“世界最高峰の格闘技イベント”ONE Championshipの約4年ぶりとなる日本大会=2024年1月28日(日)東京・有明アリーナ「ONE 165: Rodtang vs. Takeru」が決定。発表記者会見のために来日したONEのチャトリ・シットヨートンCEOに日本大会に向けたインタビューを行った。
「小さい頃から何度も訪れている大好きな日本、そして東京で大会を開催できることをうれしく思う。日本大会史上、最高最大の選手を集めた大会を開催することになる」。チャトリCEOは記者会見で日本大会開催の喜びを語った。
タイ人の父と日本人の母の間に生まれ、武家の血を引くチャトリCEOにとって日本大会は特別なものだ。2019年3月にONE日本大会を初開催すると、10月には記念すべきONEのナンバーシリーズ100回大会を両国国技館で行った。
新型コロナウイルスの影響で約4年3カ月ぶりの日本大会となったが、ロッタン・ジットムアンノンVS武尊、青木真也VSセージ・ノースカットというキック・MMAにおける日本人のビッグマッチを組んだことが、チャトリCEOの日本大会への“本気度”を雄弁に物語っている。
「久々の日本大会が正式に決まって、とても興奮しているよ。私は日本人の母と一緒に住んでいて、普段は日本語で会話している。そのくらい日本のことが好きだ。2019年に日本で初めてONEが大会を開催した。私は母に『必ず日本に世界レベルで戦える舞台を作る』と話していて、それを実現することが出来た。母は会見にも来てくれて、私としても本当にうれしかったよ。
同じ年に両国国技館でONE100回目の大会となる『ONE: CENTURY』というビッグイベントを成功させることも出来たし、その後も日本で大会を行うことは計画していた。しかし新型コロナウイルスによって、その計画が困難になってしまった。コロナ禍が日本大会の流れをシャットダウンしてしまったんだ。でも今こうしてABEMA、楽天チケット、NSNという三つの企業の協力もあり、約4年ぶりの日本大会開催に至った。
第1弾として発表したロッタンVS武尊、青木VSノースカットの2つのカードはどちらもメインイベントになりうる試合だ。特にロッタンVS武尊は、武尊VS天心を超えるカードになると思う。武尊VS天心は日本国内では大きな注目を集めたが、ロッタンVS武尊は日本はもちろん世界中のファンが注目している。ロッタンVS武尊は世界規模の試合で、世界中の多くの人たちが見てくれると思う」
■毎週金曜日に開催する“ONE Friday Fights”でムエタイ人気の再燃に貢献
ONEが日本大会から離れている間の大きなトピックスと言えば、ムエタイの聖地ルンピニースタジアムで興行を開始したことだろう。長らくムエタイはギャンブルとして扱われ、会場に足を運ぶ人間の多くはギャンブラーだった。試合内容にもギャンブルの要素が色濃く反映され、一般のファンが見て楽しめるものではなかった。
しかしルンピニースタジアムが2014年に移転・改築し、近代的なスタジアムに生まれ変わると、ONEも今年1月から毎週金曜日に「ONE Friday Fights」をルンピニースタジアムで開催。ムエタイからギャンブルの要素を排除したことで、アグレッシブな選手や試合が増え、ムエタイそのものが生まれ変わった。
「1年半ほど前にタイ政府から連絡があり『今のムエタイはギャンブルとギャンブルに関わる人間たちのせいで人気が落ち、ムエタイを嫌う人間が増えている。だからルンピニースタジアムでONEの大会をやって、ムエタイを再建してくれないか?』と相談を受けたんだ。
ONEは常に世界最高峰のイベントを目指し、そして格闘技がスポーツであることを大切にしている。ジャッジとレフェリングがフェアで、選手は純粋に勝ち負けを争う。それがファンを魅了することを知っている。だから我々はルンピニーでもギャンブルではなく、ONEとしてのムエタイを見せたいと思って大会を開催するようになった。
その結果、ギャンブラー以外の人たちが見てもエキサイティングな試合が増え、タイで新たな層にムエタイの人気が出ている。ONEによってムエタイを180度変えることが出来た。私はそれを本当にうれしく思っている」
ONEでムエタイが盛り上がる一方、ファンの間では「ONEはMMAに力を入れなくなった」や「これからONEはムエタイ・キックが中心になる」という声も上がっている。チャトリCEOはONEにおけるMMAをどう展開しようと考えているのか?
