安部氏は「100万人もいた出生数は、この6〜7年で80万人を割った。次の6年も当然減っていくだろう。つまり、中長期的に見れば、先生が余っていく。負担の軽減を進める一方で、学び直しも大事だ。職場が目指す方向に変われるように、リカレント教育も充実させていく必要がある」と提案する。

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 藤原氏は「丸つけや板書、アンケートなどは全てタブレットにして、文章にまつわる事務負担は思い切ってなくす。今、教頭と指導主事が10万人いるが、彼らが現場復帰できるぐらいのインパクトがある。そして、授業を自分1人でやろうとしないこと。不得意な単元については、YouTubeの中に上手な人がいっぱいいる。そうしたものを活用した“ネットワーク型の教員”が求められる」との考えを述べた。(『ABEMA Prime』より)

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