世界最高峰の格闘技イベント”ONE Championshipの約4年ぶりとなる日本大会=1月28日(日)東京・有明アリーナ「ONE 165: Superlek vs. Takeru」。今大会では青木真也MMAルールで元UFCファイターのセージ・ノースカットと対戦する。

「世界トップクラス、最高峰の舞台で、最高峰の選手と戦うことが出来ることが最後」。青木はカード発表記者会見でそう語り、大会の公式ビジュアルにも「青木真也、最後の闘い」という文字が躍った。青木にとってなぜこの試合が“最後”の戦いなのか。このインタビューでは青木が12年前のある試合に触れ、40歳の青木真也の本音を語ってくれた。

――2022年11月のサイード・イザガクマエフ戦以来のMMAルールでの試合が決まりましたね。

「僕が思っていたのは、MMAのオファーがないままONEの契約が切れても全然いいと思っていたから『ああ、まだMMAで試合を組んでくれるんだ』と思いましたよね」

――ONEが約4年ぶりに日本大会を開催するわけなので、試合は組むでしょう

「使い勝手がいいから」

――プロモーター目線で言えば、久々の日本大会となれば、日本のMMAファイターで知名度と実績がある選手にはオファーして当然だと思いますよ。

「おっしゃる通り、日本大会がなかったら俺のMMAの試合は組まれなかった。そこに異論はないです。でもそれはみんな一緒ですよ。日本大会をやるから日本人の試合が組まれる」

――大会日時・対戦相手も決まったわけですが、そこに向けてはどんな心境ですか?

「みんな『勝ちたい』って言うけど、本音はどうなんだろうなって思うんですよ。俺は正直に言うと『勝てたらいいな』なんですよ、『勝ちたい』じゃなくて。これが本音」

――それは年齢とキャリアで変わってきたものですか?

「40歳の青木真也の本音ですね。だから同世代の選手たちが『勝ちたい』って気持ちで試合に出ているのがどうなんだろうって思うわけです」

――ある意味、自分で自分にそう言い聞かせて、暗示をかけているかもしれないです。

「だから同世代の選手がインタビューで『やりきりたい』って言っているのを見ると、その『やりきりたい』を俺は20代後半で一回終わってるんだよなって思うんです」

――ずばりいつやりきったと思いましたか? 僕は2012年にアメリカに行って、ベラトールでエディ・アルバレスと戦ってKO負けした時だと思います。

「まさにあそこで終了ですよ。『やりきりたい』とか『勝ちたい』と思ったのはあれが最後。あれ以降はボーナストラックに入っているというか、プロファイターの仕事として10年ちょっとやり続けています。今の格闘技はクリエイティブが入る隙間がないじゃないですか。それは技術的なことも含めて。応用はあっても革命は起きない。でも昔は競技化されてないから、0から1の革命や革新が起きる可能性がめちゃくちゃあったんです。そこが段々と整備されて、お金が入ってくると、より強く・より速く・よりタフなものが求められる。そこに果たしてクリエイティブさがあるのかってことですよね。だから僕らの20代中盤まではいい時代だったんですよ。色んなことを自由にやれていたから」

――青木選手が20代の頃はこれからMMAがどうなるんだろうという雰囲気はありましたね。

「僕がPRIDEに初参戦したのが23歳の時で、28~29歳にアルバレスにやられているから、その時にMMAがこうなっていくんだなというのがある意味分かったんです」

――“分かった”というのは?

「2010年にギルバート・メレンデスに負けて、そこから2年間(キャリアを)積んで、アルバレスとやってやられたわけですよ。しかもそういう試合を日本ではなく、アメリカに乗り込んでやらないといけなかった。そこで僕自身『これは色々無理だ』ってことが分かった。答えが出たわけです」

――そこでメレンデス戦からアルバレス戦までの2年間のような気持ちでMMAに向き合うことは難しくなったわけですか?

「そうです。そこからボーナストラックに入ってONEでちょろちょろ楽しんでやっていたら、ONEはONEで競い合う場になってきて、ここ数年は自分的には頑張ってきたけど……もうそろそろいいんじゃない?という気持ちになりますよね」

――それでも試合が決まったわけじゃないですか。しかも相手は元UFCファイターのセージ・ノースカットで。

「まだこんな相手とやらせてもらえるんだって思うし、そういう評価をされているんだなと思いますよね。10月にグラップリングでマイキー・ムスメシとやった時に控室で他の選手たちのアップを見ていて『こんなヤツらとやったらボコボコにされちゃうよ』と思ったんです。この感じの相手とはあと何試合もできないよって」

――ONE Fight Nightに出ているロシヤアジア圏の選手を見てもそう思ったということは…。

「『アメリカのトップ選手だったら死んじゃうよ、もう絶対無理だよ』って思いますよね。だから今回が“最後の闘い”と言われるし、これからレジェンド文脈にいくのかどうかは分からないけど、これ以上は無理だという潔さはあります」

――青木選手は以前よく言っていましたよね、「100mを10秒切る選手と切らない選手は違う。決定的な差がある」と。

「そこはもう別物。そうやって一歩引いた目でMMAや格闘技を見ちゃっているから、今ガツガツやっている人たちとは違いますよね。例えるなら野球のイチロー。あの人はプロ野球選手は引退したけど、野球を追及することはやめないわけじゃないですか。そのなかで気が向いたら試合的なこともやる。そこに近いんじゃないかなと思います」

――ただそれでもまだ「青木だったらノースカットに勝つかもしれない」と期待されている試合でもあるわけじゃないですか。

「そこなんですよ。ギリギリ『青木いけるんじゃないの?』と思われる相手であり、試合じゃないですか。僕は勝っても負けても形にする自信はあるけど、相手に対して『よし!行くぞ!』と思えるのは今回が最後かもですね」

――だから僕はONEの日本大会で青木真也のそういう試合が見られる=いいカードだと思うんですよ。

「あとは言うても40歳だから。いくら身体が頑丈だって言ってもガタは来てますよ。俺も人の子だなって思います(苦笑)」

――僕も数年ぶりにしっかりMMAの試合を見るようになって、年齢を重ねた選手たちの衰えや反応の鈍さは感じました。

「僕はそこを客観視している自覚もあるし、だからこそ『世界トップクラス、最高峰の舞台で、最高峰の選手と戦うことが出来ることが最後』なんですよね。スキルや戦術でどうこうできない衰えが間違いなくあるから」

――しつこいようですが、だからこそ青木選手がノースカットに勝つところを見たいファンも多いと思います。

「さっきとは逆になるけど、殻を破りたい。凝り固まった自分のMMAを一歩外まで広げたい。ここ最近ずっとそうなんですけど、MMAはテイクダウンしてコントロールして殴って…みたいなものがあるわけじゃないですか。でも若い選手の中には、そういう発想の外側にいる子もいる」

――RIZINアゼルバイジャン大会で鈴木千裕選手がガードポジションからのカカト落としでヴガール・ケラモフをKOしたように。

「もう一回何か新しいクリエティブを創るために殻を破りたいし、そうでもしないと勝てない相手だと思ったりもします。ネジを飛ばさないと」

――それこそ若かりしの青木真也はネジが飛んだ選手でしたよね?

「はい。ただ昔はネジが外れた試合を出来たけど、だんだんと理屈で物事を考えて堅実な選択をするようになったから。だからその殻を破りたいです」

――試合当日はネジが外れた青木選手を期待していますよ。

「40歳でこんな仕事をやっている=十分ネジが外れてるんだから、そんなに贅沢は言わないでください(笑)」

文/中村拓己 

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