相次ぐ子どもへの性犯罪。政府は子どもたちを守るべく、日本版DBSの導入に向け、今国会での法案提出を目指している。日本版DBSとは、学校や保育園など子どもと接する仕事に就く人の性犯罪歴を確認させる仕組み。ただ、対象はあくまで犯罪歴のある人のため、初犯を防ぐことはできない。
子どもに性的な魅力を感じる人、いわゆる小児性愛者は、推定で人口の約5%(カナダ・スウェーデンの医学研究機関より)いるとされているが、日本で2022年に12歳以下の子どもが強制わいせつなどの被害に遭ったのは約1000件。その感情を抱きつつ罪を犯していない人も多くいる。とはいえ、小児性愛者を見る社会の目は厳しい。
加害に向かわせず、内心の自由でとどめておくためにできることは何なのか。子どもの性被害を防ぐためには。当事者と共に『ABEMA Prime』で考えた。
■「絶対に加害行為をしないと18歳の時に誓った」
18歳の時に小児性愛者だと自覚したAさん(30代女性)。「中学生ぐらいに弟とお風呂に入ったときに、そういう気持ちになったのがきっかけ。それからポルノサイトを見たり、漫画を読んだり、いろいろ検索したりする中で、“自分はそうなんだ”と気づいた」と話す。
これまで成人男性に恋愛感情を持ったことがなく、「そういう感情が欠落している部分はある」という。性的な対象は「幼い男の子だったり女の子だったり、どちらもだ」と明かす。
Aさんは、子どもと関わる仕事はしない、友人の子どもと遊ぶのはなるべく避ける、児童ポルノ漫画などを所持しない、SNSなど小児性愛者の集まりに参加しないことを心がけている。「“絶対に加害行為をしない”“子どもと関わる仕事は絶対にしない”と18歳の時に誓い、それを意識しながら生きている」。
小児性愛を変えたいという思いはあるのか。「ぶっちゃけ変えたい。いらない嗜好だと思っているし、普通になりたい。男性を好きになったりしたい」と話した。
■社会の厳しい目も「性的嗜好と加害行為は完全に線を引く必要がある」
性障害専門医療センター代表理事で精神科医の福井裕輝氏によると、小児性愛には純粋型(子どもにのみ関心)と非純粋型(成人にも魅力を感じる場合)があるという。「前者は非常に遺伝性が強い。親がそうだからということではなく、先天的に決まっている」と説明。
治療法は2つあるとし、「1つは、認知行動療法。先ほどAさんがおっしゃっていたことは実に適切で、ご自身で治療されているようなもの。犯罪に至るまでには、児童ポルノを見る、子どものいる仕事に就くといったことがあるので、それらに歯止めをかけていくようなものだ。もう1つは薬物療法で、性的欲求を抑えるホルモン療法によって行動を止めていく」と述べた。
一方、港区議会議員の斎木陽平氏は「治療」という言葉に疑問を呈する。「僕はLGBTQの当事者でゲイだ。“同性愛は治療すべきだ”というような自民党冊子に抗議スピーチをしたことがある。福井先生にそんな意図はないと理解しつつ、性的欲求を薬で抑えるというアプローチは、小児性愛そのものをどうこうできないということ。なので、治療ではなく対処法と言ったほうがいいと思う」。
これに福井氏は「性的嗜好と、加害行為という具体的な行動には、完全に線を引く必要がある。しかし、日本の風潮としては内面自体も攻撃するような空気がある」と指摘。
Aさんは「私も友人にカミングアウトしたことがあるが、“気持ち悪い”“犯罪者一歩手前だ”といった厳しい言葉をかけられ、それからは人に言わないようにしている。友達と恋愛話をすることもあるが、嘘をついて話を合わせる。厳しい意見ももちろん分かるが、自分は絶対に加害しないと決めている。そういう嗜好になるのはだめなのかな?と悩んだりするし、生きづらいと感じることのほうが多い」と語った。
■DBSだけでは防げない? 「海外では古い政策」
治療の現状について、福井氏は「性加害者本人が治療を受けたいと言っても保険が適応されない」と指摘する。「“自分は加害したくない”と近くの病院やクリニックに行くと、治療の対象ではないと門前払いを食らう。問題を起こしたかどうかではなく、なんなら刑務所から出てきた人でもそうなるわけだ。我々の機関も自費でやっていて、カウンセリングが月に3万円、薬代が4000~5000円程度かかる」と話す。
福井氏は、限定的な制限では意味がないと、日本版DBSは効果がないと見ている。「世界的には1980年代に厳罰化が進んだ。DBSも海外ではけっこう当たり前で、古い政策だ。今はそれだけでは防げない、サポートがむしろ再犯防止になるだろうということで、治療や職業の斡旋、窓口の設置、話を聞いて内面を支える、ということをやっている。この議論については講演もしているので、議員さんもある程度分かっている。しかし、いざ政策、となると止まってしまっている状況が十数年続いている」とも述べた。
Aさんは当事者として、「そういう情報や治療のことを知りたい。話を聞いてくれるコミュニティもありはするが、喋っているうちに楽しくなってきて、性的な嗜好がより活性化されてしまう気がする。そうではなく、カウンセリングの場が近くにあればと思う」と訴えた。
斎木氏は「最大の要因は世論だと思う。“性犯罪者に加担するのか”“小児性愛者であること自体がおかしい”ということでは決してない。日本では履き違えて議論が進んでしまっているので、その認識をアップデートしない限り、犯罪は繰り返されてしまうということを考えていくべきだ」と述べた。(『ABEMA Prime』より)
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