「ONEというイベントは格闘技のプラットフォームで、そこにはあらゆる格闘技が含まれている。だからその時の状況に応じて、どの競技に力を入れるか優先順位があるんだ。なぜ今ONEムエタイが盛り上がっているのか。それは先ほど話したように、タイ政府からの要請を受け、ONEとしてタイでのムエタイ再建のために力を注いできたからだ。
でも2年前を思い出してほしい。あの時期はONEがTNTと契約して、アメリカ進出をスタートした時期だったからMMAに力を入れていた。ONEがムエタイ・キックを重視するようになったわけではなく、今はムエタイ・キックに力を入れる、今はMMAに力を入れる、そういう時期があるということを理解してもらいたい。それで言うとこの1年間はムエタイ・キックが盛り上がったが、2024年はもう一度MMAに力を入れる時期だと思っている」
■待望のONE日本大会を開催 チャトリCEO「今の日本にグッドファイターはいるけど、ベストファイターはいない」課題も
現時点でONE日本大会で組まれているカードは前述の2試合のみで、これから本格的に追加カードが決定していく流れだ。現在、多くの日本人ファイターがONEの舞台で戦っており、日本大会をきっかけに新規参戦する選手も出てくるだろう。武尊・青木に続く日本人選手の参戦について聞くと、チャトリCEOからは「日本人選手全体のレベルアップ・底上げが必要」という言葉が飛び出した。
「日本でもMMA、キック、ムエタイがそれぞれ盛り上がっているけど、正直に言うと選手のレベルがそこまで高くない。ABEMAの北野(雄司)さんともよく話すんだけど、今ONEで日本人が勝てなくなっている。選手はたくさんいるけどONEで勝てない。だからONEでトップを目指すことは難しい。どうすれば日本人が強くなれるのか。それが日本の格闘技の現状だと思う。
もちろん今の日本にグッドファイターはいるけど、ベストファイターはいない。日本人でONEのメイン級の試合を出来る選手は本当に限られていると思う。それが日本大会から遠ざかっていた理由の一つでもあるし、色んな人たちと意見を交わしながら、日本大会にどんな選手を起用して、どんなマッチメイクを組むかを考えているところだ。日本の色んな団体とも話をしていて、具体的なことは決まっていないが、我々はいつもオープンアイディアだ。ただ繰り返しになるけれど、ONEに“出る”選手が増えるだけでは意味がない。ONEで“勝つ”選手になって欲しいんだ」
チャトリCEOは日本の格闘技全体の問題点を指摘しつつ、ONEの育成システムやファイトボーナスが日本人に強くなる環境やチャンスを与えると続ける。
「ONEには三つのシリーズがあって、ONEのナンバーシリーズを頂点とし、次にONE Fight Night(ONE FN)、その次にONE Friday Fights(ONE FF)という順でピラミッドが存在している。来年の取り組みとしては、ONE FFでMMAの試合を増やしたいと思っている。今は1大会につきMMAは2~3試合しか組んでいないが、それをもっと増やす予定だ。そうすることでムエタイ・キックだけでなくMMAでもONE FFで戦う選手を日本そして世界中から集めたい。
そこで経験を積んで結果を出した選手がONE FNへ、ONE FNで結果を出した選手がONEナンバーシリーズと昇格していく。今のONEには選手を育成して強くなるシステムがあるから、そこにチャレンジすることで強くなっていってもらいたいと思う。
またONEではナンバーシリーズとFNで5万ドル、FFで1万ドルのファイトボーナスを設けている。例えばアメリカにはたくさんMMAのジムがあって、それぞれ練習環境が整っていて、選手のためのチームを組んでいる。でも日本のジムはどうしても規模が小さく、アメリカほど練習環境を整えることが出来ない。そこは日本の格闘技における難しい問題だ。でも日本人選手がONEで戦うチャンスが増え、そこで稼げるようになったら、そうした状況も変わるはずだ」
■武尊VSロッタン「間違いなく世界トップ同士の世界が注目する試合になる(チャトリCEO)」
日本にルーツを持つ人間として「ONEでタイのムエタイを変えたように、ONEで日本の格闘技を変えたい」と熱弁するチャトリCEOはONEのプロモーターであると同時に、自身もムエタイ&柔術の愛好家でもある。そんな生粋の格闘技ファンの目線でチャトリCEOにONE、そして日本大会の魅力を語ってもらった。
「私はムエタイを38年、柔術を12年やってきて、個人的に一番見たいのはテクニックがある選手だ。でもファンはバイオレンスな試合やKOで終わる試合を見たがっている。そこで私が大事にしているのはファンの声だ。ファンの声を聞いたうえで、ファンが望む試合をする選手の試合を組んでいる。実際にONE FFでもみんな凄い試合をするし、KO決着が多いだろ? まるでみんなロッタンになったように(笑)。
もちろんONEにはプラジャンチャイやタワンチャイのようにテクニックを持った選手たちもいるし、私はテクニカルな試合を否定しているわけじゃない。ONE FFはKOが多くてエキサイティングな試合が多いけれど、選手のテクニックがないわけではない。みんなテクニックがあって、そのうえでエキサイティングな試合をする。だからレベルが高いし、見ていて面白いんだ。
ロッタンと武尊もそう。2人ともKOを目指してガンガンいく、そして世界トップの技術がある。それがONEの戦いだ。武尊の方がスピードがあるけど、ロッタンの方が打たれ強い。もしかしたらKOにはならないかもしれないけど、間違いなく世界トップ同士の世界が注目する試合になる。武尊と青木の試合以外にも、これからONEらしい魅力的なカードを組む予定だから、ファンのみんなには久々の日本大会を楽しんでもらいたい」
約20分という限られた取材時間のなか、チャトリCEOの言葉からはONE、日本、そして格闘技に対する情熱が感じられた。4年ぶりのONE日本大会はそんな熱が詰まった大会になるに違いない。