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【映像】井岡、“前で作るボクシング”でKOの瞬間

 WBA世界スーパーフライ級タイトルマッチが大みそか、東京・大田区総合体育館で行われ、王者の井岡一翔(志成)が挑戦者6位のホスベル・ペレス(ベネズエラ)に7回2分44秒KO勝ち。初防衛に成功するとともに、日本人世界タイトルマッチ勝利数を単独トップの22勝に伸ばした。

【映像】井岡、“前で作るボクシング”でKOの瞬間

 円熟の井岡が34歳にして新境地を切り開いた。

 緻密でクレバーなボクシングを身上とする井岡はいぶし銀というフレーズがよく似合うチャンピオンだ。しかしこの日は違った。スタートからグイグイとペレスに迫り、得意のジャブ、左ボディ、さらには右フックもアグレッシブに打ち込んで、見ている者の期待をいい意味で裏切る。「打ち合いが得意だ」と宣言し、強打で番狂わせを実現しようとしていた挑戦者、ペレスのお株を奪う立ち上がりだ。

「KOがすべてではないけど、今回はKOしたいと思っている。最近KOしてないというのもあるかもしれないけど、KOして会場の一体感を作りたい」

 試合前、そう話していた井岡の言葉が脳裏によみがえる。いつもなら相手とリングで対峙してからていねいに情報を集め、決して攻め急がないところを、あえてリスクを犯して危険な近距離の戦いに身を投じた。案の定というべきか、2回にペレスの右、左フックを被弾してポイントを奪われる。それでも「迷いはなかった」。攻撃の手を緩めることなく、前に出て、ペレスを追い続けた。

 もちろん井岡はやみくもに前に出ていたわけではない。しっかり餌をまき、ワナを仕掛け、試合の主導権を引き寄せた。上を打つと見せかけて下、下を打つと見せかけて上、相手の左に合わせて打ち込む右も効果的だった。そして5回、抜群のタイミングで右カウンターを炸裂させると、フラついたペレスに畳みかけて最初のダウンを奪う。会場が一気にヒートアップする中、さらに右を叩き込んで2度目を追加した。

 井岡は6回も攻め、これはペレスにしのがれたものの、7回に再び右ストレートを決めるとペレスがグシャリとキャンバスに沈み、そのまま10カウントが数えられる。勝利者インタビューで井岡は「久しぶりのKO勝利をみなさんにお見せできて超うれしい!」と絶叫。チャンピオンが珍しく感情をあらわにした姿にファンが沸いた。

 試合前、「今回は井岡にとって不本意な防衛戦ではないか」と見たファンは少なくなかったはずだ。というのも、当初はこのクラスの第一人者であるWBC王者、フアン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)との統一戦を目指していたからだ。ところが交渉は進んだものの、大詰めの段階で頓挫。急きょ抜擢されたペレスは強打者とはいえ無名の伏兵で、エストラーダと比べると格下の印象は否めなかった。

 それでも井岡の士気が落ちたり、ハートが腐ったりすることはまったくなかった。これが13年にわたり世界のトップを走り続けるチャンピオンのメンタルなのだろう。

「エストラーダとはもちろんやりたいけど、それだけじゃない。ジェルウィン・アンカハスのときもそうだった(21年大みそかにIBF王者との統一戦が決まりながらコロナ禍でキャンセルに)。そういうことに左右されたくない。僕の試合を楽しんでくれる人がいるなら、舞台が用意されるなら、挑戦し続けたい」

 井岡がこの日、前に出た理由は、挑戦し続ける姿を、戦い続けるハートを期待してくれるファンに見せたかったからだ。加えて前回7月、WBA王座を奪ったジョシュア・フランコ(米)との試合で確かな手応えをつかんだことも大きかった。

「経験を積むと後ろでボクシングを作りたくなる。相手のミスを引き出したいというか、後出しジャンケンというか、そういう気持ちになる。でも今回のように勢いのある相手は前で止めたい。前回の試合で、井岡一翔のボクシングを軸にしながら“前で作るボクシング”を落とし込めたと思う」

 井岡には前に出ても勝てる自信があった。“KOできる間合い”をフランコ戦でつかんでいた。前に出てボクシングを作る技術的、戦略的な裏付けがあったのだ。セコンドについた佐々木修平トレーナーが「今回は一番調子が良かった。自信があっと思う」と口にすると、井岡はすぐさま「成長したということだと思います」と付け加えた。

 これで世界戦の通算勝利数は22勝となり、5日前に並ばれた井上尚弥(大橋)を突き放して再び日本人単独トップに立った。メディアから「井上をどう意識するか」という質問が飛ぶと、井岡は「当たり前だ」と言わんばかりにクールに答えた。

「記録は意識していないし、彼のことも意識していない。おそらく年齢的にも僕のほうが早く引退するので、彼が記録を抜くと思うし、そこにこだわりはない」

 待望するエストラーダとの統一戦はいまだ井岡の中で「最もやりたい試合」ではあるが、それが実現しないことがあることも、このベテランはよく分かっている。だからといってモチベーションが落ちることはない。いや、モチベーションという言葉さえ、もはや超越しているように見える。

 12回目の大みそかファイトを終えた井岡はこう言った。

「(自分の試合を)見せ続けられる限り見せ続けたいと思っている。それができるリングがあるのなら13回でも14回でも、リングに上がり続けたいと思う」

 井岡一翔はこれからも雑音に心を乱すことなく、己を高めることに専心し、自らが信じた道を愚直に歩み続ける。2023年最後の夜、孤高のチャンピオンが己の生きざまをまざまざと見せつけた。

【映像】井岡、“前で作るボクシング”でKOの瞬間
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