30日、衆参両院の本会議で施政方針演説を行った岸田総理。ヤジが飛び交う中で、政治の信頼回復に向けてた改革の姿勢を示した。その一方で、自民党の麻生副総裁の失言が波紋を広げている。
「国内外で批判が高まっている麻生副総裁の発言について伺います」
1月30日、会見で記者からこう問われた上川陽子外務大臣。
今月28日、福岡県で講演を行った麻生副総裁は上川大臣の外交手腕を評価した一方、「おばさん」と表現。また「そんなに美しい方とは言わない」など、容姿にも言及した。
この発言に対し、野党からは、「人を見た目で判断するルッキズムそのものだ」と批判の声が上がっている。
「女性の容姿や年齢に関し、女性差別とも取れる発言を行った」という問いに上川大臣は「様々なご意見やお声があるということは承知しているが、どのような声もありがたく受け止めている。私としては国民に理解され、そして国民から支持される外交を展開していくということに専心しているところで、これからも日々努力をしてまいりたい」と不快感を示すことなく受け流し、その後の本会議では淡々と外交演説をこなした。
一方、岸田総理大臣は施政方針演説の冒頭、能登半島地震の犠牲者に対し哀悼の意を表したうえで「政府・地元が一体となって被災者に寄り添い、生活と生業をしっかり支えていく、息の長い取り組みを続けていく」「今後、支援のフェーズは段階的に変わっていくが、政府としては切れ目なくできることはすべてやるという考え方で、全力で取り組んでいく」と述べた。
その後、「政権を担って2年4カ月。30年間続いたコストカット経済から脱却し、社会課題解決に新たな官民連携で取り組むことで、賃上げと投資がけん引する『新しい資本主義』を実現し、日本を大きく動かしていく」と述べた。
「地震」「新しい資本主義」。そして3つ目のテーマとして取り上げたのは、「政府の政策」ではなく、自民党についてだ。
「自民党の政策集団の政治資金の問題で、国民から疑念の目が注がれる事態を招いたことは、自民党総裁として極めて遺憾であり、心からお詫び申し上げる。政策集団や、いわゆる派閥、すなわちお金と人事のための集団として見られても致し方ない状況にあったことを率直に認め、真摯に反省し、政策集団やお金と人事から完全に決別することを決めた」
通例では、通常国会の初日に行なれる施政方針演説。しかし、今国会では自民党の裏金問題が発覚したため、「政治とカネ」をめぐる集中審議が先行して行われるという異例の展開となった。
「今後も引き続き政治刷新本部において、さらなる改革努力を継続していく」「昨年10月の所信表明で、『経済、経済、経済』と申し上げた。その思いは今も全く変わっていない」(岸田総理)
改革姿勢をアピールしたい岸田総理。しかし、検討を表明した「連座制(会計責任者が政治資金規正法違反を行った際に政治家も責任を取る)」の導入に対して、早くも党幹部・森山総務会長が慎重な姿勢を示した。
「連座制の必要性は理解をできるが、会計責任者が故意に不正を行った場合どうするかなど、要件を明確にしておかなければ選ばれた人がその立場を失う。そういうこともしっかり考えながら慎重な検討が必要だと考えている」
■脱派閥の動きが政局に使われている
岸田総理の施政方針演説についてダイヤモンド・オンライン編集委員の神庭亮介氏は「『真摯に反省』とのことだが、反省だけならサルでもできる。大事なのは『実行』だ」と述べたうえで、次のように続けた。
「リクルート事件後の1989年に派閥の解消や政治資金パーティの自粛などを掲げた政治改革大綱を作ったが、35年かけて全然実行できなかった。今回も本当に実行できるのか疑問視している。岸田総理が出身派閥の宏池会の解散を宣言して話題を呼んだが、宏池会は過去に何度も解散と再結成を繰り返しており、『ほとぼりが冷めたらまた復活するのでは?』と疑念を抱く国民も多いだろう」
「自民党の幹部は連座制に慎重な姿勢を見せていたが、最低限やって当然のことだ。裏金の金額によって国会議員を辞めて公民権停止になる人もいれば、まったくお咎めなしの人もいる。こうした現状に対する国民の不信感を払拭するためにも、法改正を断行してルールを厳格化してほしい」と論じた。
さらに神庭氏が懸念を示すのは、“脱派閥”が政局に利用されている点だ。
「安倍派5人衆への離党要求が報じられているが、最大勢力の安倍派の幹部を外に追い出せば、岸田さんや麻生さんら主流派は勢いを増すかもしれない。岸田さんのライバルの1人である茂木さんの派閥も、分裂含みの不穏な状況だ」
「脱派閥で『不毛な権力争いに明け暮れるのをやめよう』となるならわかるが、実際はまるで逆。党内政局は流動化し、新たな権力闘争、コップの中の争いをやっている。皮肉な話で、ものすごく派閥的な動きが広がっている。政治とカネの問題を『脱派閥政局』にして利用しないでほしい」
■「誰が言ったか」ではなく「何を言ったか」が本質
その一方で、自民党の麻生副総裁が上川外務大臣の年齢や容姿を揶揄するような発言をしたことが批判を呼んでいる。
神庭氏は「麻生さんはべらんめえ口調で親しみやすく、カリスマ性もある魅力的な政治家だ。だからといって、何でもかんでも『麻生さんだからいいんだ』と許容していいのか。メディアは何かというと“麻生節”と表現して、適当に受け流してきた。“節”さえつけておけば免罪されるのはおかしい。メディアの思考停止の責任も大きいのでは」と指摘。
その上で「誰が言ったかではなく、何を言ったかが本質。例えば会社の上司がそんな言い方をしたら、『この時代にありえない!』となるはず。麻生さんも当然、同じように指摘されるべきだ」との考えを示した。
麻生副総裁の発言を「ありがたく受け止める」と受け流し、“黙殺”したようにも見えた上川外務大臣。
神庭氏は「若い世代からすると『もっと戦う背中を見せてくれ』『昔から戦っていれば、こんな文化はもっと早くなくなったはずだ』と物足りなく思う人もいるかもしれないが、上川さんには上川さんの考えがある。私も含めて、部外者に『怒ってください』とまで強制する権利はない。『ありがたく』に皮肉が込められているかもしれないし、あえて穏当に流すことで、麻生さんに『貸しイチですよ』と虎視眈々と考えている可能性もある」と推察した。
(『ABEMAヒルズ』より)
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