能登半島地震から1カ月。被災地ではあらゆる面で復興支援が求められている状況だが、支援が必要なのは被災者の“こころのケア”も同様だ。
そこで県の要請を受けて被災地域に入るのが、災害派遣精神医療チーム、通称「DPAT」。どんな組織で、どういった活動を行っているのか。また、私たちができることは。石川県金沢市の医王ヶ丘病院の理事長で、石川県DPATの統括としても活動している岡宏氏に話を聞いた。
■“DPAT”とは?
━━“DPAT”とは、どういう組織?
Disaster Psychiatric Assistance Teamの略で、大規模災害の時に県の要請を受けて被災地域に入り、精神医療、保健福祉活動を行う災害派遣精神医療チームのこと。国からの委託を受けた団体で、被災者の“こころのケア”を専門としている。
また、DMAT(Disaster Medical Assistance Team)という、被災地での生命を守るための災害派遣医療チームもある。
━━DPATの具体的な活動は?
多くは精神科病院、総合病院、県立病院、大学病院などから派遣され、医師・看護師・業務調整員が3人1組となり、現地で1週間程度の活動をして、次の隊に引き継ぐ形をとっている。
まず県庁に調整本部を立ち上げ、被災地の情報収集を行った後、被災県のDPAT先遣隊が出動し、被災地に活動拠点本部を立ち上げる。さらに詳しい現地の精神科ニーズについて情報収集を行い、今後の派遣隊数の決定、指揮を行う。最終的には地域の精神医療・保健活動に橋渡しを行う事を目的としている。
━━能登半島地震を受けての活動は?
1月1日に県庁にDPAT調整本部が立ち上がり、2日に先遣隊が七尾市に入り、活動拠点本部を立ち上げた。県内外から多くの先遣隊に入ってもらい、精神科ニーズの把握、避難所巡回、診察、緊急搬送などを開始した。
その後、交通など安全が確保された後、輪島、珠洲、穴水、能登町に指揮所を立ち上げ、隊を派遣し、同様の現地活動を行った。
━━家屋倒壊、大規模火災、そして津波も発生したが、現地の状況は?
能登は高齢化率50%を超える地域で、特に輪島、珠洲では多くの高齢者が被災した。発災日が正月だったことで、若年者も帰省していた。
断水が長期にわたり、飲水、上下水道の問題。手洗いがおろそかになることで感染の問題などが発生し、地域生活・医療継続が困難な状態が長期に渡り続いた。
奥能登への陸の主要道路であった「のと里山海道」、その先の陸路も寸断されたことで、陸路での支援がより一層困難となり、珠洲、輪島では支援が遅れてしまった。気温の低下、降雪が被災者、支援者ともに更なる心身の負担をかける結果となってしまった。
■被災者の精神的負担、“支援者の支援”も必要
━━被災者の精神的負担は?
発災直後は、災害の回復に向け、落ち込むより活動的になることがある。しかし、数週経って混乱が収まるにつれ、復興の格差や、家人がいない、家がない、などの現実に晒されるようになり、精神的な問題が増え始める。
多くの人は時間経過とともに自然と回復するが、PTSDといった疾患に代表されるように、その人の置かれている状況や支援の有無などによっては、トラウマが残ってしまう場合がある。
また、年齢によっても変化がある。子どもは思っていることを表現できないことが多く、内にためたストレスをうまく解消できないと、精神症状が出ることがある。高齢者は環境が変わっただけでもうまく適応できず、ストレスとなり精神症状が出やすくなる。
そして、現地で支援する医師、看護師、介護士、役所や施設の職員らはほぼ不眠不休で働くことになる。中には家や家族を亡くし、避難所から通勤しているような方もいる。自身も被災者として勤務しているので、心身ともに疲労し、相当のストレスを抱えている。こういった方々の「支援者支援」も大事になってくる。
━━支援者への支援とは?
こういう方々のストレスは現場では問題になっている。代わりの人がいないので「自分がなんとかやるしかない」、その上司も「君がやりなさい」となり、休まるときが一時もない状況になることが多い。こういう方が休養をとって、気持ちを切り替えて仕事していただくために、話を聞いたり、休憩室や仮眠室を作って、一時的に休んでもらうことが現場では必要になってくる。
━━活動の上で心がけることは?
目の前の精神科ニーズを見逃さないこと。そのために必要な情報収集を行い、治療や入院、搬送の必要性が高いものには積極的に介入する。ただし、すべてを自分たちだけでカバーすることは不可能なので、そのために市町の保健師、日赤こころのケア班などと協働して軽微なケースについては対応してもらい、可能な限り漏れのない体制をとっている。
能登での精神科ニーズは少し落ち着いてきているが、現在、金沢や南加賀に立ち上がっている避難所に避難者が殺到し、混乱している状況。また、身体疾患ニーズで総合病院などに入院した軽症例の方も、その後の行先が決まらず、総合病院でも病床圧迫している状況が続き、石川県全体で医療が逼迫している。
比較的健康な高齢者が避難所や金沢の家族宅などに避難し、環境が変わったことで精神不調を起こしたり、逆に世話する家族が疲弊して不調となることもある。精神科ニーズが増加し、精神科の入院率も増加傾向で、病床逼迫の可能性が高まっている。これらの問題に対する抜本的な対策が今後の大きな検討課題だ。
■被災者への接し方
━━精神的な復興は時間を要するもの?
復興は我々DPATのスタッフだけでなく、ボランティアや一般の方の力を借りる必要もある。そこで「見る、聞く、つなぐ」という、困難な状況にある人を支援する方法として、心理的応急措置、サイコロジカル・ファーストエイドの考え方が役に立つ。世界保健機構(WHO)が推奨する手法で、医療関係者だけではなく、災害支援に関わる全ての人が心得ておくべき考え方だ。
ボランティアの方が活動していると、被災者の心に触れる場面が多々あると思う。そのときに、どうやって対応すべきかのエッセンスが詰まっているので、ぜひご一読頂きたい。
━━被災者と接するときの注意点は?
無理に近づく必要はない。手を差し伸べてほしい方がいたら寄り添うというかたちでいいと思う。明らかに話し方や動作に問題あるような方は、避難所であればまとめている方や保健師に情報を伝える。もし必要なら、DPATに情報が伝わる仕組みができている。(『ABEMA NEWS』より)