2023年12月に発表された法務省の犯罪白書で、少年院に在院している少年の約6割が親との死別や離婚、家族からの暴力を経験していたことがわかった。
その指標が、ACE(小児期逆境体験)。0歳から18歳までに経験する虐待やネグレクト、家庭の問題などの総称で、米国の研究では心身の疾患や問題行動に関連があるとされる。また、ACEスコアが高い人は、重度のうつや自殺を考えるなどのリスクが4倍に跳ね上がるとの調査結果もある。
「若いときの苦労は買ってでもせよ」と言うが、逆境は子どもたちの心にどのような影響を及ぼすのか。『ABEMA Prime』では、専門家を招き考えた。
そもそもACEとは何か
ACEは、Adverse Childhood Experiencesの頭文字をとった言葉。虐待やネグレクト、依存症や精神疾患を抱えている家族がいる、DVがあったなど家庭の問題を包括的に扱っているものだ。
子ども期の過酷な経験の影響を研究し、ACE体験の調査を行った龍谷大・三谷はるよ准教授は、「体験の数が増えるほど、その後に持病を抱える確率が高く、がんや脳卒中、心筋梗塞を含めた病気にもかかりやすい」と調査結果について言及。「メンタル面でも、うつ病や精神疾患にかかりやすく、自殺念慮も高い。さらに人間関係で孤立しやすく、離婚や貧困に至る確率も高く、学歴は低くなりやすいことが日本でも明らかになっている」と説明した。
三谷准教授の著書『ACEサバイバー』によると、実際にACEスコア4以上の人は0の人と比較して、重度のうつ・不安障害になる確率が4.0倍、脳卒中は5.8倍などのデータが出ている。
少年院在院者の高いACE経験率
冒頭で触れた犯罪白書で初めて調査結果が掲載されたことについて、三谷准教授は「少年院在院者の被虐待率が高いことは従来から言われていたが、国の調査で実態が明らかなったことに意味がある」と指摘。
【図】は個別体験の比率を表しているが、逆境体験1つ以上のACE率は男性で87%、女性で95%。ほとんどが“ACEサバイバー”だ。これを踏まえて「“非行の裏にACEあり”は常識と言っても過言ではない。背景には過酷な生育歴がある。彼らも被害者だったことを踏まえた更生のあり方や支援が必要だ」と述べた。
逆境体験は負の影響だけなのか
近年、レジリエンス(=困難な状況に適応して逆境から回復・適応すること)が注目されているが、三谷准教授は「個人的な資質や周りの環境に恵まれた人が逆境を乗り越えることもあるが、誰もがそれらを持っているわけではない」との見方を示し、「ACE研究は米国で始まったが、今回大規模データで日本でも欧米と同等の深刻さがあると明らかになった。是非みなさんにお伝えし、対策も一緒に考えてほしい」と警鐘を促した。
説明を受け、ギャルタレントのあおちゃんぺは「私は両親が離婚し、“教育”と称して暴力を振るわれたのでわかるが、トラウマ体験には良い面と悪い面どちらもある。当時は辛く負の影響しか感じなかったが、大人になるにつれて自分で考え、人生を選択していくうちに、乗り越えて対処する力をつけたと思っている」と発言。
また、「10代の時に父親に殴られ、近所の人が警察を呼んだことがあった。でも、親が“これは我が家の教育方針だ”と説得し、警察は“お父さんの言うことを聞きなさい”と私に説教をして帰った。その時、SOSを出すのは無駄だと感じた。助ける側の理解も足りていないのではないか。“踏み込めない”と言わずに踏み込んでほしい」と自信の体験を明かした。
ACE体験者支援のあり方は?
議論を踏まえ、元経産省官僚・制度アナリストで、ギャンブル依存問題に携わっている宇佐美典也氏は「データを見ると“子を虐待している親が悪い”という発想になりがちだ。ただ、親も依存せざるを得ない環境で祖父母の代から虐待を受け、ACE体験者というケースが多い。そう考えると、子を救うためには親を救わない」と問題を提起。
「日本社会は“ギャンブルやアルコールにハマるのは愚か。自己責任だ”と言って放置するので問題が解決しない。アルコールやギャンブルで儲けたお金を原資にそれぞれの依存問題に向き合うべき。今は酒税や公営ギャンブルの収益は、全て政府が他のことに使っているが、これを原資に家庭に介入していかないと解決しない。お金の使い方を変えるべきだ」と発言した。
一方、三谷准教授は学校現場について言及し、「子どもにとって先生は社会の窓口。そこでシャットダウンされたときの影響は本当に大きいので、先生たちにACEのことを知ってほしい」「ソーシャルワーカーが学校現場にいるのがベスト。学校の先生方も疲弊されているので、家庭に介入できる専門家が必要だが、実際はその配置は十分に進んでいない」と述べた。
そして、「レジリエンスを教育現場で強調し過ぎることは危険だ。逆境は乗り越えてなんぼというメッセージになる。むしろ、弱みを見せられることのほうが大事だ。SOSをいかに出せるか。それに関わる人権教育や性教育に力を入れるほうが大事なのではないか」との見方を示した。
(『ABEMA Prime』より)
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