救急通報の増加に伴い、病院側が救急患者の受け入れを拒否したり、救急車が受け入れ先を探してたらい回しにされるニュースが相次いでいる。そんな中、福岡市の救急医療の中核を担う福岡記念病院で、2024年春までに14人、夏までに1人、合わせて15人の医師が集団退職するという報道があった(15日、日経メディカル)。理由の1つとされているのが「全ての救急車を断らない」とする病院の方針で、断った場合、医師に対しペナルティが課せられるという内部からの声もある。
救急搬送を断らないことは正しい判断なのか。患者を受け入れる医師たちの現状は。『ABEMA Prime』で福岡記念病院の医師とともに議論した。
■「働きがいや存在意義が見出せなくなった」
病院との意見の違いで来春に辞職を予定している、救急外来も担当する福岡記念病院総合診療科部長の茂木恒俊氏。院内の状況について、「10月1日に院長が交代した変化がけっこう大きい。トップとともに方針も変わっていくので、働いている人たちは影響を受ける。今年は救急専門医がいない中、みんなで協力して救急対応をしているが、ペナルティで業務から外されてしまうと、残った人たちの負担は増えていく。2つ目に、主治医がいるにも関わらず、院長が治療や退院の意思決定のプロセスで突然指示をしてくる事態が起き始めた。我々としては従わざるを得ないので、自分で患者を診ているという感覚は喪失していってしまう」と説明。
さらに、「総合診療科は救急の振り分けだけをしていればいい、原因がわからない熱や高血糖の患者さんの管理をすればいいとも言われた。入院患者の7、8割は救急であり、我々が抜けることによってその行き場がなくなってしまうリスクもあるものの、それ以上に働きがいや存在意義が見出せなかった」と明かす。
番組の取材に対し福岡記念病院は、「こんな記事がなぜ出たのか困惑している」「現時点で退職届は9人。院長交代を理由に辞職する人はいない。例年10人前後の出入りはあり、特段多くない」「当該医師が辞めても総合診療科は存続する」「院長から(救急受入に関する)ペナルティなどの発言があったかは把握していない」と答えている。
これに茂木氏は「困惑するとは思うが、病院側へは取材のアナウンスだったり、報道が出るという通知はされていると思う。退職者の数に関しては、私のほうでも9人把握しているが、まだ退職届を出していない人もいるのが現状だ」とした。
福岡記念病院は福岡市全体の6%にあたる年間6000件超の救急受け入れを行っている。茂木氏は「本当に悔しさしかない」という思いを吐露した。「3年間という短い期間だったが、2人で始めた総合診療科も5人になった。本当は来年に優秀な方を迎える予定だったが、こういった形になり断った。うちの診療科は救急と、研修医の教育ももう1つの軸としてやっている。今いる研修医たちを含めて本当に申し訳ないという気持ちしかない」。
■「働き方改革と、医師が報われる体制の構築を」
元救命救急医で株式会社ドクターズプライム代表取締役社長の田真茂氏は、病院の経営の観点から次のように語る。
「院長の立場としては、経営と地域医療を守るという観点から、救急車の受け入れを頑張ってほしいというスタンスは理解できる。病院側は出来高制で儲かるので、基本的には受け入れてほしいわけだ。ただ、それは体制もセットで、現場の先生たちだけに負担を押し付ける構図になるとなかなか厳しい。言っている方向は正しいが、やり方に問題があると感じる」
これに田端大学塾長の田端信太郎氏は「個別のケースとして聞いていると、“上司と部下の対立で大量辞職”みたいな、サラリーマンでも度々ある話だ。ただ、院長が言っている“なるべく受け入れるべき”という話自体は間違っていないようにも思える。皆保険で値段に差もない中で、究極的には医師を自衛隊員や消防士のように公務員化して、受け入れ義務を負わせる。国公立の医学部に行った人は税金が投入されているわけだから、あまりに早く辞めた場合は返還させるような仕組みにしないと、解決しないのではないか。民間人なんだから、なるべく楽して働きたいし、深夜当直が嫌だというのは当たり前だ。そこが今かなり善意の範囲になっているために、持たなくなってきているんだろう」と指摘する。
田氏は現状、救急車の受け入れ台数を増やしても医師には還元されない仕組みになっていると説明。「金銭システムとして、当直1回いくらみたいに決まっていると思う。その中では、救急車を1台受け入れようが5台受け入れようが同じだ。“医師だから当然受け入れよう”という善意に委ねられる仕組みになってしまっているが、結局は1人の人。日中働き通した後に、“さすがに夜中2時に起こされたら眠い”というのは僕もあった。体力的な面での働き方改革と、インセンティブも含めて報われる体制をどう作ってくかが大事だと思う」と答えた。
一方で、給与体制を一病院単位で変えるのは難しいとも指摘。「病院の中でどう予算を取るかもそうだし、インセンティブをやるとなると、“今までの人はどうなる”“優遇されるのはこれからだけなのか”といういろんな文句が出てくる。また、“5000円アップぐらいだったら受け入れませんよ”とボイコットが起こるといった問題も実際にある。構造の問題が大きい」とした。(『ABEMA Prime』より)
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