12月に入り受験に向けた動きが本格化する中で、話題に上がっているのが「内申書」だ。正式には「調査書」と言われ、学校での生活態度、授業の出欠、部活や生徒会といった活動記録などが記載され、評価されるもの。中高大と進学する上で、学力試験と並んで選考基準の1つとなっている。多様性の重視やAO入試などが拡大する昨今、内申書の選考基準の比重が大きくなっている一面がある一方で、評価基準が教師や学校、自治体ごとに違うなど、“入試のブラックボックス”と呼ばれることも。
内申書は受験に必要なのか。『ABEMA Prime』で専門家とともに考えた。
■「みなさん内定書を漠然と捉えている」
10年以上中学教師をしていたすぎやま氏は「みなさん内定書を漠然と捉えている」と指摘する。
「いろんな問題がごっちゃになっている。まず、人を評価するというシステムと、それを受験に使うこと。さらに、評価・評定の公平性と、先生の主観が入ること。これらが良いか悪いかは、それぞれ個別の問題だ。全部ひっくるめて“内申書はよくない。支配するためだ”と言うのは理解できない」
内申書はブラックボックスだと批判している、進路アドバイザーの石井知哉氏は「内申書自体がダメなわけではなく、運用の話だと思う。子どもや保護者が中身を知らないという昔ながらのイメージで、“先生が子どもを支配するために使う”と捉えられているが、そこは現代のニーズや実態にあった評価の仕方を取り入れていくべき。内申で評価されにくい子がいるのは確かで、そういった子の進路の受け皿などを考えていく必要がある」と述べる。
人当たりの良い生徒が先生に好かれ、そうではない生徒は評価されにくい仕組みになっているのではないか。すぎやま氏は「それは勘違いだ。例えば、いじめをしていて、先生を殴ったとしても、内申書には書かない。受験前に“これがあなたの内申書です”と見せるので、ブラックボックスでもないし、親からも“なんでこんなことを書いているのか”と言われる。行政情報であり、開示請求されたら開示しないといけないので、悪いことは基本書かない」と明かす。
また、評価内容についても勘違いがあるといい、「評価するのはその子の能力や人間性ではなく、授業でどういう表れがあったかだ。授業でやっていないことをテストに出してはいけないので、音楽で合唱の授業をやった時、“この子はピアノが弾けるから5”とはできない。授業で見えていないところ、友達からの評価などは難しい」とした。
受験で内申書が使われるのは、最後の判断の時だという。「成績順にして、下の子たちは最初に外し、残った子たちを当日のテストの結果順に並び替える。上の子たちは合格だけど、同じ結果の子がいた時に、“生徒会長をやっているからこの子にしよう”という、最後の最後の話だ」と述べた。
■教師が支配下に置くため?子どもの個性が失われる?
「入試制度と学校 生活に関する調査」(中村高康氏ら、2020年)によると、中学3年生の1学期に内申書を意識した行動をとったのは76.2%。内申書のためにとった行動は、校則を守った(64.9%)、欠席しないようにした(64.5%)などが上位で、先生から「内申書に書くぞ」と言われた生徒も15.5%いた。
政治学者の岩田温氏は、「内申書の重視は子どもたちを教師の支配下に置くため」「教師の意向に沿う子どもが優等生になり、個性が失われる」との見方を示している。すぎやま氏は「評価は、“なんか悪いことをしたら下げるぞ”という、統治や罰則のシステムではない。今、指導と評価の一体化が言われているが、先生が指導をするために子どもを評価する。つまり、子どもに1をつけるということは、先生が1だ。どうしたらこの子ができるかというのを、先生は一生懸命考える」と話す。
これに対して石井氏は「ある中3の子と話をしていて、5になるか4になるか瀬戸際のところだと。相性の悪い先生がいるようで、ひいきが激しく、目をつけられると1時間でも2時間でも説教をされてしまうそうだ。でも、その先生に内申を握られていると思うと忖度をしてしまう、と言っていた。ちゃんとやっている先生がいる一方で、そうではない先生もいる」と指摘。
内申書への賛成の声として、「世の中の理不尽さを学ぶいい機会」といったものがある。石井氏は「全てが理不尽だとは思わないが、評価は授業での表れを見るもの。そこで授業を妨害するような子が出てくるのを抑止するという面では、やはり必要だと思う」との見方を示した。
すぎやま氏は「学校教育が歪んでいる原因は、学力のみで評価する大学受験だと思う」と主張する。
「小学校の参観会では、子どもたちはすごく楽しそうに活動しているではないか。中学校の先生も頑張ってグループ活動をやろうするが、3年生になると受験勉強をしないといけない。高校は高校で、大学受験で良い実績を残さないと入学者がいなくなってしまうので、受験対策校になる。小学校の先生が一生懸命、主体的に学ぶ子どもたちを育てても、最終的にカリカリ勉強するしかない。それだったら、内申点のほうを重視したほうがいいと思う」
(『ABEMA Prime』より)
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