1月28日(日)有明アリーナにて「ONE 165: Superlek vs. Takeru」が行われ、元K-1 三階級王者の武尊がスーパーレック・キアトモー9の持つONEキックボクシング世界フライ級王座に挑戦。5Rに及ぶ死闘となったものの、スーパーレックの牙城を崩すことが出来ずに判定負け。試合直後には「今僕が出来る限界はここまで。これ以上は体を作れません。みんな僕についてきてくれてありがとう」とコメントを残し、リングを後にした。
昨年5月にONE Championshipとの契約を発表し、約4年ぶりとなる日本大会でONE初参戦を迎えた武尊。当初はロッタン・ジットムアンノンとのスーパーファイトが予定されていたものの、ロッタンが左手首の怪我により欠場。同時期の別大会でタイトルマッチを控え、同じく対戦相手の怪我で試合が流れていたスーパーレックが代打出場となり、スーパーレックと武尊によるタイトルマッチが決まった。
パンチ主体で殴り合いを好むロッタンと違い、スーパーレックは右の蹴りを得意にしているタイプ。武尊にとっては相性が良くない相手だという予想も多かった。いざ試合が始まるとスーパーレックは右ローで武尊の前足=左足を狙い、確実に武尊の左足にダメージを蓄積させていく。それでも武尊は前に出て、3Rに強烈なボディブローの連打でスーパーレックを棒立ちにさせた。
試合後にスーパーレックも「あのボディで倒れそうだった」と振り返る強烈な連打だったが「自分も生き残るためにすべてを出し切った」と意地を見せる。4R・5Rは必死にパンチで前に出る武尊をスーパーレックが前蹴り・ヒザ蹴りで迎え撃つ展開が続いて試合終了。互いに死力を尽くした一戦はスーパーレックに軍配が上がった。
試合後の武尊は「絶対に勝って世界一を証明して、応援してくれるみんなにパワーを与えたかった。そのために今の身体で出来る限界までやりました。みんなに武尊を信じてついてきて良かったと思ってもらいたくて、いま地震や色んなことで辛い思いをしている人がたくさんいて、そういう人たちに僕が命がけで戦って『頑張ればいいことがある』と教えたかった。今僕が出来る限界はここまで。これ以上は体を作れません。みんな僕についてきてくれてありがとう」と涙ながらに語り、リングを降りた。
武尊は試合後そのまま病院へと向かい、バックステージでの記者会見を欠席した。深夜に自身のSNSにて「応援してくれた皆様、本当にありがとうございました。また日本で勝つ姿を見せられなくて申し訳ない。でもこの数カ月やれることはやりきった。会場に集まってくれた皆様、 PPVで見てくれた皆様、この大会に関わってくれた全ての皆様、本当にありがとうございました」と試合後の心境を綴っている。
この武尊の格闘技人生をかけた一戦を卜部弘嵩と卜部功也も会場で見守っていた。2人は武尊にとっての兄貴分で、デビュー前から武尊の闘いを誰よりも近くで見てきた存在だ。2人に試合の感想を求めると、弘嵩からは「まず武尊にはお疲れさんと言いたいです。近いうちに飯でも誘ってゆっくり話します」、功也からは「武尊は強かった。でも今回はそれ以上にスーパーレックが強かったです。ハートもありました。武尊は身を削りながらギリギリで戦っています。ファンのみなさんは今ここで答えをすぐに求めないで、待ちましょう」という言葉をもらった。
今回の試合でも多くの人が武尊の命を削るような戦いに心を震わせ、武尊の試合後の言葉を聞いて色々な感情を抱いているはずだ。筆者もそうだ。だからこそ今は弘嵩が言うように武尊のことを労い、功也が言うように武尊とスーパーレックを称え、そして武尊の言葉を待ちたい。
文/中村拓己
写真/ONE Championship