「ゴロツキ」「詐欺まがい」「純粋なアイヌ民族などいない」。11月、杉田水脈衆議院議員が自身のXにリンクした動画は、アイヌ協会や個人に対する中傷ともとれる言葉を使い、アイヌに関する利権の存在を訴えていた。杉田氏は以前からアイヌ事業の関係者を「公金チューチュー」と揶揄し、国会でも問題に。杉田議員は過去に差別的な発言で物議を醸し、去年「信念が理解されなかった」などとして総務政務官を辞任している。
アイヌは、北海道や樺太など、日本の北部にいた先住民族。明治時代、政府の北海道開拓事業とともに、文化や狩猟や漁業などの生活様式を制限され、日本への同化政策が進められてきた。その中で、さまざまな軋轢や迫害があったという。2022年の内閣府の調査では、「差別や偏見がある」と答えた人が2016年から微増(3.4ポイント増の21.3%)し、認識が深まりつつある一方で、「わからない」と49.7%が答えるなど、全体的な認知度の低さも浮き彫りになった。
アイヌの人々が受けた差別や迫害とはどのようなものなのか。どうすれば解決できるのか。『ABEMAPrime』でアイヌにルーツを持つ当事者2人とともに議論した。
■2タイプの攻撃、北海道「内」「外」での差別
北海道大学アイヌ・先住民研究センター教授の北原モコットゥナㇱ氏は「“純粋なアイヌ民族”は存在しないから政府の施策は不要・不適当だ」「不正会計や不正申請などで様々な支援策を食い物にしている」という2タイプの攻撃があると指摘。
また、北海道内と北海道の外にある差別に違いについて次のように話す。
「私は埼玉県出身だが、周りの人はほとんどアイヌのことを知らない。観光で行ったことがある人が“北海道にいる原始人でしょ?”と言うぐらいだ。欧米系の外国人はわりとリスペクトされるけれども、それ以外の人たちに分類されるという、一般的な排外主義の一部に加わることが本州のほうでは多い。北海道ではやはりアイヌが知られているので、日本人ではない人々という見方をされ、もう少し直接的な差別が起こる。埼玉にいた時は『外見が違う』、北海道に行くと『アイヌ』と言われる違いがある」
一方、アイヌ語教材開発など文化を伝える活動や「ゲストハウス二風谷ヤント」の運営をしている萱野公裕氏は「僕はアイヌがたくさん住んでいる地域の出身で、周りがすでにわかっている環境で育った。差別の形も、どのぐらいの割合でアイヌがいるか、周りがどれだけ知っているかで変わってくると思う」と説明。
アイヌが知られていないコミュニティでは、自身のルーツは明かさないという。「神奈川で働いていたこともあるが、言ったところでプラスになる感覚がない。言わなければ、日本語も話せるし、普通に日本人ということで暮らしていける。差別をされるというマイナスになり得るので、あえて言わないことが多い」と述べた。
未だ認知度が低い中で、知らない人にはどのようにアイヌを伝えるか。北原氏は「一番は言葉だ。明治に入るまではアイヌ語という全く違う言葉を使っていた。例えば、私の名前はモコットゥナㇱ(28歳時に先輩研究者が命名)というが、祖母はアイヌ語の名前を持っていた世代で、トウニンテマだ。発音も、単語も、文法も全然違う言葉を話してきた人々がアイヌだ、というのがわかりやすいと思う」と答えた。
■「今のままでは“標本”の勉強に終わる」
学習指導要領の改訂で、小・中学校の社会では「北方との交易をしていたアイヌについて取り扱うようにすること」に加え、「アイヌの文化についても触れること」も明記された。
これに対して、北原氏は「今のままでは“標本”の勉強に終わる」と懸念を示す。
「日本人という言葉は、“国籍”という意味合いと、日本語・日本文化を作ってきた人々という“民族”としての2つの意味がある。アイヌは日本国籍だけれども、アイデンティティとしてはやはり本州以南の人々とは違う。国内には複数の民族がいて、琉球を民族だと考える人もいれば、奄美と沖縄も違うとか、小笠原諸島の人々もハワイ系の人がいるとか、あるいは帰化した人々もいる。本当は多様な人々・民族が日本の中に暮らしているのだが、あまりに知られていないと感じる。また、アイヌ施策は2009年あたりから国単位で少し進展してきたが、それに対するバックラッシュ(揺り戻し)も出てきているのではないか」
萱野氏は「僕の地域でいえば、親世代の時よりは今のほうがずっと暮らしやすいと思うが、北海道全体で見ると変わらず差別が続いている地域もある」とした上で、「当事者や少数者側が何かを変えようとするのは、マンパワー的にも難しいところがある。多数派の理解度を深めるために、学校教育や広報活動に期待する」と語った。
北原氏は取り組むべき課題として、「差別とは何かを議論して明確にする」「差別監視・認定の公的機関を設置する」「差別認定された時の罰則規定を定める」の3つをあげている。
「漫画の影響などで好意的な受け止めが広がってきていると思う。今度は個人的に好きになるということではなく、差別を明確にし、監視・認定して、どう対処するかを制度として確立していく必要がある」
(『ABEMAPrime』より)
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