「災害は怖い、でも時間とお金をかけて防災対策する気にはなれない」
防災意識の向上は非常に困難だ。そんな中、防災の新しい考え方として注目されているのが「フェーズフリー」だ。
その生みの親でフェーズフリー協会の代表理事を務める佐藤唯行氏に話を聞いた。
━━フェーズフリーとはどのような取り組みか?
「フェーズとは時間の区切り。この区切りをフリー=自由にするというもの。これまでの防災は『非常時のために備える。非常時のために何かしよう』と備蓄品などを用意していたが、それでは継続して取り組むことが難しい。例えば、非常用持ち出し袋が押し入れの奥の方に追いやられてしまって、災害時にすぐに取り出せず役に立たないケースはその典型だ。そうではなく、普段の私たちの暮らしの延長が“防災対策になる”というのがフェーズフリーの考え方。『備えあれば憂いなし』と言うが、『備わっているから憂いなし』を目指している」
━━2023年に10代から70代の男女5000人を対象に行われたアンケートによると「防災対策をしていない家庭」が4割を超え、さらに1人暮らしの場合はその割合が約7割に上るという。この結果をどう受け止める?
「多くの人たちは『防災はするべきだ』『災害時に自分の大切な人の命を守りたい』と思っているが実際に備える行動には結びついていない。備えることが難しいという現状で『備えましょう』と訴えてもなかなか難しい。ならば、備えるという提案をやめて、代わりに普段から使っている便利な文房具やお気に入りの服などが非常時にも役に立つ、結果的に防災対策になるという発想がフェーズフリーです」
━━フェーズフリーの商品にはどのようなものがあるのか?
「私たちの生活に身近なものでは、フェーズフリーの紙コップである『計量ができる紙コップ』。表面に目盛りが付いていて、『ml /cc』『合』『カップ』の3種類がある。非常用持ち出し袋に計量カップを入れている人はなかなかいないので、災害時には、避難所で赤ちゃんに粉ミルクを作る際に粉の分量を測ったり、お米を炊くときに米の分量を測るときに役立つ。
日常でも使いやすい明るいデザイン性の紙コップに目盛りを付けるだけでフェーズフリーになる」
━━他にはどのようなアイテムがあるか?
「『濡れた紙でも書けるボールペン』や『水が運べるトートバッグ』『足への負担が少ない革靴』などがある。『常温で授乳できる液体ミルク』は能登半島地震が発生してから出荷量が2倍以上に増え、被災地の避難所でも多く使われている。日ごろから、すでに防災が備わっているフェーズフリー商品を使うことで、『非常時にこんなことが不便になるんだ』という気づきが得られ、防災への意識が高められるという利点もある」
━━フェーズフリー商品以外にどんな取り組みが?
「コンテナを利用したフェーズフリーのホテルもある。日常時は空いている土地にコンテナを設置しビジネスホテルとして活用。一方、災害が発生した際はコンテナをトレーラーに取り付けて被災地に移動させて避難所や宿泊施設にできる。広い空間で大勢と共に避難生活を送ることが困難な妊娠中の方や障がいを抱えた方の避難施設にもなる。また、通常のホテルは客室数を決めてから建設して運営するが、コンテナホテルであれば、インバウンドで観光客が増えた際に客室数を増やすことができるなど、ホテル事業としての機動性も高めている」
━━フェーズフリーの今後の取り組みで目指していることは?
「災害時に備えて必要なものを全て揃えるのは難しいが、様々なものをフェーズフリーにすることは可能と考えている。私たちの普段の暮らしの延長線上に“備えない防災”があり、日常時でも非常時でも安心して豊かに暮らせる社会、フェーズフリーな社会を実現させたい。災害への備えや意識、防災対策に対する課題や問題を解決していきたいと本気で思っている」
(ABEMA NEWS)