箸の持ち方が悪い、字が汚い、食べる時に音を立てるクチャラー。こういった行為に対し、ネット上で共通して用いられるのが…“育ちが悪い”という言葉。
実際に他人から指摘されたことがあるという、教育系ライターの濱井正吾さん(33)が見せてくれたのが箸の持ち方。本来正しいとされる持ち方ではなく、いわゆるクロス箸。昨年、それが原因で付き合っていた女性にフラれてしまったという。
親のしつけによるものなのか、家庭環境はどれだけ影響するのか…「育ちが悪い」と感じることで生きづらさを生み出すこの問題。そもそも悪いことなのか、変えられるものなのかも含めて『ABEMA Prime』で当事者と考えた。
■「自分の常識が非常識だと思うことがすごく多い」
濱井さんは「自分の常識が非常識だと思うことが、東京に出て来てからすごく多い」と語る。例えば「カレーをぐちゃぐちゃにして混ぜて食べること。学食で友達と一緒にご飯を食べていたらドン引きされた」。
ナイフとフォークの扱いが苦手、茶碗に米粒を残す、食事中に肘をつく、歯もあまり磨かなかったそうで、「25、6歳までは歯医者に行かなかった。虫歯や歯周病がひどくなってきて、このままだと糖尿病を併発する恐れがあるとお医者さんに言われた」という。
育った家庭環境については、「学歴が全てではないが、家族はみんな高卒しかおらず、世帯年収も200万円ぐらい。うちの父もクロス箸で、全体的に放任主義だった」と明かした。
一方で、「片付けが苦手だが、妹はめちゃくちゃきれいにする。たぶんそこは育ちではなく、自分の甘えだと思う」「親から大学に行くなと言われていて、“見返してやりたい”というのが原動力だった。今は感謝して親孝行したいなと思っている」とも話す。
脳科学者の茂木健一郎氏は「濱井さんを前からXで知っているが、向上心がある。そういう人は育ちが悪いとは言えないのではないか」との見方を示した。
■「何か人と違うな、自分は足りていない、という思いが強かった」
貧困家庭出身で育ちが悪いと劣等感を抱き、抜け出すために猛勉強をしたという学校教員のさおりさん(29)は、「親に“これがマナーだよ”と教わった記憶がない。小学校に上がってから周囲の人に指摘されて気がついた。あとは友達の家に遊びに行った時は靴を揃えるんだと、みんなの様子を見て身に付けた」と説明。
また、「幼稚園や保育園を出ていないせいで、小学校に上がった段階でみんなより知らないことが多かった。例えば、友人に“クリスマスプレゼント何もらった?”と聞かれて、なんのことかわからなかった」「習い事も行けなかった。ピアノも、スイミングも、そろばんも、書道もできない。親には大学に行くなと言われていた。何か人と違うな、自分は足りていない、という思いが強かった」という。
その後、実家から抜け出すには勉強しかないと、大学へ進学。親元を離れ、仕送りもなく、奨学金とバイト代で生活。安定した職業を求め、教員になった。
「EXx」取締役CTOのtehu氏は「“育ちが悪い”はすごく強いワード。箸の使い方が汚い、食べる時にくちゃくちゃしてうるさいと、誰かを評価する時にレッテルを貼りやすい。ただ、社会で活躍している人がクチャラーでも、逆に“才能はこういうところに現れている”と解釈されることもある。だからあまり気にしなくていいと思うが、一方でそれが親ガチャに繋がっているのであれば、それはまた別の議論になる」とした。
■家庭環境のせい?変えられる?
茂木氏は「育ちが良い人、良家の人も劣等感を持っている。例えば会社の2代目3代目は、周りから“親の七光りだ”と見られてしまう。濱井さんやさおりさんとは別の劣等感があり、そういうものはみんな持っているのではないか」と推察した。
一方で、「育ちが良い人の特徴として、自分が持っている良さを卑下しない。濱井さんだったら早稲田に9浪して受かった。さおりさんは学校の先生をやっている。それを褒められた時に素直に受け入れるというのは、育ちの良さかもしれない。これからそうなっていけばいい」と勧めた。
行動遺伝学が専門の慶応義塾大学・安藤寿康名誉教授によると、パーソナリティは、“育ち”には関係なくその時々の環境で変化するもの。生い立ちは変えられないが、とらわれなくて良いという。
これに濱井さんは「自分が置かれた環境によって、いかようにも変化するのは、その通りだと思う。自分がいた丹波という場所も、東京とはまた違う世界があった」と答える。
さおりさんも「すごくしっくりきた、私も“育ちが悪いようには見えないね”と言っていただけるようになったのは、そういう人たちと関わる環境になったこともあると思う」と同意した。
tehu氏は、「育ちが悪いという言葉は、人生でなかなか言われるものではない。1度言われたら頭の中でグルグル回ってしまうようなショッキングな言葉だ。指摘する側も、言い方に気を付けてほしい」と語った。(『ABEMA Prime』より)
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